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悪戯と黄昏の刻に・第一紀(異能者の戦い)  作者: 嶋 秀
第一章(パラレル世界篇(詩音・聖月・莉空・蒼空を中心とした異能者の戦い))
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第14話(それぞれの苦戦)


別々の時間軸の幻想空間に飛ばされた異能者達。


特に蒼空と聖月、リンは、それぞれ過去の空間内で大苦戦に陥っていた。


残り少ない異能者の戦いの時間。

彼等は乗り切ることが出来るのか?

厳しい時が続いていた......


 蒼空は、聖月が飲ませた中和薬の効果で、歩けるまでに回復した。


 「ここに居ても休め無いから、何処か寺社とかの建物内に入り込もうか?」

 蒼空の提案に聖月は同意し、KM川沿いから少し市街へ戻り、塀で囲まれた大きな敷地に入ったのであった。

 「ここは......KYO御所?」

 戦乱中なので、何処も兵が多く、安寧出来る場所は見当たらない。

 それでも御所は、やんごとなき人達の御在所であるので、いきなり放たれた弓矢や振りかざされた刀剣が当たる確率は低いものと予想された。

 「聖月。 ひとまずこの場所なら休めるんじゃない? 僕達の姿は幻想空間の人々には見えないのだから」

 「うん。 とりあえずここで休みましょう」

 御所内の建物に入り込み、休む2人。


 先ずは、蒼空の傷の具合を確認する。

 再度、傷を治癒する魔術をかけてみる聖月。

 ただ、あまり効果は無いようであった。

 でも、少しだけ傷口が良くなった感じもする。

 魔術で少量の水を作り、傷口を洗う。

 「おお〜、染みる〜」

 蒼空が思わず声を上げる。

 「大丈夫?」

 心配そうな顔の聖月。

 「大丈夫、大丈夫。 続けて」

 その後、消毒をして包帯を巻き一段落。

 「ありがとう、聖月」

 感謝の言葉を告げる蒼空。

 「蒼空の傷は、全て私を護る為に付いたもの。 感謝するのは私の方だよ」

 そう言うと、聖月は思わず口づけをしてしまった。

 真っ赤になる蒼空。

 「今回、毒矢から守って貰った御礼です。 こんな場所だから、出来ること限られるから......」

 しかし、慣れないことをした聖月までもが緊張してしまい、暫く沈黙の時間が続く。


 聖月が口を開いて、

 「一つお願いが有るのだけど......」

 「なに?」

 「ちょっと、水浴びをしたくて」

 「水浴び?」

 「シャワーってこと。 次いつ、そういう時間が作れるかわからないから」

 「そうだね。 お湯は?」

 「自分の魔術で作り出せるから」

 「なるほど~」

 「お願いっていうのは、周囲から見えない様に立って欲しいの」

 「イイけど......」

 「なるべく、私の方を見ないようにしてくれれば、それで十分」

 聖月はそう言うと、敷地内の塀と木の間に向かって、蒼空の手を引いて歩く。

 そして、場所を決めて、準備を始める。

 魔術で隠していた日用品入りボックスを元の大きさに戻し、シャンプーやボディーソープを取り出す。

 「蒼空、始めるからよろしく。 蒼空も即席シャワー浴びる?」

 「俺、今日はイイや。 今、傷口消毒したばかりだし」

 蒼空が答えると、服を脱いでからお湯を出す魔術を発動して、シャワーを始めた聖月。

 蒼空は、一応周囲から見えない様に、壁になる。

 暫くすると、聖月が、

 「蒼空、ボディーソープ取って」

と声を掛ける。

 なるべく見ないように気を遣っていたが、流石に手渡す時に、聖月の全てが見えてしまった。

 あまりの美しさに、一緒固まる蒼空。

 『女神......』

 そう思ったものの、慌てて目線を反らす。

 聖月は、見られても気に留める様子は無く、手早くシャワーを終えると、風を起こす魔術を使って、あっという間に髪と体を乾かす。

 着替えを終えるまで10分も掛からなかった。

 「ありがとう。 蒼空」

 そう言うと、聖月は泡立った水浴びの場所を魔術できれいに直してから、元居た場所へと歩き出す。

 追い掛ける蒼空。

 「蒼空、見たでしょ?」

 イジワルな質問をする聖月。

 「見たじゃなくて、見えちゃったというか......」

 「こんな場所でシャワーもどきを浴びたのだから、仕方ないことだよ」

 聖月は自分のせいだと言いながらも、

 「でも、おかずには使わないでね」

 蒼空を誂う聖月。

 この時、

 『この空間に入りこんで、初めての笑顔だな』

 そう思った蒼空であった。


 この日は、平穏に過ごせた聖月と蒼空。

 ただ、翌日は慌ただしい雰囲気に包まれていた。

 「残り3日だけど、戦さが始まりそうな雰囲気だね」

 御所内にも兵士が集まり始めており、貴族や女官達は逃げ始めていた。

 「逃げ場は何処が良いかな?」

 蒼空が聖月に話し掛ける。

 「数万人規模同士の戦いだものね。 KYOの街で過去最大の戦さだから......」

 聖月が答える頃に、鬨の声が聞こえ始めた。

 そして、弓矢が周囲に落ち始める。

 「聖月、ひとまず逃げよう」

 蒼空は聖月の手を引き、御所の人々が逃げ出した方向へと一緒に移動を始める。

 ところが、その方向が相手軍の集結地であったのだ。

 弓から放たれた矢がビュンビュン飛ぶ。

 後背の御所・相◯寺方向からも、反撃の矢が放たれる。

 「聖月、危ない〜」

 蒼空が聖月の手を強く引き、その場で動きを止めてから、覆い被さる。

 無数の矢が飛び交う。

 必死にガードする蒼空。

 弓矢が何本も蒼空の体に刺さる。

 聖月も急いで防御魔術を使うが、効果は薄く、矢は魔術の防壁を突き抜けてしまう。

 「蒼空〜、蒼空〜」

 流血で意識がやや遠のく蒼空に気付いた聖月が、必死に声を掛ける。

 するとようやく、蒼空のスキルが発動し、シールドが2人を覆う。

 それに気付いた蒼空。

 「聖月、ここは戰場の真っ只中だから、場所を変えないと」

 蒼空は、聖月の手を引っ張って再び逃げ始め、御所の方に戻り、塀と建物を盾にして弓矢を防ぐことに専念する。

 「ここなら、矢は防げるけど、いずれ火が点けられて、燃え落ちてしまうだろうね。 その後は白刃戦になって、その刃をシールドや魔術で防げる保証は無いから」

 蒼空は聖月に話し掛けると、怪我が無い様子に安心して、そのまま抱き締める。

 御所の塀を盾にし、聖月を蒼空が抱き締めることで、自分の体を防壁にして、聖月を庇い続ける蒼空。


 そのまま、時間が経過。

 お互い、防護以外の意味もこもっていることに気付いており、離れる気持ちは無かった。

 やがて、御所内に居た武将や兵士達が刀や槍を手にして、南側に移動してゆく。

 「相手側の兵士が近づいて来たみたいだね」

 抱き合っている外側に居る蒼空が状況を説明する。

 激戦の只中に居ることは分かっていたが、ここは幻想空間。

 遠くに逃げるという選択肢は無い。

 激戦の場所だけが、幻想空間になっているからである。

 「逃げ場は無いよね。 大規模な戦いだから」

 聖月が絶望的な情勢を指摘すると、蒼空は一つの案を思い付く。

 「じゃあ、乱の中心武将達の側に居た方が、秩序だった攻防になるから、比較的安全じゃない?」

 その提案に同意した聖月。

 本陣は隣の相◯寺に有るので、様子を見ながら徐々に移動する2人。

 すると、立派な鎧を着けた武将達が何名も居るのが見えた。

 「ここなら、相手側が攻め寄せて来るまでは大丈夫だよ」

 「普通の異能者のスキルが有れば、防壁は難しく無いのだけどね。 私達にはそれが無いから......」

 「ということは、ツオとメイリンは何処かで、この大規模な戦いを躱しているのだろうね。 防壁陣を築いて」

 蒼空はそう言いながら、聖月を連れて相◯寺の本堂内に入り込む。

 そこも、僧兵が詰めていたりで、ガヤガヤしていたが、その奥の方に移動して、一息つける場所を見つけた。

 「聖月、大丈夫?」

 「うん、私はかすり傷一つ無いよ。 蒼空が護ってくれたお蔭」

 そう答えると、満身創痍の蒼空の姿を見て、涙ぐんでしまう聖月。

 その頭を優しく撫でながら、一眠りすることにした蒼空。

 蒼空が寝始めると、その頭を優しく包み込む聖月。

 詩音か海未、紗良コンビのどちらかが一緒に居れば、大きな問題が無かったであろう聖月と蒼空。

 3人と別行動になった上、敵2名と同じ空間に居ることで、なるべく目立たないように行動していたこともあって、大苦境に陥っていたのであった。

 


 蒼空が目覚めたのは夜中であった。

 本堂の中は、兵士も僧兵も眠りに就き、静かであったが、人の出入りも有って、戦いの最中であるという緊張感に包まれていた。

 御所・相◯寺に本陣を置く軍は、強力なO内勢を中心とする相手軍に対して、かなり劣勢であったが、初日の攻勢はギリギリ食い止めた様だった。

 ウトウトしていた聖月も、蒼空が起きたのに気付いて、目を開ける。

 「聖月。 これから話すことは大切なことだからね」

 蒼空は前置きをしてから、

 「聖月には、強力な暗黒魔術が有る。 もしこの状況でツオやメイリンの攻撃を受けたら、逃げ切るのは難しいと思う」

 「その時は、遠慮なく僕の生命力を使って、暗黒魔術の強力な攻撃か防御を放ち、聖月は苦境から脱して欲しい」

 「......」

 それを聞く聖月の顔は、今までに見たことの無い程の悲しい表情をしていた。

 「残念ながら、僕のスキルは自在に発動出来ないし、能力もそれ程強いものでは無いみたいだ」

 「だから、君を護るには命を賭けるしか無い。 どうか、この僕の気持ちを受け取って欲しい。 僕を踏み台にしてでも絶対に生き延びて。 聖月」

 そう言うと、蒼空は目を瞑ってしまった。

 涙を流し続ける聖月。

 そして、泣き疲れて眠りに落ちるのであった......



 残り2日となった朝。

 莉空は、変わらずN条城に滞在していた。

 湯水も勝手に使って、意外と快適に過ごしており、蒼空・聖月とは雲泥の差が有る環境であった。

 大広間でゆっくりしていると、会◯藩、桑◯藩の上級武将達が密談をしているのを耳にする。

 「新◯組が、倒◯派によるKYO市中での蜂起情報を入手したらしい......」

「火を放って、その間に御所から宮様を連れ出すという計画らしいぞ......」

 これを聞いた詩音が目を輝かせて、莉空に言う。

 「これって、有名な池◯屋事件の当日じゃない?」

 「そうなの?」

 「私、池◯屋に行きたい」

 「......」

 莉空の中に居る詩音は、ワクワク状態。

 こうなったら、人の言う事を聞くような子では無い。

 「分かったよ。 夜になったら向かおうか? 場所分かる?」

 「もちろん」

 嬉しそうに莉空の頭の中で答える詩音。

 「リンと遭遇したらどうするの?」

 「私の魔力、8割まで回復しているから十分対応出来るよ。 責任は取ります」

 渋々承諾した莉空。

 出発まで昼寝をすることに決めて、大広間で寝てしまうのであった。


 一方、池◯屋に滞在中のリン。

 「何だか、サムライが増えたなあ」

 そう呟きながらも、狭い旅籠の中では、刀も存分に振るえないので、一定の安心感を得られていたことから、外に出る気持ちは無かった。

 『残り2日を切っているし、この空間ではスキルが十分に発揮出来ないから、何も出来ないのは仕方ない。 予想外の展開だけど、最後は痛み分けってところかな?』

 リンの目的は、常に生き残ることが最優先。

 異能者の戦いによる陣営の勝ち負けには、全く興味が無い。

 それどころか、次回の戦いに備えて、味方をも敵に抹殺させるような老獪さを持ち合わせている。

 そういう人物なので、まだ三十代なのに、大ベテランの風格を持っていた。

 今回も最後、幻想空間に進んで入ったのは、一度体験して見たかったということだけではなく、詩音の強大な魔術を利用して、ツオかメイリンを始末させてしまおうと考えていたのだ。

 ただ、既に空間内でバラバラの行動になってしまっているし、詩音の姿も見つからないまま、最終盤になってしまったので、極秘計画の実行は諦めていた。

 「まあ、あまり味方を罠にかけて消し続けていると、最後は足元をすくわれるからな。 今回は諦めよう。 既にRU国の2人に消えて貰ったので、それで十分だ」

 この様なことを考えているということは、次回、リン自身状況によっては陣営を変えるつもりであったのだ。


 傷の治療を続けていたリン。

 時代を考えると風土病などを恐れていたが、どうも少しヤバい状態でも有るらしかった。

 体調が思わしくなく、咳が出て微熱も。

 本来なら、旅籠内の武士が増えた時点で、リスクを減らす為に場所を変える冷静な判断力を持っている人物であったが、そのまま移動しなかったところにも、具合の悪化が表れていた。


 その日の夜。

 体調が悪化の一途であるリンは、人の気配が更に増えたことで起きた。

 「おっと、随分サムライが増えたな~。 二十数名も居るのか」

 最奥の部屋に潜んでいたリンであったが、狭い旅籠内の人の多さに少し驚く。

 ただ、話し合いをしているだけであり、いきなり戦いになるような場所でも無いので、人声の聞こえにくい場所に移動して、静かに過ごし続けるのであった。


 その頃、莉空は詩音の希望通り、池◯屋の前に来ていた。

 「これから、新◯組がこの旅籠に潜んでいる倒◯派志士達を襲撃するんだよね~。 超ワクワクする」

 抜刀した刀の刃が当たらない様に、少し距離を取る莉空。

 「そんなに離れると見えないじゃん」

 詩音が莉空に苦情を言うが、

 「怪我するのは僕だよ?」

 そう答えられ、場所の移動を渋々承諾する詩音。

 暫くすると、新◯組が現れる。

 「きゃあ〜、沖◯君だ〜。 新8〜。 い◯み〜」

 莉空の頭の中で騒ぐ詩音。

 そして、戦いが始まる。

 莉空は詩音の希望で、現場の直ぐ側に迄移動する。

 飛ぶ血飛沫。

 怪我人が続出する凄惨な現場。

 刀の刃が削れる程の激しい斬り付け合い。

 緊張が走る。

 急襲に対応出来ず、池◯屋から逃げ出そうとする倒◯派志士。

 多くの負傷者が出て、瀕死の者も。

 莉空は、あまりの状況に目を逸らす。

 「莉空が目を逸らしたら、私も見えないじゃん」

 詩音に怒られる莉空。

 その時であった......


 一方、池◯屋内にて静養中だったリン。

 いきなりの襲撃に飛び起きる。

 建物内で刀が振り回される。

 何とか間一髪で躱していたが、幻想空間の人物に対して、異能者のスキルは無効であり、ひたすら避け続けるしかない。

 しかも、自身が狙われている訳では無い太刀筋をかわし続けるというのは、余計に難しい。

 この時代の訓練を受けたサムライの剣は鋭く、何筋かリンの体が斬り付けられてしまった。

 体調不良もあって、運動能力が大きく落ちていたのもあるのだろう。

 「裏口に逃げ出したサムライは待ち伏せで殺られているだろう。 広い表口から出るしかない」

 そう考えたリンは、重傷の身を引きずりながら、なんとか這い出す。

 そして、新◯組が立ち塞がる表口から脱出したものの、その場で倒れてしまった......


 池◯屋の中から出て来て、道上で倒れるリンの姿を見つけた莉空。

 「リン?」

 「まさか、池◯屋の中に潜んでいたの? 彼の運もこれまでだね」

 「あんなに狭い空間で、訓練された腕の有る武士に、刀を振り回され続けたら、かわし切るのは無理だよ」

 そう言いながら、怖いもの見たさで直ぐ横に近付いた莉空。

 「自業自得。 ここで死ぬのなら、彼もそれまで」

 詩音は冷たく言い放つも、莉空は異なる考えの様であった。

 「確かに憎き敵かもしれないよ。 でも彼は、現実世界だと同じ陣営の人だよね。 そう考えると、ここで見捨てるのも......」

 「莉空は、助けるべきだと言うの? 助けても、次戦ったら、平気で私達を殺す様な人物だよ?」

 「それでも、今回だけは助けるべきだと思う。 異能者の戦いでの大怪我なら助ける必要無いけど、幻想空間の不慮の事故でしょ?」

 「......」

 「それに、大きな貸しを作ることが出来るかもよ」

 「貸しか〜」

 その言葉に大きく反応した詩音。

 暫くすると、魔術を使って、リンの体を池◯屋の前から移動させる。

 「あと1日だし、応急処置ね」

 そう言うと詩音は、傷を修復するエンブレム魔術を使う。

 あっという間に血が止まり、傷が塞がる。

 「既に、細菌かウィルスに侵されているね。 この間私達と軽くやり合った時に、後ろから武士に斬り付けられて感染したのでしょう。 それは現実世界に戻らないと治療の方法が無いね」

 詩音はそう診断すると、魔術で近くの旅籠の中にリンの体を移動させる。

 そして、布団の上にリンの体を静置させると、その場を立ち去るのであった。

 外に出て戻ると、池◯屋の前には、新◯組応援部隊の◯方隊も到着しており、鬼の副蝶の姿を見た詩音が、「トシ〜」と叫んで再び大興奮している。

 「間もなく日付が変わって最終日になるけど、KYO市中は、この事件で大捕物が相次ぐから、不慮の斬り付けに気を張らないと」

 詩音は、莉空にそう説明すると、リンを移動させた旅籠とは別の旅籠に入り込み、休養を取ることにしたのであった。

 凱旋を見る為に。


 翌朝。

 今回の異能者の戦いも最終日。

 幻想空間内のこの日のKYO市中は、新◯組の大手柄を見ようと、朝から市中が大騒ぎとなっていた。

 通りに多くの民衆が、その勇姿を一目見ようと繰り出している。

 明るくなってから、屯所に移動を始める隊士達。

 莉空も民衆に紛れて、その様子を見学する。

 「人々の興奮が凄いね」

 佐◯派や新◯組に、批判的な人も多いのが当時のKYOの民衆の実情であったらしいが、それでも市中の道筋が人々で溢れたのは、お祭り騒ぎが好きなNH国の国民性もあるのだろう。

 

 見学を終えてからは、市中では会◯藩や桑◯藩、新◯組による倒◯派志士への弾圧が始まった。

 あちらこちらで、潜伏していた志士が見つかり、抜刀した武士同士の戦いが発生する。

 巻き込まれないように莉空は気を遣って歩くが、一度だけ刃が掠めてしまった。

 ギリギリで斬られずに済んだが、N条城に戻るのもこの日だけは危ないと考え、リンを置いてきた旅籠に入ることにした。

 2階に上がり、リンを静置した部屋に入ると、大怪我による後遺症と熱にうなされているリンを確認する。

 「こんなことになるとは、流石のリンも思わなかっただろうね」

 詩音は感想を述べると、魔術を使って、包帯を交換する。

 「眼の前で死なねるのも、気分が悪いから......」

 莉空にそう理由を説明すると、戦いが終了する24時迄、この場で様子を見続けることにした。

 莉空は、携行していた食糧を食べながら、監視を続ける。

 リンに水を少し飲ませてやりながら......


 夜になって、うなされていたリンの意識が戻った。

 枕元に座る莉空の姿に気付くリン。

 自身の体を見ると、傷口が塞がれ、包帯も巻かれていた。

 「これは、君が?」

 リンが莉空に質問する。

 頷く莉空。

 「私は君達の敵だぞ?」

 「でも、明日からはビジネスで付き合いの有る経営者同士ですよね?」

 「経営者? 君は......」

 「僕じゃなくて、詩音ですよ。 経営者っていうのは」

 「5年後には、そういう立場なのかな」

 「そういうことです」

 「私の傷口が塞がっているが......」

 「それは、詩音の魔術です」

 「でも、シオン・アキヅキの姿が見えないが......」

 「僕が詩音ですから」

 「......」

 「......」

「そうか、君がシオンだったのか。 だからこの間魔術が使えたのか」

 ある程度納得した様子のリン。

 キチンとは理解しきれていなさそうだが、そこまで説明する義理も理由も無い。

 「それで、今日は?」

 「2052年8月19日の午後9時過ぎです」

 「そうか、残り3時間か〜。 今回もやっと終わる......」

 「そうだ。 今なら、私のクビを取れるぞ。 殺らないのか?」

 「大怪我の貴方を助けたのですから、殺す気は無いですよ。 それに僕は貴方と因縁ありません。 詩音は前回で少し因縁があるようですが、その因縁、NH国出身の異能者『修豪』が死んだのは、詩音だけの因縁という訳でもありませんから......」

 「前回、彼を殺ったのは俺じゃ無いぞ。 君達が函D市内で倒したRU国の2人だよ」

 「そうなんだって、詩音」

 「初耳です。 それは」

 「因みに、俺は今まで敵陣営を一人も殺していない。 瀕死の重傷に追い込んだのは沢山居るが、因縁を作りたくないので、トドメを刺すようなことはしないからな」

 「RU国の2人は?」

 「あれは、死は避けられない状態だったから、楽にしてあげただけだよ。 ただ、あれでRU国の異能者達と因縁が出来てしまったけどな」

 リンは、そこまで話すと、静かになった。

 傷の具合が悪く、少し話しをしたら疲れた様だ。


 暫くリンの様子を見ていた莉空。

 熱が上がったみたいで苦しそうだ。

 簡単な魔術で氷を作りだし、旅籠内に有った革袋に入れて、リンの枕とする。

 すると、少し楽になった様だ。

 「異能者の戦いも、間もなく終わりだけど......聖月と蒼空は無事なのかな?」

 莉空は詩音に話し掛ける。

 「うーん。 その2人が今、危ないんじゃないかな。 私も莉空も少し予知能力が有るでしょ? 何か予知のビジョンが見える気配を感じるんだよね」

 「僕も、そんな感覚がきたんだよ。 今」

 すると、2人に同じビジョンが見えた。

 それは、幻想空間が急激に破壊されるものであった。


 危機を感じた詩音が、魔術を唱え始める。

 「天空の女神ヘカテーよ、地底の精霊達と精霊の魔術師エリンよ、我にその力を貸し給え。☓☓☓☓☓☓☓☓☓☓☓☓☓☓『アルテミス・イスカチェオン』」

 防御魔術が莉空とリンを包み込む。

 その数秒後、今迄居た幻想空間が他の空間に飲み込まれいったのであった。

 リンも異変に気付き、体を起こして、周囲を見渡す。

 「これは、いったい......」

 「詩音の防御魔術の中です」

 そして、リンは漆黒の空間を見て呟いた。

 「この空間は......『ダークネス・レヴェリー』だ」

と。

 

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