その依頼者、無謀にすぎる 3
促されて少年がマントを脱ぐと、まさに侍従の手本になりそうな所作でマントを預かって、椅子を引いてみせた。
「ハーブティーを淹れてきますね、少しお待ちを」
にっこりと微笑んで部屋を出て行こうとするギョームの背に、少年は慌てて声を掛ける。
「いや……!
気遣いは無用。話を聞きに来ただけだ」
年の頃は十三、四といったところか。
貴族か、騎士階級の生まれなのだろう、堅苦しい口調が微笑ましい。
思わずシルヴァは目尻を下げた。
「エンリョすんなよ、ギヨームの淹れたお茶は美味いぞ。
どうせうちのリーダーが春の新作ドレスとやらに着替えてくるのに、しばらくは待たされるんだ。
のんびりティータイムといこうぜ」
シルヴァの飛ばしたウインクに、少年はぽかんと空けた口を返した。
「……リーダー……あの少女が……か?」
「そ、逆らうとおっかねえぞ~」
「聞こえてるわよ!」
奥から飛んできた怒気に、シルヴァがのけぞって青ざめる。
「……改めまして。
『愛らしく頼りになる我らがリーダー!
可憐な見た目とのギャップも魅力の大斧使い、勇者アリエッタ様!』(やや大声)
と、剣士ギヨームと俺、魔導士シルヴァ。
この三人が救援隊『黄金の鈴』だ」
その台詞に抗議するように、シルヴァの肩の謎の白いいきものが、ぷくう、と鳴く。
起きていても糸のような細い目は変わらない。どこか人間臭い、愛嬌のある表情だ。
「悪りぃ、忘れてた。
こいつセトラ。
以上! 三人と一匹で救援隊『黄金の鈴』だ、よろしくな」
「ぷも」
セトラは機嫌を直したのか、満足げな声で一声鳴いた。
「…………以上、だと…………?」
頭を抱え悶々と考えを巡らす少年を置いて、シルヴァとギヨーム、それから謎のいきものセトラはまったりとお茶会を始めた。
今日は客を待たせているからいつもより相当早くお着替えを済ませてくるのだろうが、それでも大きめのカップになみなみと注がれたお茶とお菓子を余すところなく味わう時間はある、それも余裕で。
シルヴァは、アイシングした可愛らしい星形のクッキーを半分に割って片方をくわえると、もう片方を肩にとまったセトラに渡してやった。
セトラは糸目をさらに細めて、幸せそうにまくまくとクッキーをたいらげ、ぷう、と満足げな声で鳴いた。
「ちょうどよかった。時間があるなら、これを是非見ていただきたい」
ギヨームがおもむろに暖炉の上枠に置かれた陶器製の花瓶を指さし、自慢げに語り始める。
「ノルゲンドーン城宝物庫跡迷宮の掘り出し物です。
前ノルゲン王朝時代のものでしょうが、なかなか状態がよかったのですよ。
あの幾何学模様、深い釉の色合い……どうです? 美しいでしょう」
「ふ~ん……。
……俺は美術関係の良し悪しとやらはさっぱりだし、お前の収集癖も好きにすればと思うけどさ……」
シルヴァは微妙な笑みを浮かべた。
「……それ、あんまり火のそばに寄せないほうがいいと思うぞ?」
「何故ですかな?」
「膠が溶ける」
台詞と同時に、花瓶は音も無く分解した。