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悪戯と黄昏の刻に・第一紀(異能者の戦い)  作者: 嶋 秀
第一章(パラレル世界篇(詩音・聖月・莉空・蒼空を中心とした異能者の戦い))
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第1話(パラレル世界へ)

戸次莉空は都幌学院の高校三年生。


一学期が終わり、夏休みはアルバイトをして過ごすつもりであったが、終業式の放課後、親友の高槁蒼空と一緒に下校するところを璃月詩音に呼び止められる。


そして、パラレル世界で行われる異能者の戦いへの参加義務を告げられる。


何も知らない莉空と蒼空。

言われるがまま、物語は進み始める。


学院を代表する美女詩音は、パラレル世界での魔術師で有ったのだ。



 時は、2052年のNH国。


 18歳の戸次莉空べっきりくは、臨時首都となっている北K道札P市にある都幌学院高校の3年生であった。

 2037年発生の台W・琉K戦役で両親を失い、2048年の3連動海溝型巨大地震の発生と、巨大火山FJの大噴火で、3歳から育ててくれていた祖父母も失って、天涯孤独の身である莉空。



 この頃のNH国の情勢は、少子高齢化、人口減少に加えて、超大規模金融緩和を長期に渡りやり過ぎた反動で、自国通貨の価値が急落、国際的な地位が低下し、著しく衰退していた。

 その上、C国と台W・AM国間で勃発した地域紛争に積極参戦したことで、大きな戦役となり、甚大な被害を出してしまった。

 台W国がC国に占拠・併合される最悪の事態は免れたものの、参戦したことでNH国は、C国の巨大市場から追放され、戦争被害も加えると、巨万の経済的損失を被り、長期低迷に拍車を掛ける事態に陥っていた。

 これが一般に『台W・琉K戦役』と呼ばれるもので、戦場となった台W国を除くと、南W諸島にC国から弾道ミサイルの雨嵐を受けて巨大な被害を受けたNH国だけが、大きな経済的・人的被害を出し、当時OK縄に滞在していた莉空の両親も、巻き込まれて死亡していたのであった。



 更に追い討ちを掛ける様に、11年後の巨大地震の発生と地震の連動による巨大火山FJの噴火で、NH国の首都圏以西は大きな被害を受け、経済的損失は千数百兆円に及び、それまでに大きく下落していた円の価値が更に急落して、GDPは世界十数位に転落。

 震災の年に人口も一億人を下回り、戦災と相次ぐ自然災害の回復の為の増税を実施したことで、国民負担率は江戸時代の重税も真っ青の6割を上回り、その負担にメリットを見出せなくなった超富裕層や富裕層は、資産防衛の為にSIGP国を中心とする海外へと脱出してしまっていたのであった。



 2052年のNH国は、この様な状況から、氷河期世代を中心とする数千万人の貧しい年金暮らしの老人と給料が上げられない内需産業に勤務する貧民が大多数の、貧者だらけの国に転落していた。

 一方で上手く立ち回った人達も当然おり、それに加えて国際優良企業に勤務する大企業のサラリーマンは富裕国と同レベルの収入を得ていることから、これらの層を総称して『上級国民』と呼ぶ様になっており、1500万人の上級国民と6000万人の貧民が暮らす、中間層が壊滅した極端に貧富の差が大きな国となっていた。



 そうした状況で幼い頃に両親を、中学生の時に祖父母を亡くした莉空は、相続した遺産で細々と暮らしており、貧民層に近い生活状況であった。

 しかし本来なら、上級国民しか通うことが出来ない国策学校の都幌学院に何故か入学の斡旋が有って、学費無料の誘惑には勝てず、わざわざ札P市に転居して入学し、既に高校3年生となっていた。



 一学期の終業式の日の放課後。

 莉空は、自宅アパートへ帰る準備をしていたところ、

 「莉空〜。 一学期の期末試験の結果は?」

と数少ない友人の高槁蒼空たかはしそらが質問してきた。

 「はい、成績表」

 莉空はそう言いながら、蒼空に手渡す。

 それを開いて確認する蒼空。

 「オール7って、ある意味凄いな」

 全ての科目が10段階評価の7なので、まあまあの成績だが、順位はクラス30人中の15位。

 「ぴったり真ん中だよ」

と少し自嘲気味に答える。

 「莉空は、本当に平均点の塊だよな。 見た目も普通、身長も普通、学業成績も運動も普通。 まあ都幌学院で普通なら、世の中的に学業は結構良い成績ってことになるけど」

 「蒼空は?」

 「俺も、同じ様なものだよ。 都幌学院で真ん中なら、悪くないだろ?」

と、莉空と似たりよったりの成績であったと白状する。


 「ところで莉空。 明日からの夏休みは、どうするの?」

 「俺はアルバイト三昧の予定だよ。 天涯孤独の身だから大学進学する金も足りないし」

 「でも、ご両親の遺産とか残っているんじゃないの?」

 「もちろん有るよ~。 でも、今1ドル350円台の時代だろ? 祖父母が俺の将来の為にと、15年前に国から出た戦災死見舞金とか生命保険金とかを円で丸々残してくれてあったけど、あの頃は1ドル170円位かな? 単純に円の価値が半分以下に下がった上に、世界的なインフレも有って、当時と比べると実質4分の1位に両親の遺産の価値が下がっちゃって、とてもじゃないけど、2050年代の大学の学費を賄うには足りないさ」

 「そっか〜。 そう言えば都幌学院の学費はどうしているの?」

 「それが、ちょっと不思議なんだけど、3年分纏めて払ってくれたんだよ」

 「それって、特待生ってこと?」

 「いや、違う。 俺の成績で特待生の訳無いじゃん。 よくわからないけど、亡くなった両親の知人が出してくれたんだよね」

 「そうなんだ~」 

 「学費無料の誘惑に負けて入学したという、そんな感じの俺だから、金持ちの多いこの学校内だと浮いてしまって、友人も蒼空くらいしかいないけどな」

 「まあ、うちも普通の農家で、俺も莉空と同じ様な扱いを同級生にされているから......」

 蒼空は家が北K道の大規模農家だが、少子高齢化進行中の2052年のNH国では、農業の従事者がごく僅かとなったことで、逆に農家の付加価値が高まり、都幌学院に通わすことが出来ているのだ。


 「蒼空は、大学行くんだろ?」

 「実家継ぐから、何処かの大学の農学部に進学するつもり。 夏休みは実家の手伝いしながら、受験勉強するよ」

 「農業は休みもなくて大変だけど、こんな時代だからこそ、間違いなく食いっぱぐれないものな」

 

 そんな話をしていると、同じクラスの典型的な富裕層の子息である久武翔と吉良悠馬の二人が、莉空と蒼空の方を見て嘲笑しながら、近付いて来て、

 「孤児みなしごの戸次と農民の高槁。 この学院に相応しくないお前等、何時までも喋ってないで、とっとと帰れよ。 目障りなんだからさ、存在自体が」

 「......」

 「この学院はさ〜、上級国民の中でも上流階級かそれに近い選ばれし者が通う学校なのだよ。 どうして、高槁の様な平民や平民以下の貧乏な戸次が在籍出来ているのか、本当に不思議だよな」

 久武に、このように言われ、陰口や悪口には慣れているものの、流石に面と向かってここまで言われると、ムッとする莉空と蒼空。


 「成績も平凡、見た目も平凡。 なんの取り柄も無いお前等が、どうして入学出来たのか、本当に訳わからねえよ」

 お調子者の吉良が久武に合わせて、侮蔑の言葉を続ける。

 その後も、ここぞとばかりに、悪口を連ねる2人の様子を見て、加勢しようと集まってきた久武と吉良の御学友達。


 『本当にこの国は、どうしようもないクズが増えたなあ。 貧富の差が非常に大きくなって、あらゆるストレスの発散の為か、イジメや仲間外れが大好きな国民が増え、それも徐々にエスカレートしている気がする』

 莉空は、両親が亡くなって過ごして来た小学生時代から、この様な陰口や悪口に晒されてきたが、小学生の時よりも中学生時代、そして現在の方がイジメや仲間外れがより増えていると実感していた。

 久武と吉良、そしてその御学友達の罵詈雑言を少し聞き流してあげてから、

 「気は済んだかい? 蒼空、帰ろうぜ」

と莉空は言うと、カバンを持って蒼空と一緒に教室を出ようとした。


 その時、廊下側で教室のガラス扉の前に立って、中の様子を覗いながら暫く待っていた人物が居た。

 そして、その人物は、

 「戸次莉空と高槁蒼空。 話があるから、ちょっと待って」

と声を掛けてきたのだ。

 莉空と蒼空の前に立ち塞がって呼び止めたのは、璃月詩音あきづきしおんであった。

 国際優良企業の経営者一族に連なる家の跡取り娘である詩音。

 見た目も美しく、成績も抜群だが、人を寄せ付けない冷たさを常に纏っているので、詩音と会話を出来る人はごく一握りしか居ない、学院内でも特殊なポジションに君臨する人物である。


 「詩音様、どうしてこの様な下賤の者共に、声を掛けられるのですか?」

 急に媚び諂う口調で、詩音に話し掛ける久武翔と吉良悠馬。

 「アンタ達、誰?」

 本当に久武と吉良のことを全く知らない詩音は、事実を単純に言っただけなのだが、冷たく言われたことで固まってしまう翔と悠馬。


 詩音は続けて、

 「莉空と蒼空。 これから大事な話が有るから、私について来て」

 一度も話したことすらない、学院が誇る才媛の詩音に突然その様なことを言われ、困惑する2人。

 「璃月さん。 人違いではありませんか?」

 莉空が、恐る恐る尋ねる。

 「人違いで、君達のフルネームを私が言う訳無いでしょ?」

 冷たい視線で見つめられながら答えられたので、恐縮する莉空と蒼空。

 「くだらない質問をする位なら、黙って付いて来なさい」

 その様に続けて言われたので、仕方なく付いて行くことに。

 その姿を見送る久武や吉良達は、詩音様が平民2人に声を掛けて連れていったことを、一様に『信じられない』という表情をして見送ったのであった。


 

 学院の玄関には、重厚な軍用?の大型車両が横付けされ、詩音を待っている。

 慣れた感じで乗り込む詩音。

 当然躊躇する、莉空と蒼空。

 詩音に冷たい視線のまま、強く手招きされたので、渋々2人も乗り込む。

 3人を乗せた車両は、札P市内を抜けて、山の中へ。

 車内で黙ったままの3人。

 莉空はずっと車窓を眺めながら、ふと何かを思い出した。

 『この景色、何だか記憶に有る様な気が......』



 1時間程走ったのであろうか?

 車両は、とある山中の巨大なトンネル内に作られた、謎の施設に到着していた。

 「ここは......?」

 蒼空が疑問を思わず口にする。

 すると、詩音が、

 「2人共、ここに来るの初めてじゃないわよ」

と、衝撃の事実を告げる。

 「初めてじゃない......?」 

 そう呟く、莉空と蒼空。


 「詩音。 遅かったね〜」

 後ろから声がしたので、振り返る莉空と蒼空。

 そこには、同級生の橘聖月たちばなみづきが立って居たのだ。

 橘聖月は、常に清楚な雰囲気を纏っていて、それでいて誰にでも優しい、詩音とは正反対の柔らかい性格を有する学院イチ人気の美女である。

 その姿を見て、

 『学院の3大美女のうち2人が揃うとは......』

 小声で話す莉空と蒼空。

 「お二人は、そこで何を話していらっしゃるの?」

と聖月に尋ねられてしまい、

 「お二方が揃うなんて、珍しいなと思って......」

と答え、その場を取り繕う莉空。


 仲が悪いと言われている3大美女。

 そのうちの2人が、まさか下の名前で呼び合う仲だとは、思っても居なかったのだ。

 「私達が仲が悪いっていう噂のこと?」

 「はい......」

 「噂通りよ」

 詩音が冷たく答える。

 「......」

 莉空と蒼空は苦笑いするしか反応のしようが無かった。


 「しかし、都幌学院に通学させることで管理・監視し、敵対勢力の詮索からも隠し続けてきた『選ばれし異能者』の男の子達が、君達2人だったとは......」

 「選ばれし?」

 「異能者?」

 莉空と蒼空は、詩音の言葉に強く反応する。

 「そうよ」

 詩音が肯定すると、

 「いや、全然意味がわからないんですけど」

 蒼空はその様に質問するが、

 「戸次君は、高槁君と少し違う反応みたいだよ」

 「上流階級のご子息が殆どという都幌学院で、ごく普通な莉空君と蒼空君が入学出来て、3年生迄在籍し続けていること自体に、疑問を持たない方がおかしいものね?」

 詩音は蒼空の質問に対して、その様に返事をする。


 「莉空、ここが何処で、これからどういうことになるのか、知っているのか?」

 「いや、知らないけど、この場所は初めてじゃない気がする......」

 そう答える莉空。

 「その通り。 私達は幼い頃、ここで誕生して、一緒に育てられたの」

 聖月が莉空の肯定的な答えに、具体的な内容を付け加える。

 「えっ......」

 「俺は農家の倅だよ。 ここで生まれた筈無いよ?」

 「詳しくは、これから来る人が話してくれるわ」

 聖月が蒼空の質問に答えると、4人の間に静寂の時間が流れ始めた。


 辺りを見渡す莉空と蒼空。

 広い暗い空間の奥には、何か大きな施設が有り、光が漏れている。


 「おや、お揃いだね」

 突如後ろの方から現れた男の声に、警戒する莉空と蒼空。

 「私は丸腰だよ。 もちろん君達に危害を加えるつもりも無いさ」

 声の主は、身長195センチくらいと背が高い、三十代後半の男で、眼鏡を掛けているが、目付きがかなり鋭い。

 「こちらの男の子2人は、記憶操作されているから、何もわからないのは当然なんだよ、聖月」

 「そうなんですか? 私や詩音は、そんなことされて居ないのに?」

 「それは、スキルの違いだよ。 聖月と詩音のスキルは記憶操作してしまうと、必要な時に役に立たないからね」

 「スキル?」

 男に質問する様に呟く莉空。

 「そう。 特殊なスキルを君達は全員持っているんだよ」

 「?」

 「詳しくは、あちらで話すことにしようかな。 付いて来なさい」

 男はそう言うと、全員を奥の建物へと誘うのであった。



 「都幌学院高等部3年生4名の方々。 ようこそ『神々達の世界・異能者の園』へ」 

 「自己紹介が遅れて済まない。 私は、AM国軍の特殊部隊所属のヒイロ・アンダーソン少佐だ」

 見た目は背の高いハーフの日系人という感じのアンダーソン少佐。

 「時が来たので、君達に集まって貰った」

 「時?」

 莉空が尋ねる。

 「莉空と蒼空は、何も知らないのだったね。 先程も言った通り、君達は記憶操作されているから」

 「しかし、時が来れば、その封印は解かれることになる」

 その様にヒイロは言って、莉空と蒼空に詳しい説明を始めた。


 「私達が生きているこの世界には、全く同じだが実は2つの世界が存在する」

 「今、私達が居る方を仮に『現実世界』と呼ぶことにしよう」

 「そして、全く同じパラレル世界ワールドが同時に存在するのだ」

 「パラレル世界では、ごく少数の一部の者に特殊なスキルを持つ異能者が存在する」

 「それが君達だ」

 「......」

 「これから君達には、こちらの『現実世界』での我々の劣勢を覆す為に、パラレル世界へ行って、任務を果たして貰うことになる」

 「意味が全くわからないのですけど......」

 ヒイロの説明を聞いて、莉空と蒼空が同時に答えると、

 「そうだろうね。 いきなりこんなこと言われても」

と、ヒイロも肯定する。


 「少し切り口を変えて話そうかな?」

 ヒイロは、よりわかり易く説明する為に、世界情勢から話し始める。

 「今、NH国は衰退の一途を辿っているよね?」

 「はい」

 「NH国は、60年以上前に世界一の富裕国だったのに、短期間に此処まで衰退するとは、流石に同じ陣営のAM国やCND国、E優連合やOセAニア連盟も予想だにしていなかった」

 「......」

 「もちろん、この著しい衰退は第一義的に、舵取りを誤った国の指導者や政治家、高級官僚、それにその政権を支持してきた国民に責任があるよ。 それが共和制、民主主義というものだからね」

 「しかし、我々の陣営がパラレル世界で劣勢に追い込まれていることも無関係では無いんだよ」

 「?」

 莉空と蒼空は、パラレル世界の意味がわからないので、その説明に入ると、キョトンとした顔をしてしまう。


 「パラレル世界では、少数の異能者によるスキル同士の戦いで勝敗が決まる。 それ以外はこちらの世界と何も変わらない」

 「パラレル世界で劣勢になると、こちらの『現実世界』で自然災害が急増したり、流言やテロで政情が悪化したり、不適格な国の指導者が登場して国が迷走・分断されたり、新しい病気が発生して急に蔓延したり、戦争が勃発したりと、劣勢の陣営がより不利になるようなことが、自然な形で発生するんだよ」

 「......」

 「それが、歴史の真相なんだ。 いつの時代もね」

 「......」

 ようやく、パラレル世界の意味が何となく理解出来た莉空と蒼空であったが、同時に全く信じられないという気持ちになった。


 「この話を信じられないのも無理は無い。 これから私が君達4人をパラレル世界へと案内するから、自分達の目で確認し、体験して来るべきだろうね」

 「そして、そこで戦っている同じ陣営の異能者と協力して、敵対勢力の異能者達に勝ち続けて貰わなければならない」

 「その為に、君達は人為的に誕生したのだから......」

 そう言われた蒼空が強い口調で確認する。

 「嘘だろ? 俺は間違いなく農家の息子だぞ」

 「嘘じゃないさ。 君のご両親は全く子供が出来なくて、『どうしても欲しい、どんな運命を背負わされても良いから、我が子を得て、そして育てたい』ということで、我々の計画に協力したのだよ。 だから蒼空君はご両親の実子であるけれども、同時に我々が創り出した新しい異能者でも有るんだ」

 真相をヒイロから告げられ、黙り込んでしまう、蒼空。


 「莉空君も同様だよ。 君のご両親は某企業の研究者だった。 この計画を実行した有志達のね」

 「......」

 「君のご両親が亡くなられたのは、この極秘計画を知ったパラレル世界での敵対勢力が、C国を使い、莉空君のご両親達を含めた異能者研究チームの抹殺を狙って、弾道ミサイルで攻撃したのが真相だからね。 台W・琉K戦役にかこつける形で」

 予想していたものと近かった真相をヒイロから聞かされて、何も言えない莉空。

 両親が研究者だったこと、その研究絡みで亡くなったこと、都幌学院への無料斡旋入学が、両親が研究していた内容への謝礼の一貫であることも、薄々わかっていたからであった。


 「莉空君や蒼空君、それに詩音ちゃんと聖月ちゃん、他にも2名居るのだが、君達が異能者として誕生したのは、極秘計画によるものなんだ」

 「今から約30年前に、NH国の急激な衰退を予想し、憂慮した超富裕層達が、極秘に資金を出し合ってAM国やE優連合等の極秘機関と協力して始めたプロジェクト」

 「それが、パラレル世界での劣勢を覆す為に、異能者を人為的に創り出すものであったのだ」

 「でも殆どが上手くいかなかったよ。 自然の摂理に逆らうものだから。 本来は数億分の1以下の超低確率で自然に生まれてくるものを変えようという試み......」

 「しかし、君達4人は成功であった。 詩音は魔術、聖月は回復、莉空君と蒼空君は攻撃・防御の異能を持っている。 もちろんパラレル世界でしか使えない能力だがね」


 「そして、2000年代以降、我々陣営が劣勢に追い込まれ始めたキッカケは、敵対陣営が人為的に異能者を数名創り出すことに、一時的だが成功して、パラレル世界でのパワーバランスが崩れたのが一因なんだよ」

 「今回、我々も異能者を創り出すことに成功したので、漸くパワーバランスを戻せると期待している」

 ヒイロは説明を終えると、冷蔵庫から冷たい飲み物を取り出し、4人に配ったあと、自身は説明で喉が乾いたらしく、一気に飲み干すのであった。


 莉空と蒼空は、ヒイロの説明を咀嚼して理解しようと努めた。

 そして質問をする。

 「本当に、そんな世界有るのですか?」

と。

 「今から、私が連れて行くから、自身の目で確認して御覧」

 「私の異能は、パラレル世界への案内者だからね」

 「向こうでの戦い方や不文律などは、詩音と聖月、それに向こうの仲間から聞いた方が早い。 私は戦いに参加出来ない案内者でしか無いのでね」

 「じゃあ、早速行こうか? パラレル世界では、既に戦いが始まっているよ」

 「ちょっと、待った〜。 封印とか言うのは......」 

 蒼空がそう言いかけた時に、ヒイロは全員を連れてパラレル世界に移動したのであった。


 「ここは?」

 見覚えのある景色だが、蒼空はヒイロに一応確認する。

 「北K道の箱D市だよ。 じゃあ、私は失礼する。 皆に幸運があらんことを祈るよ......」

 そう言い残すと、ヒイロは消えてしまったのであった。

 「これが、パラレル世界?」

 「全く、現実世界と同じじゃないか......」

 莉空と蒼空が感想を漏らす。

 普通に行き交う人々。 

 観光客らしい人が沢山居る箱D駅前。

 そこに4人は飛ばされて来たのであった。

 「これから、どうすれば良いんだろう......」

 莉空が呟く。


 すると、

 「さて、私達も行きましょうか? これから1か月続くパラレル世界での戦いに」

 詩音はそう言うと、歩き出す。

 「ちょっと、待ってくれ。 俺達の異能って封印されているんだろ?」

 蒼空が詩音に食い下がる。

 「良いこと教えてあげる。 君達が死にかけないと封印が解けないそうよ」

 詩音がヒイロから聞いた説明を楽しそうに教える。

 「えっ、死にかけないとって......」

 莉空があまりに酷い現実に、絶句しながら確認するも、

 「2人は聖月を護って。 聖月が倒されたら、私達の陣営に勝ち目は無いわ。 回復の異能者は両陣営に一人ずつしか居ないからね」

 詩音がそう指示すると、聖月は詩音の腕にしがみつき、

 「そういうことだから、よろしくね〜。 2人の空君」

 聖月は莉空と蒼空をひと纏めで呼称すると、何処かへと歩き始める。

 慌てて追い掛ける莉空と蒼空。

 この様にして、パラレル世界での異能者同士の戦いが始まろうとしていたのだった。

 

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