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その依頼者、無謀にすぎる 7

 ギヨームが部屋の奥手、壁際の本や置物が雑多に並べられた棚に歩み寄ると、そこから金色のハンドベルを手に取り、イシュアの前に差し出した。


 手にすっぽり収まるほどの、小さなハンドベルだ。

 館の扉と同じく翼竜が意匠(デザイン)され、持ち手の先には、同じ金色の鎖が通されている。


「こちらがあなたに迷宮に持って降りていただく魔法道具の鈴です。

 攻略の途中、命の危険を感じ、救助が必要だと思われましたら、この鈴を鳴らしてください。するとあちらの……」


 すいとギヨームが手を遣った先にはちろちろと燃える暖炉があり、その隣にはすすけた金色の台座が据えられていた。

 教会の鐘楼に似た形のそれには、大人の手のひらほどの大きさの金色の鈴が吊され飾られている。

 格別魔法の心得もないイシュアにも、鈍い光沢を放つ金色の鈴からわずかな魔力がにじみ出し、透明な炎のように揺れる様が見て取れた。


「あの鈴が共鳴してわたしたちに知らせてくれます。

 階層にもよりますが、だいたいの位置もわかるようになっておりますので、すぐにでも救助に駆けつけられますよ」

 ギヨームはにこりと微笑んだ。


「契約期間は殿下の攻略目標が達成され、無事地上に戻るまで。

 または契約に基づき、わたしたちが殿下を救助するまで。

 このいずれかとなります。

 イシュア殿下、あなたの攻略目標をうかがえますかな?」


 呼吸ひとつ、イシュアが口を開く。


「……第二十一階層の主、炎蜥蜴(とかげ)の核石だ」


「えええええ?」


 三人分の悲鳴に近い声に、天窓がびりりと揺れた。


「冗談でしょう? 迷宮をなめるにもほどがあるわよ!」

「困難なご事情を抱えておいでだとは思いましたが……それはまた困難ですなあ……」

「……悪りぃ、流石に俺もちょっと引いたわ……」

 シルヴァの肩からずり落ちそうになったセトラも、ぽえ?と鳴いて細い目を見開いてみせた。


 名高いグラータ地下大迷宮には、一攫千金をめざすもの、希少なアイテムを探すもの、命の危険を快感とするもの等々、さまざまな目的を持った冒険者たちが大陸中から集う。


 そして冒険者だけでなく、ちょっとした刺激を求めて浅い階層に降りてみようとする、物好きな観光客もやってくる。

 実際、地下第一階層なら、大回廊と呼ばれる通路を逸れないかぎり、それほど危険な魔物は出現しない。降りてすぐの大広間には、食べ物や薬草などを商う物売りまでうろついているくらいだ。


 だがそれはあくまでごく浅い階層の話である。第二、第三と降りるごとに襲ってくる魔物たちの数は増えていく。


 第四階層までたどり着けたら、冒険者としてようやく一人前。

 第五階層より下の階層に出現する魔物たちは、浅い階層とは比べものにならないほど凶悪だ。

 そして、第十一階層から下は、かなり攻略が難しいと言われている。

 腕に覚えのある冒険者、名のある勇者たちの(パーティー)が降りたきり戻らない、そんなことも日常茶飯事だ。


 ましてや第二十一階層、とても迷宮初心者が最初の攻略目標として語ってよい場所ではない。

 そもそも初めて迷宮に降りる冒険者の何割かは、数階層降りたところで魔物の餌食となり、二度目に挑むことすら出来ないのだ。


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