表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

6/43

その依頼者、無謀にすぎる 4

 (にかわ)で雑に修復した粗悪品を、また掴まされたのだろう。


 ギヨームは宝物級の花瓶であったもの(過去形)を抱えて、壁に向かって座り込んでしまった。


 めそめそと泣き濡れるギヨームに歩み寄り、シルヴァはぽんぽんと背中を叩いてやる。

「……ま、気にすんな! 

 だってお前も言ってたじゃん? 美術品の目利きは一生修行って。

 そのうち本物にも当たるだろ、気長に行こうぜドンマイ!」


 無駄に陽気な笑い声が、空しく部屋に響いた。


 そこにようやく、本日ゲットした淡いベージュの新作ドレス姿のアリエッタがやってきた。

 フロアの中央でくるくると二回転して、裾を持ち上げてみせる。


「どう? 可愛いでしょ?」

「……良いですな、春らしい優しい色目がとてもお似合いですな」


 ギヨームは涙目のまま、それでも律儀に応えてみせる。

 それに対してシルヴァは一瞥してほんの一言だ。


「へえ、いいんじゃね?」


「ちょっとそこ! もっとちゃんと褒めなさいよ!」

「褒めるのは確定なのかよ」

「当然でしょ? 

 新しいドレスを着たリーダーは褒める。

 我がパーティーの基本中の基本だわ」

「……イエッサー」


 椅子から腰が浮きかけていた少年に、アリエッタはその活気に満ちた視線をびしりと向けた。


「改めて、ようこそ救援隊(レスキューパーティー)『黄金の鈴』の本拠地へ!

 リーダーのアリエッタよ。

 わたしたちとの契約に来てくれたのかしら?」


 差し出した手に、少年は硬い表情を返す。


「……まだ契約するとは言っていない」


「あら、そう。

 じゃあわたしたちの(パーティー)に何のご用かしら。

 ルドマン王国の王子様?」


「何故それを……!」


 少年は思わず立ち上がった。

 驚きのあまり見開いた水色の瞳に向けて、アリエッタの若草色の瞳が勝ち誇るかのような強い光を放つ。


「いい感じに汚れた服を着て誤魔化せてるけど、袖口にも気をつけたほうがいいわよ? 

 ブナと大角鹿の紋章が刻まれた金のブレスレットなんて着けて外を歩いてる人は、不用心な盗人か、不用心な王族のどちらかだわ」


 先程広場で荷物を受け渡したあの瞬間に、手袋と上衣の隙間からわずかにのぞいた手首の装飾品を、アリエッタは見逃さなかったのだ。


 少年はひとつ息をつき、視線を落とすと、再び椅子に腰を下ろす。

 その様子を確かめたアリエッタは、テーブルを回り込んでイシュアの向かいに掛けた。


「……ぼ……わたしはユリウス五世の第六子、イシュアだ。

 わたしの信頼する臣から金貨一枚を手渡された。

 迷宮に降りるなら、これであらかじめ『黄金の鈴』と契約していくとよい、と」


 アリエッタは両手を合わせて、にっこりと微笑んだ。

「あら王子様、いい情報を掴めたわね。

 良質な情報は良質な武器よ。

 その家臣にはたっぷりご褒美をあげないとね」


「さあて、それはどうだかな」


「なによシルヴァ」

 ご満悦一転、眉をつり上げたアリエッタに、テーブルを挟んだシルヴァは肩をすくめて首を振ってみせる。


「いや、大事な主が冒険者ごっこなんてヤベえ遊びに手を染めるのを止めないあたり、ご褒美どころか処罰モンじゃねえの?」


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ