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やりたいこと 5

「愚弄するのもいい加減にしろ!

 王の子であろうと容赦はせぬ!」


 踏み込んで、イシュアの鼻先にぴたりと剣を突きつける。


 結構、遅い。

 そうイシュアは感じた。

 大鎧百足の攻撃は、もっと速かった気がする。


 そういえば、と、ぽんと手を打つ。


「わたしが仕留めたこれがお気に召さぬというなら、仲間が仕留めた大鎧百足の細切れが、第十四階層に山程放置されております。

 今ならいくらでも死骸が拾えますゆえ、どうぞご存分に」


 晴れやかな微笑みがとどめを刺した。


「……実は王子様、無意識にさくさく殺していくスタイルなのかしら……?」

「攻撃力高えなあ……えっぐ」

「無邪気な子どもほど残酷だと昔から言われておりますからねえ……」

「……ぷう」


 ひそひそと語り合う三人と一匹である。


 まだ諦めきれない騎士が叫ぶ。

「……あ、あなたはどうなのだ!

 炎蜥蜴の核石は手に入れられたのか?」

「そうだそうだ! ご自分のことを棚に上げて我が君をあげつらうなど!」


「あげつらってなどいないのだが……」


 確かにイシュアは炎蜥蜴の核石を手に入れてはいない。

 そう答えようとしたとき、シルヴァがイシュアの背をぽんと叩いた。


 悪戯を仕掛けるように片目を閉じて合図する。


 そして、鞄から羊皮紙を取り出すと、さあっと広げた。


 神々しいほどの輝きを放ち、白橙色の炎をまとった煉獄蜥蜴の核石が、大量に石畳に転がった。


 大通りの両脇から、冒険者たちのどよめきが沸き起こる。


「……炎蜥蜴の核石……?

 ……いや、違う! この白橙色の炎は……。

 まさかこれは…………煉獄蜥蜴の核石……だと?」


 騎士団の魔導士が腰を抜かし、へなへなと座り込んだ。


 書物の上でしか知らない、伝説の、超特級の宝物が周り中にごろごろと転がっているのだ。

 頬をつねってみるものさえいる。 


 今度こそ身動き一つ出来ず、ルーファスたちは生きた彫像と化す。


 彼らに、イシュアは誇らしげに微笑んで告げた。


「わたしの頼りになる仲間たちが頑張ってくれたのだが……。

 残念ながら煉獄蜥蜴()()討伐することができなかったのだ。


 命題を果たせぬわたしは、勇者ではないのだろう?


 仕方ない。


 兄上、我こそ勇者だというあなたが王となるがいい」


 少し照れて振り返ると、シルヴァが、ギヨームが、そしてアリエッタが、最高の笑顔をイシュアに贈っていた。


 成り行きを見守っていた通りの冒険者たちから歓声が上がる。


 勝ちどきの声が、グラータの街に響き渡った。  



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