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悪戯と黄昏の刻に・第一紀(異能者の戦い)  作者: 嶋 秀
第一章(パラレル世界篇(詩音・聖月・莉空・蒼空を中心とした異能者の戦い))
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第10話(幻想魔術)


特別な移動の足を持たない莉空や詩音達。

敵側の小細工で、なかなか先に進まなかったが、漸くFJ山の付近に辿り着いた。


ここには、敵側の最高の魔術師ファエサルの強力な魔術の罠が仕掛けられていた......


 OD原城付近に滞在していたリン達。


 ファエサルの魔力と体力が回復したのは、3日後であった。


 「いやあ〜、あの魔術はとんでも無く魔力を消費するから。 リンさんご迷惑をお掛けしました」

 「いえいえ。 シオン達を足留めする効果は大きかったですよ。 あれから3日経ちましたが、まだここに到着して居ないですから」

 「小細工の魔術の方が、彼等には効果絶大だったようですね」

 時間差で濃霧が発生する魔術を、事前に100箇所以上仕掛けていたファエサル。

 その為、公共交通機関の止まった効果が大きかった。


 「先程、この街に到着したようですから、新たな準備を進めています」

 リンはそう答えると、箱N山の険しさによる西上ルートの少なさを利用して、更に足留めする計画を進めていた。

 「既に、メイリンとツオを山中に隠れさせています。 彼等が西方に進み始めたら、全ての道路を破壊して、足留めしますよ。 まあ1日しか効果がありませんけどね」

 「それを繰り返すしか無いでしょう。 我等は時間切れを狙っているのですから」

 「ナタリーさんには、次の戦いの場に移動して貰いました。 ゆっくり力を回復して貰うために」

 「誰か、やられたのですか?」

 「ちょっとした小細工に、ツオとメイリンが重傷を負ってしまって」

 「そうですか。 回復魔術は消耗が激しいので、もう少しナタリーさんの負担を減らさないと、最後迄保てないですね」

 ファエサルは、ナタリーの体力と魔力の消耗をかなり心配していたのだった。


 「しかし我々異能者は、自分達の戦いで人類の未来を決めていると思っている者が多いですが、実は現実世界に於いて、名も無き人物達の活躍で、陣営が決められてしまう場合もある訳ですよ」 

 「確かにそうですね」

 「基本的に我々は、生まれた時に国籍が決まっていて、陣営を選べない。 私とファエサル殿、それにシオンの様に、二重国籍を有する者は、場合によって選ぶことも出来ますが」

 「......」

 「異能者の陣営は、現実世界の同じ国籍の人々次第。 その時代の考えや動きで急に変わることもある。 メイリンやツオみたいに全体主義陣営から変われない者も居る。 そういった意味で案外、現実世界の人々に縛られていて、持ちつ持たれつの関係になっているのです」

 「流石、リン殿。 生き残る為に、他の異能者が考えないようなことまでをも、視界に入れているのですね」

 

 「次回の異能者の戦いは、だいぶ先になるでしょう。 今回が前回から2年という異例の短期間だったので、8年前後先の未来かな? そうなると一部の異能者は、今回の敵が味方になり、味方が敵になる。 そういう変化を現時点である程度、私なりに予想しての、今回の後半の作戦なのです」

 「ふふふ。 リンさんの予測によると、次回私とリンさんは敵ですか?」

 「いやあ〜、次回も味方で有って欲しいです」

 「ワハハハ。 多分そうなりますよ」

 ベテランの異能者同士らしい深い考察と、生き残りつづける為、近い未来を先読みした動きを既に見せ始めているリンとファエサルであった。

 


 18日目に、やっとOD原市内に入った詩音達6人の一行。

 「濃霧による道路の大渋滞の連発で、予定より遅くなっちゃったね」

 莉空が詩音に話し掛けると、

 「もう、ファエサルも回復しているでしょう。 完全に予定が狂ってしまった」

と嘆いていたが、将来のことを考慮してリン達が次の罠を順次仕掛けつつ、遅滞戦術を用いて、徐々に引いているとは予想していなかったから、嘆くのは致し方ないとも言える。


 「途中で襲って来るかなと思っていたけど」 

 紗良が何事も無く到着出来たのが、予想外の展開だと言うと、

 「ナタリーの力を使い過ぎているから、なるべく大怪我しない作戦を取っているのだと思う。 三十日間の異能者の戦いで、重傷者だったら12人、重体者だったら6人が一応回復の限界の目安だから」

 回復の魔術師である聖月ならではの理由を説明する。

 「敵は、箱D市内の戦いで、重体2人、重傷1人。 東KY都内の戦いで、重傷2人。 そうなると、あと重傷者5人の回復が限界?」

 蒼空が聖月に尋ねると、

 「そこまで、単純な計算じゃないけどね」


 「さて、ここからはレンタカーを借りて、移動しましょう」

 詩音が次の段階への準備を指示。

 万が一の為に、乗ってきた自転車を魔術で縮小して、一緒にワンボックス車へ積載する。

 「途中で、攻撃を受けるかな?」

 少し心配そうな海未が運転席に座り、自動運転で出発した一行。

 助手席は紗良、中央部の座席に蒼空と聖月、最後部座席に莉空と詩音が座ることになった。

 当面の目指す目標はFJ山。

 そこにある敵の大きな方陣を撤去し、味方の方陣を設置するという目的が有るのだ。


 走り出してOD原市内を出たところで、急に渋滞が酷くなり、進めなくなった。

 「がけ崩れみたいだよ」

 情報を収集した結果を莉空が詩音に話す。

 「また、インフラの崩壊? 国が貧しくなると老朽化インフラの補修をあと回しにするせいね」

 詩音らしい言い方で、東KY都内を出てから先に進めないイライラをぶつけていたが、

 「他の迂回路も、みんな道路が崩れているって」

 莉空が更に調べた結果を話すと、

 「これはリン達の攻撃だね。 FJ山方面に進ませない為の作戦か〜。 だからOD原に居たのね。 ここから先はルートが限られるから......直接攻撃なら防ぐことも出来るけど、間接攻撃に、これ程の効果が有るとは思わなかったわ」

 「東KY都内から出る時もそうだったけど、徹底した渋滞作戦っていうことか〜。 眼の前で起きれば対策もあるけど、10数キロ先で妨害されると、何も出来ないね。 どうする?」

 海未が詩音にルート変更を求める。


 少し考えた詩音。

 「仕方ないなあ~、大きく迂回しよう。 Y梨県側からFJ山に入ろうかな? 私も魔術を使ってリン達に先手を打つか〜」

 すると詩音は、莉空にピッタリくっついて隣に座る様に指示をした。

 そして、莉空に抱き着くと、融合魔術を使って莉空と一体になる。

 初めてその様子を見た、海未と紗良は少し驚く。

 「先輩達2人は、運転に集中して」

 莉空が指示したので、ビックリする2人。

 「今、喋ったのは詩音さんです」

 「そんなことイチイチ言わなくて良いの」

 「でも......」

 「やること有るから、無心になって」

 傍から見ると、莉空が1人で喋り続けているので不思議だ。

 思わず笑ってしまう4人。


 「ちょっと、集中させてよ〜」

 莉空の声で詩音が話すので、また笑いが起こる。

 そして、莉空(の中の詩音)が、唱文を呟き始める。

 『天空を支配する女神よ、地底に眠る精霊達よ、願わくば我にその聖なる力を貸し給え。 ☓☓☓☓☓☓☓☓☓☓(天界の言葉の唱文)、ブラッディー・イーグル』

 すると、魔力エネルギーの鷲が空高く飛び立ち、FJ山上空へと到達する。

 やがて、敵陣営の拠点を見つけると、莉空(の中の詩音)は攻撃魔術『ミョルニル』を重ねて発動し、雷撃で破壊。

 更に、方陣を見つけて敵の紋章を掻き消すと、その上に味方陣営の紋章を描く。

 最後に高高度から、ファエサルの魔力を探すことでリン達の居場所を発見。

 その発見場所周辺へ、嫌がらせとして『ミョルニル』で雷撃の嵐を見舞ってから、『ブラッディー・イーグル』を解いたのであった。



 その時、リンとファエサルは、FJ山方面にヘリコプターで移動中であったが、突然の大雨に見舞われ、間髪入れず雷撃の嵐を浴びる。

 強風が吹き荒れ、ヘリコプターの回転翼に雷撃が数発直撃し、翼が折れて墜落し始める。

 「これは、いったい」

 リンが驚いた様子で呟くと、

 「シオンの攻撃でしょう。 イライラがこもっているので、普段より強力な雷撃ですね」

 ファエサルが冷静な分析をする。


 「とりあえずヘリは放棄しましょう。 リンさん、私に掴まって」

 ファエサルの指示に直ぐ従うリン。

 すると、ファエサルは魔術師で彼だけが使える飛翔魔術『ファンネル』を発動し、ヘリから飛び降りると、空き地にひらりと舞い降りる。

 ヘリコプターは、クルクル回転しながら、近くの森林に墜落し、爆発。

 燃料に引火し、炎と共に爆風が2人の方に向かって来たが、リンが防御スキルを発動して、近くのトラックを防壁として移動させて、防ぐ。

 「渋滞作戦でイライラが募ったシオンが、ストレスを私達にぶつけてきましたね」

 ファエサルが苦笑いしながら、リンに話す。

 「異能者である我等も、そういう面では普通の人間だからね」

 リンも冷静に話しながら、時計型の端末を使って、何処かへ連絡をとる。

 「別のヘリを数機呼び寄せました。 到着まで1時間程掛かるので、そこで休憩しますか?」

 近くのレストランをリンが指差す。


 「そうしましょう。 多分、FJ山の拠点はシオンに破壊されたのでしょう。 その近くに居た我等に対して、遠隔攻撃出来る位ですから」

 ファエサルが予測を口にする。

 「そうかもしれませんね。 しかし恐ろしいですね、数十キロぐらいならば、離れた場所にも一定レベルの攻撃を出来るなんて」

 「数年後の次戦時のシオンは、より強力になっているでしょうから......ってことですよね? 彼女がどちらの陣営を選ぶかで、大きく情勢が変わるでしょう」

 「私達の運命も、シオンの選択で大きく変わるということです。 今回の戦いが終わっても、シオンの成長とその思考を常に調査して把握し続けないと、こっちの人生が終わってしまうかもしれません」

 2人はその様な会話を交わすと、レストランに入ってゆっくりと代わりのヘリの到着を待つのであった。



 車内で魔術を解いた詩音。

 莉空との融合も解くと、ぐったりと疲れた様子を見せる。

 そして、そのまま莉空に寄りかかって眠りに入ってしまった。

 「莉空、詩音の魔術の結果は?」

 海未が質問する。

 「相手の拠点と方陣の破壊、それとリン達が居る場所周辺を攻撃しました」

 「そっか〜、それで今後の予定は?」

 海未が質問を続けたが、直ぐに莉空も疲労で寝てしまう。

 「今回は、莉空の力を詩音が借りた様ですね」

 聖月が、2人の疲労を見て、海未に話し掛ける。

 「じゃあ、さっき言われた通り、箱N方面じゃなくて、大回りだけど、Y梨方面に向かうよ。 渋滞は明日にならないと解消しないだろうから」

 運転している海未は、みんなにそう告げると、ルートを設定し直して、自動運転モードに切り替えた。


 お互いに寄りかかって、すやすや眠る莉空と詩音。

 その様子を見てから、蒼空は聖月を見やる。

 特に表情の変化は無く、いつも通り朗らかの雰囲気を持ちつつ、凛とした感じも持ち合わせて座り、前を見ている聖月。

 ふと、蒼空の視線に気が付き、

 「どうしましたか?」

と蒼空に質問をする。

 「いえ、特に何でも無いです」

と答える蒼空。

 すると、蒼空の頭の中に、

 『先日の禁断魔術の件を気にし過ぎですよ。 眼の前の戦いに集中しないと、大きな痛手を負うことになります』

と話し掛けてきた聖月の声が聞こえる。

 頷く蒼空。

 そして、聖月が蒼空の手を握ってくる。

 強く握り返す蒼空。

 そのまま車は、AT木方面へ戻ってから、高速道路をY梨方面へと進んで行くのであった。



 2時間後、FJ山の拠点が破壊されているのを確認したリンとファエサル。

 「遠隔攻撃で、完全に破壊されていますね」

 「ここは、それ程重要じゃないから、まあ仕方ないですね」

 リンはそう答えると、

 「樹海辺りで、一旦迎撃しますか? 2人で」

 するとファエサルが、

 「今回は魔術で幻想の世界を準備して、仕掛けますよ。 彼等をその世界に招待したら、私達は直ぐ離脱しましょう」

と述べた。

 ファエサルが、『幻想の魔術師』と異名を取るその所以を見せる時が来たようである。


 「それは、面白そうですな。 いよいよ本領発揮というところで?」

 「シオンに打ち消されてしまう虞のある点が、最大の問題なのです。 だから、まあ一時凌ぎ的なものでしか無いですね」

 ファエサルはそう答えると、早速樹海へと向かう様にヘリのパイロットに指示をする。

 そして樹海で、幻想魔術『ファンタズマゴリア』を発動する仕掛けを設置し始める。

 ヘリで場所を指示し、何回か移動しながら、暫くすると、

 「こんなもので良いでしょう」

と言い、準備が終わった模様だ。


 「幻想を作り出す範囲の四隅に、捕獲したばかりの鹿4頭を生け贄にして、魔術を唱えながら、その鮮血を注いでいましたが......」

 リンが、かなり古典的な魔術なのかを確認すると、

 「鹿は神々達の使者。 これは過去を呼び返す魔術なのです。 今回はこの地が、火山の噴火の煮えたぎる溶岩で埋め尽くされた過去を幻想で呼び戻します。 魔術に掛かると、本当に熱さを感じ、抜け出せなければ死んでしまうかもしれない、恐ろしい魔術でも有るのですよ」

 その様に説明したファエサル。

 続けて、

 「彼等は、渋滞が酷い箱N山越えを諦めて、おそらく北側からFJ山に向かって来るでしょう。 するとこの樹海の一本道を通ると思います。  方陣を有効にする為に、一度はFJ山近く迄来なければなりませんからね」


 方陣は設定しても、その範囲内に一歩でも踏み入れなければ有効では無い。

 先程、詩音は魔術を使って、FJ山周辺での方陣設定の為、遠隔で紋章を描いたものの、その範囲内にまだ足を踏み入れて無いので、有効になっていないのだ。


 「この一本道に彼等が入ったら、私が魔術を発動します。 発動し終えたら、直ぐこの地をヘリで離脱しましょう」

 「離脱が遅れると?」

 「リンさんと私も、幻想魔術が作り出した世界に引きずり込まれますよ」

 「それはヤバいですね。 直ぐ離脱出来る様にパイロットに指示しておきます」

 リンは薄ら寒そうな顔をして、肩を竦めるのだった。



 海未が運転する6人を乗せたワンボックスカーが、樹海の一本道に入った。

 カラスを操り、ずっと監視していたファエサル。

 早速、幻想魔術『ファンタズマゴリア』を紋章エンブレムを使って発動する。

 すると、樹海が薄っすらと霧に包まれ始める。

 「リンさん、脱出しましょう」

 ファエサルが大声で促すと、リンもパイロットに、

 「緊急発進。 急速離脱」

と叫ぶ。

 リンとファエサルを乗せたヘリコプターは、急速に上昇を開始し、霧の中に飲み込まれ尽くす前に脱出に成功したのであった。

 「ふ~。 間一髪でしたね」

 ファエサルが汗を拭う。

 「あの霧の中が?」

 「そうです、幻想の世界。 紀元800年代の、まさにFJ山が大噴火をして、溶岩が大量に流出している時になっているのです」

 「我々は、西に向かいましょう。 次の迎撃予定地へ」

 リンとファエサルを乗せたヘリコプターは、速度を上げて、飛び去って行った。



 ファエサルの幻想魔術にとって幸いだったのは、詩音と莉空が車内でずっと寝ていたことであった。

 6人を乗せた車が、樹海の一本道の中央部付近に差し掛かった時、急速に霧に包まれてしまった。

 前が全く見えなくなり、海未は自動運転を解除して、車を路肩に止めた。

 「何だかおかしいね?」

 紗良に話し掛ける海未。

 「これは恐らく魔術だよ」

 聖月が海未に説明する。

 そして、聖月は得も言われぬ不安から、ずっと握っていた蒼空の左手を強く握り直す。

 「詩音ちゃん、起きて」

 聖月が体を揺すって起こそうとするが、起きない詩音。


 「ちょっと、降りて周囲の様子を見てみるよ」

 海未がそう言うと、紗良も一緒に車を降りる。

 すると、2人の姿がやにわに消えてしまった。

 「マズい。 車に戻って〜」

 聖月が窓を開けて、海未と紗良に大声で呼び掛けるが反応が無い。


 「大ピンチみたいだから、詩音ちゃんゴメンね。 魔術で起こします」

 聖月はそう言うと、攻撃魔術を詩音に掛けた。

 「痛い〜」

 詩音が急に叫んで、起きる。

 その声に反応して、莉空も起きた。

 「ここは?」

 寝惚け眼で、周囲を見渡す詩音。

 「詩音ちゃん。 順調に車が走っていたら、急に霧に包まれてしまって......」

 それを聞いて、漸く頭も目覚めた詩音。

 「これは......何?」

 周囲の異変を察知する。


 「莉空。 ひとまず融合魔術使うよ」

 そう言うと、詩音は莉空を強く抱き締めて、唱文を呟く。

 詩音が莉空の中に消えて、一つになってから、莉空が聖月に話し掛ける。

 「聖月。 蒼空君と離れちゃダメだよ」

 そう言われて、より強く手を握る聖月と蒼空。

 そして莉空(の中の詩音)は、魔術の文言をブツブツ言ってから、

 『アルテミス・イスカチェオン』

と呟き、最強クラスの防御魔術を自身の周囲に張る。

 しかし、効果は限定的で、霧が晴れる様子は見られない。

 「これが、あまり効かないっていうことは......」 

 少し考える莉空。


 暫くすると、周囲に赤黒い流体物が見え始める。

 何だか、車内が暑くなって来た。

 「こんなことが、あり得るの?」

 聖月が驚いた様子で、3人に話し掛ける。

 「外に溶岩流が流れている......」

 「っていうことは?」

 「過去に戻ったっていうことだよ」

 聖月の表情に珍しく、焦りの色が浮かんでいる。

 「樹海が出来た頃ってこと?」

 莉空の中の詩音が確認し、聖月が頷くと、即決した。

 「聖月。 あれを使うから、私が倒れちゃったら後をお願い」

 莉空はそう言うと、魔術『瞬間移動テレポーテーション』を車ごと掛ける。

 一瞬で数キロ先に移動したワンボックスカー。

 その場所は、霧が掛かっていない、普通の道路上であった。

 莉空は運転席に移動し、車を路肩沿いの空地に移動させる。

 そこで、力尽きる莉空(と、中の詩音)。

 「詩音ちゃん」

 莉空の体を揺するが、魔力を使い過ぎて、眠りに就いてしまっていた。


 「蒼空、先輩達をどうやって救おうか?」

 聖月が蒼空に相談する。

 「俺と聖月で、あの霧の中に入るしか無いよ。 詩音と莉空は今の瞬間移動魔術で、力を使い切っちゃっているから」

 幸いにも、防御魔術『アルテミス・イスカチェオン』は掛かったままで、莉空が攻撃を受けても、防御出来る状態に有る。

 「何も出来ないかもしれないけど、見捨てる訳にはいかないから」

 聖月は、蒼空の言葉に同意して、車を降りる。

 「書き置きを残して置こうね」

 詩音と莉空が情況を理解出来る様に、メモを車内に残す。

 『いざとなれば、暗黒魔術も有るから、それを使おう』

 聖月はその様に決断をして、車を降り、蒼空と一緒に霧の掛かっている領域に向けて歩き出す。

 「いつも、詩音を頼ってばかりだった。 だから、今回ぐらいは自分の意思と足で進むよ。 蒼空と一緒なら怖く無い筈」

 聖月は莉空にそう言うと、自分を奮い立たせて、前へと進むのであった。

 

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