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悪戯と黄昏の刻に・第一紀(異能者の戦い)  作者: 嶋 秀
第一章(パラレル世界篇(詩音・聖月・莉空・蒼空を中心とした異能者の戦い))
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第11話(幻想空間)


莉空や詩音達は幻想魔術に掛かり、海未と紗良が幻想空間に取り残された。


詩音の魔術で、空間から離脱出来た聖月と蒼空。

取り残された2人を救う為に、どうすべきか。

聖月は迷うことなく、一つの道を選択する......


 海未と紗良は、車を降りた途端、見たことの無い景色に遭遇していた。


 「ここは、いったい?」

 アスファルト道路だった筈の場所は、赤黒い熱を帯びた岩に変化していたのだ。

 「地面が熱い。 それに車は?」

 紗良が大きな声で海未に話し掛ける。

 1メートルも離れていないのに、車が無くなっていたのだ。

 「全てがおかしい......」

 確かに、地面を触ると非常に熱く感じるが、その上に立っている海未と紗良の体が焼ける様なことは無い。

 「感覚的に熱く感じるけど、物理的には熱くなっていないってことだね」

 海未が冷静に判断する。

 「車の4人は大丈夫かな?」

 紗良が不安を掻き消す為、他の仲間の心配をして気を紛らわそうとするが、表情は非常に暗い。

 「あっちには詩音が居るから大丈夫だよ。 多分、瞬間移動魔術を使って脱出したと思う」

 「そうなると、詩音の魔力が回復するまで、3日は助けが来ないってことね。 海未の装備にはどれぐらいの食糧が有る?」

 「携行食で一週間分有るよ。 水が少ないのが問題かな?」

 「私は水が2本。 やっぱりそれが最大の問題だね」

 2人合わせて、水を2リットルしか持ち合わせていないのが、喫緊の問題点であった。

 「食べると水分が欲しくなるから我慢しよう。 動くのも、とりあえず控えようか?」

 海未の提案に、紗良が同意したので、少し冷えた溶岩の場所を探し出すと、座りやすく岩を攻撃スキルで加工し、休むことにしたのだった。


 「しかし、暑いね」

 霧が掛かっているので、FJ山の様子は見えないが、噴火しているのであろう。

 「これは、ファエサルの魔術なのだろうね。 時間を戻す魔術なのかな?」

 「タイムトラベルやタイムマシン的なものは、魔術でも出来無いって詩音に教えて貰ったよ。 それが有ると歴史を変えることが出来てしまうからだって」

 「そうなると、これは幻?」

 「多分、幻覚。 でも実際に熱いって感じるから、相当リアルで、しかも簡単には抜け出せない、迷宮の様な幻術だろうね」

 「ファエサルって、敵陣営イチの魔術師でしょ? 異名があったよね?」

 「......」

「幻想の魔術師」「幻想だよ」

 2人は同時に思い出して、口にしたので笑ってしまった。

 「ああ、これ幻想の世界か〜」

 「だから、幻想の魔術師なのね。 納得」


 「そうだ。 他に走っていた車の人達は?」

 「ほら、あの辺りの人影がそうじゃない?」

 霧は全体的に掛かっているが、視界ゼロという訳では無い。

 100メートル位の視界は有り、道路以外に人家も何も無い場所なので、巻き込まれた人達は、海未と紗良の周辺に居たのであった。

 「あの人達は、明日になったら消えているの?」

 「異能者の魔術に巻き込まれたら、魔術が解けないと、元に戻れないと思うよ。 異能者以外は、たとえここで死んでも、魔術が解けた翌日には、普通に生活しているのだから、気にする必要は無いよね」


 その後、2人は一緒に座ったまま、静かに時が過ぎるのを待つ。

 暑さの中、喉の渇きを我慢し、ひたすら耐える。

 「せめて、聖月が居てくれたら、魔術で溶岩から水を作って貰えるのに......」

 海未が残念そうに話す。

 「そうね」

 紗良が短く答える。

 『3日耐えられるかギリギリだな』

 この時点で2人共、その様に考えていた。


 

 聖月は蒼空と一緒に、霧の境目に到着した。

 「装備は持った?」

 「もちろん。 車の中に残されていた先輩達の装備も持ったよ」

 「じゃあ、入ろう」

 手を固く繋いで、勇気を持って霧の中に入った2人。

 一度入った以上、引き返すには、この魔術を解くしか方法が無いということは分かっている。


 「やっぱり、溶岩が流れているね」

 「魔術の中は、大昔ってこと?」

 聖月が溶岩を触ると、熱くて手を触れられないほどであった。

 しかし、本来なら焼け焦げてしまう筈の2人の肉体が、その様になることはない。

 「不思議な魔術。 これを体験すると、ファエサルっていう魔術師の能力は、詩音ちゃんに匹敵すると思う」

 魔術での幻想世界だと分かっていても、これ程のリアルさ。

 しかも、広範囲にこんな世界を生み出せるって、本当に凄い。

 同じ魔術師として、感嘆するばかりの聖月。

 「ひとまず、先輩達を見つけないと」

 「恐らく、この暑さだと、水が問題でしょうね。 圧倒的に、水が足りない筈だから」

 回復魔術師である聖月は、他の物質から水を作り出すことが出来る魔術を使う能力がある。

 だから、早く合流してあげないとという焦りが少し有るのだった。


 「魔術の範囲は、どれぐらいの大きさなのだろうね?」

 蒼空が聖月に尋ねる。

 「2キロ四方ぐらいじゃないかな? いくら『幻想の魔術師』と言われる人でも、魔術の効力を及ぼす範囲には自ずと限界が有るから」

 「もちろん、ただの2キロ四方じゃないよね?」

 「迷宮の2キロ四方だよ。 それは間違い無い。 同じ場所をぐるぐる回ってしまう様に、魔術で調整されちゃうんだよね」

 「どうやったら、先輩達に合流出来るだろうね。 GPSでも付いていればなあ~」

 「そう、それだよ。 GPS」

 そう言うと、聖月は眼鏡を掛けて、レンズに映し出された自身の携帯端末の画面を確認する。

 「GPSは、機能しているみたい」

 そう言われて、蒼空も自身の時計型端末を確認する。

 「本当だ。 俺達一本道の道路上に居るね」

 「恐らく、先輩達も本来の道路上付近に居る筈だから、GPSを頼りに、地図上の一本道を歩いて進んでみようよ」

 聖月は蒼空に提案し、実行に移す。


 しかし、なかなか先に進まない。

 地面が溶岩で非常に歩きにくい上に、魔術の効果で、真っ直ぐ歩いているつもりが、いつの間にか同じ場所をぐるぐる回る様になってしまう......

 「これが、魔術の効果なんだね。 全然真っ直ぐ進めないなんて」

 埒が明かない様子に、莉空も焦りを見せる。

 「私も少し魔術を使ってみるかな?」

 聖月は急にそう言うと、

 「蒼空の力を少し使わせて」


 「もしかして、あれを?」

 蒼空のその質問に対して、聖月は、

 「私は『回復の魔術師』だから、生命力の回復以外だと攻撃と防御の魔術が3種類ずつ、水を作り出す魔術、食糧を作り出す魔術、それに物の伸縮拡張に、冷却と加熱する魔術ぐらいしかレパートリーが無いの」

 「それ以外は、蒼空もその存在を知ったばかりの暗黒魔術が数十種類。 その中に、『コンパス』っていうオマケみたいなのが有るから、それを使いたいなって」

 「わかった。 暗黒魔術は他人の魔力や生命力を利用するのだよね?」

 「コンパスなら、ほんの少しの消耗だから。 イイかな?」

 「このままだと、無駄な体力を消耗するばかりだし、お願いします」


 蒼空が承諾すると、聖月は禍々しい呪文を唱え始める。

 そして、眼の前にコンパスが現れた。

 「道路は、ほぼ北西方向だから」

 聖月は、眼鏡のレンズに映し出した端末の地図を見ながら、魔術で出したコンパスの方角を合わせる。

 「それじゃあ、蒼空。 コンパスが指している方向に出発」

 聖月は合図をして、蒼空の手を握ると、歩き始める。

 コンパスの指す方角は、何だかグネグネ、ぐるぐる歩いている感じだが、これが真っ直ぐ歩いているということになるのだ。

 時々、GPSを確認すると、格段に進んだことが分かる。


 それでも、2時間程歩いただろうか。

 「あっ。 この場所」

 蒼空が地面に落ちていたものを見て、声を上げる。

 そこには、海未先輩が運転中に飲んでいた清涼飲料水のボトルが落ちていたのだ。

 それも、半分くらい残っている状態で。

 「この場所が、車を止めたところだと思う。 この飲み物を海未先輩は車内で飲んでいて、ドアポケットに入れてたから」

 「霧に包まれて、ドアを開けて降りた時に落ちたのね。 そういうことだと......」

 聖月は周囲を見渡す。

 しかし、海未と紗良の姿は見当たらない。


 「こういう時は」

 聖月はそう言うなり、周囲に簡単な攻撃魔術を放つ。

 すると、1箇所で魔術が防御されたのだ。

 「あそこに、居るわね」

 その防御された方角に、ほんの少し進むと、

 「聖月〜、蒼空〜」

 海未が先に気付いて、2人に抱き着いて来た。


 「よく、ここに辿り着けたなあ〜」

 海未が感心している。

 紗良は目を潤ませて、非常に嬉しそうだった。

 「とりあえず、水を作りましょう」

 聖月は回復魔術の一つである『ウオーター』をエンブレム発動。

 すると、海未と紗良が座っていた溶岩の窪みに、溶岩が変化して水が溜まる。

 「直ぐ蒸発しちゃいそうなので、空のボトルに入れて下さいね」

 海未と紗良は、喉が乾き飲み干して空になっていたボトルに、その水を入れたのであった。


 「蒼空君、荷物重かっただろ? ありがとう」

 蒼空は、車から持って来た海未と紗良の荷物をそれぞれ手渡す。

 「さて、問題は戻る方法だね」

 既に、この魔術に掛かってから、数時間が経っていた。

 「聖月と蒼空君。 2人共、トイレ行きたいんじゃない? 直ぐ横にスキルで作った溶岩トイレが有るから、用を足してよ。 話はそれからにしよう」


 全員が落ち着いてから、状況を確認し合う4人。

 「やっぱり詩音は、瞬間移動魔術を使ったのか。 あれを使うと3日間くらい魔術が使えないって言ってたよね。 すると、このまま待機した方が良さそうだな」

 海未がその様に提案する。

 「忍耐力が必要ですが、当面は詩音と莉空が目覚めて、この魔術を解く方法を見つけてくれる迄、待った方が良いでしょうね」

 聖月も海未の提案に同意する。

 「荷物を持って来てくれたし、聖月の魔術も有るから、異能者の戦い終了迄、残り10日ぐらいだし、ここから出られなくても十分耐えられると思う」


 その意見を聞いたことで、ふと疑問が湧く。

 「もし、このまま戦いが終了したら、どうなるのですか?」

 蒼空が質問すると、

 「終了の24時ちょうどに、強制的に現実世界へ戻される筈だよ」

 海未が素朴な疑問に自身の考えを答える。


 「問題は、この魔術がどれぐらいの日数維持されるのかですね」 

 新たに一つの疑問が投げかけられると聖月が

 「恐らく、効力の期間が設定されている筈です。 どうもファエサルはこの場に居ない様ですから、自動的に終了となる魔術なのでしょう。 それまでに、この魔術を解くか抜け出さないと、死を迎える可能性も有ります」

 「そんな......」

 蒼空の言葉に、聖月は続ける。

 「ファエサルがこの場に居ないということは、彼もこの世界に入ってしまったら、抜け出せないってことだと思います。 そして、この過去を映し出している巨大空間が消える時に、どれ程のエネルギーを消費するのかを計算すると......中に残った人々も、それに巻き込まれたら、ひとたまりもない可能性が高いですね」

 「じゃあ、何とか早く抜け出せないとダメってこと?」 

 紗良が引き攣った表情で、結論を述べる。


 聖月は今後の方針の結論を出す。

 「とりあえず、3日待ちましょう。 詩音ならこの幻想魔術を解くことが出来る、強力な魔術を持っていそうですから」

 「......」

 「それでも、ダメなら」

 「ダメなら?」

 「みんなで一緒に考えましょう」

 聖月の答えに期待していたので、ガクッとする海未と紗良。


 しかし蒼空は、

 『恐らく、暗黒魔術の中に、幻想魔術を解くことが出来るものが有るのだろう。 出れる見込みが有るからこそ、聖月はこの中に入ったのだろうから......』

 蒼空は、聖月の心の迷宮を巡ったことで、聖月が考えていること、聖月の行動原理を理解出来る様になっていた。

 基本的に石橋を叩いて渡る性格で、思慮深く、一か八かの冒険をすることは、決して行わない思考回路の持ち主であるのだと......


 

 あまり動き回り過ぎると、今居る場所にも戻れなくなるので、基本的にはじっとしているしか無い4人。

 ただ、溶岩の熱さを感じるので、その暑さが非常に辛い。

 詩音が救出策を見つけることが出来なかった時に備えて、体力の消耗を避ける為、横になって過ごす。

 「時間が経たないね~」

 蒼空はボヤくが、確かに何もすることが無いので、時間の流れが非常に遅く感じる。

 携帯端末の電波は届いているので、時間軸が過去に移動した訳では無い。

 ただ、幻想を見せられているだけなのだ。

 海未と紗良は、予備電池を沢山持っているので、端末を弄って時間を潰している。

 時間が経っても、周囲の様子に変化は無い。

 霧が掛かったままであり、少しずつ固まっていない溶岩が動いているだけであった。



 その頃ファエサルは、移動先で幻想魔術のその後の様子の報告を鴉から受けていた。

 「彼等のうち2人が幻想魔術に掛かった様ですね」

 状況をリンに話す。

 「シオンは?」

 「解除は出来なかったものの、脱出したとのことです。 鴉の見た状況だと、瞬間移動魔術を使って脱出したと見るべきでしょう」

 「瞬間移動魔術?」

 「超難易度の魔術です。 恐らく現在使えるのは、シオンだけでしょう」

 「ファエサル殿でも?」

 「無理です。 私如きでは......」


 「我々にとって現状は、予想以上の成果の様ですが」

 「流石のシオン・アキヅキでも、幻想魔術の解除法は今のところ無いと見るべきでしょう。 あくまで今のところですが......」

 「今のところか。 初めて見た魔術だからってことで?」

 「そうです。 対策を確立される迄の間だけでしょうね」

 「ファエサル殿は、あの幻想魔術を解除出来るのですか?」

 「解除しません。 あれは解除時にエネルギーを大吸収するので、魔術を施した術者である私は死んでしまいます」

 「それでは......」

 「幻想魔術は、一定期間経つと自動解除されます。 その時、空間が激しく歪んでエネルギーを大量吸収するので、非常に危険なのです」

 「ファエサル殿が遠く離れたの理由って......」

 「リンさんの想像通りですよ。 私が近くに居れば、魔術が解除される瞬間、先ず術を施した私のエネルギーを吸収するのです。 ですから、一度あの魔術を放ったら、近付くことは危険過ぎて出来ません」

 「なるほど~」

 「今後の予定ですが、前にも話した通り、今回の異能者の戦いの締めに、NH国の旧都であるKYOに、もっと大規模な幻想魔術を仕掛けます」

 「今のところ、シオンでも簡単に解除出来ないのですから、予定通りでいきましょう」


 その話を思い出したリンは、ファエサルに確認をする。

 「その世界に、私やツオ、メイリンが入り込んでも構わないですか?」

 「それは構いませんが......。 かなり危険ですよ」

 「三十日経てば、強制的に現実世界に戻されますよね? ファエサルさんの幻想魔術の世界に居た場合でも?」

 「そうですが......」

 「じゃあ、決まりです。 幻想世界で戦うのは、非常に面白そうですから」

 「リンさんらしい考えですね。 まあ色々な思惑を含んでの決断ですよね?」

 「ファエサル殿に、隠し事は出来ないですからね。 既にお見通しの様なので」

 「私は、最後の幻想魔術を放ったら、本国に戻ります。 近くに居ることが出来ませんし、転進依頼も来ているので、それに応えなければなりませんから」

 「わかりました。 では準備を始めましょうか?」

 

 

 莉空(とその中の詩音)は、2日半程経って、漸く目覚めた。

 「とりあえず、トイレ」

 莉空は膀胱がパンパンで、今にも漏らしそうであった。

 「ちょっと、莉空。 今は止めて〜」

 「もう、無理」

 車のドアを開けると、物陰でする莉空。

 詩音は、融合魔術使用中、目を閉じる様なことは出来ない。

 そういう訳で、全部見てしまった......

 「莉空〜、全然止まらなかったね」

 「お見苦しい姿を見せてしまって、スイマセン」

 「仕方ないよ。 生理現象だもの......でも、純潔の身には少し衝撃でした」


 「ところで、あの魔術、どうしようか?」

 「解除方法を見つけないとね」

 「アルテミス・イスカチェオンが効かなかったのでしょ?」

 「うん。 こんなの初めて」

 「他に切り札は?」

 「無いよ」

 「じゃあ、どうする?」

 「とりあえず近付いて、色々攻撃魔術を試してみようか?」


 「ところで、私達の会話」

 「?」

 「他の人が聞いたら、全部莉空の独り言だよね?」

 「確かに」

 そう言って、苦笑いする莉空。

 そして、万が一に備えて、融合したまま、霧が包む世界の前へと向かうのであった。


 莉空(の中の詩音)は、早速幻想魔術の空間に向けて、攻撃を始める。

 『ドラゴン・ファイア』

 『ゴッド・ファイア』

 『ヘル・ファイア』

 火焔攻撃魔術の3種類を放ってみたものの、特にこれと言って効果は無く、焰は虚しく空間を通り抜けただけであった。

 『ミョルニル(トールハンマー)』

 『ブラッド・サターン』

 『トルネード・ストーム』

 続けて、種類の異なる気象系攻撃魔術等を見舞ってみても、手応えは無く、一時的に空間を裂いただけで変化は見られなかった。

 そこで次に、

 『ブラッディー・イーグル』

を発動し、上空から確認してみる。

 霧が包みこんでいる範囲は、ほぼ立方体で1辺が約2キロ。

 この立方体を外側から調査すると、地面上の四隅に、何らかの生け贄が捧げられている状況を発見し、どちらかと言うと、古代系魔術に属するものだと推測された。


 「この生け贄を破壊すれば、魔術が解けそうだけど......」

 「中に居る人は、戻って来れなくなる」

 「これだけの大きさだと、膨大なエネルギーを使っているのだよね?」

 「それが消滅する時のエネルギー量を考えると、中に居る人間の肉体は一瞬でバラバラになるかな?」

 「ということは、中から助け出すしか無いよね」

 「でも、中に入ると、出れなくなる危険性が有るから......」

 莉空は融合している詩音と会話をしているが、やはり独り言になってしまっている。

 「最終手段は、4人と合流して瞬間移動魔術で出ることかな? 車ごとでも成功しているから、多分救出出来る筈」

 「でも、魔力の消耗が激し過ぎるから、本当に最終手段だね」



 その後、詩音は莉空の中でずっと考えていた。

 何か方法が有るのでは無いかと。

 外側から、破壊する方法は見つけたが、それは中に仲間が居ない時では無いと、実行出来ない。

 今回の場合は、やはり中に入るしか無い。

 ただ、闇雲に入っても良いのか......

 それをずっと、考えていた。

 「莉空。 精霊の魔術師と会いたい」

 詩音が莉空の中で、莉空の心に話し掛けた。


 すると、

 「何? 詩音、私に用?」

と突然エリンが現れる。

 「どうして、莉空のお母様が......」 

 詩音が驚いた様子を見せる。

 「ここは、神々達の世界。 貴方が幾らでも魔術が使える様に、現実世界で死んだ私でも、こちらの世界では魔術の女神の分身として登場することが可能なの。 我が子の精神世界の中でのみだけどね」

 「一つ尋ねたいことが有るのですが......」

 「幻想魔術を解きたいってこと?」

 「はい」

 「詩音も変わったわね、今回の戦いで。 私が長い間、莉空の中からこっそり見て知っている以前の詩音だったら、他人に意見を求める様なことはしなかったもの」

 「えー、私ってそんなに独善的な人間でしたか?」

 「そこまでは言わないけどね」

 「それで......」

 「幻想魔術を解除する方法は無いわよ」

 「......」

 「何故だと思う?」

 「魔術の系統が違うから?」

 「その通り、流石〜」

 「あの魔術は、神々達の時代より前から存在する古代の魔術ですか?」

 「まあ、そんなところね」

 「では、どうしたら」

 「それは答えられないの、現時点では。 ごめんね」

 「しかしファエサルは、どうしてそんな魔術を使うことが出来るのですか?」

 「神々にも色々と居るでしょ? だから『神々達』って複数人称で呼称しているの。 ファエサルが教わった魔術の一部は、女神の系統では無いのですよ」

 「その答えを貰えて十分です。 ありがとうございました」

 「自分達で解決するのが戦いのルール。 悪く思わないで。 詩音に会うのも、これが最後かな? 莉空のことを頼みますね。 私は早く死に過ぎて、母として失格だから、頼むことしか出来ないの......」

 そう告げると莉空の母である『精霊の魔術師』エリンの残留思念は姿を消した。


 「さて、莉空。 私達も行きますか? 幻想魔術の世界へ」

 「母と話して、決心がついた様ですね」

 「迷っていても、解決しないからね。 背中を押して貰えたよ」

 「らしく無いですからね。 迷う詩音さんは」

 「でしょ? それと」

 「はい?」

 「そろそろ、『さん』付けを止めてよね。 同級生なのだから」

 「わかりました、詩音」

 「じゃあ、このまま行くよ~」

 莉空の中の詩音が気合いを入れると、莉空は走り出して、霧の中に入って行った。

 解決策の無いままだったが、『仲間を助ける』の一念だけ。

 でも、行動理由としてはそれで十分であった......


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