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やりたいこと 4

 『勇者の試練』に挑む自分に酔っているのかもしれない。

 やや芝居がかったルーファスの台詞に、イシュアはぽかんと口を開けてしまった。


 思わず腰に下げた鞄に手を遣る。


「どうした弟よ。

 あまりの恐ろしさに、心の臓が止まってしまったのか?」


 別の意味で心臓が止まりそうになったイシュアだ。


 焦って、鞄からあの巻かれた羊皮紙を取り出す。

 するりと麻紐が解かれ、羊皮紙が開かれると、次の瞬間、地面に黒光りする物体がごろりと転がり落ちた。


「それはまさか……大鎧百足の……『兜』……?」


 ルーファス、そして騎士たちは、目の前の石畳に無造作に転がる『命題』に頭が追いつかず硬直する。


 そこへシルヴァが割り込んだ。

 それはそれは楽しげに。


「ああそれ、王子が一撃で倒しちまった奴じゃん」 


「な……?」


 驚きのあまり顎が外れそうになったルーファスとその家臣たちに、ギヨームとアリエッタも次々と追い打ちをかけてやる。


「振り下ろされた巨大な百足の顎肢を受け止め、返す刃で鋼鉄より硬いと言われる胴体を真っ二つに……いやはや、なんとも鮮やかな腕前でございました」

「身を挺してわたしをかばってくれたのよね!

 カッコよかったわ~!

 さすがは王子様!」


 先程までのぶち切れモードはどこへやら、アリエッタは両手を合わせ、愛らしい仕草でうっとりとイシュアの勇姿を語る。


「…………馬鹿な!」


 ようやく硬直を解いた騎士が、がたがたと震える手でイシュアを指さした。


「まことしやかに虚言をひけらかすとは、いくら殿下でも許されぬぞ!」

「虚言とはなによ! 失礼ね!」

 アリエッタがまた爆発寸前になる。その様子にイシュアの頬が緩む。

「王子様! びしっと言ってやりなさいよ!」

「ああ」


 イシュアは、もうなんの気負いもなく、馬上の兄に相対した。


「兄上、これをどうぞ。

 わたしには不要のものです」

「!」


 場が一気にざわめく。


 アリエッタが血相変えてイシュアの服を掴んだ。 


「王子様? ちょっと待ってよ! 

 何考えてるの? 

 これはあなたが……!」


「よいのだアリエッタ。

 王位など、欲しいものが得ればよいのだ。

 いらぬものは捨てる。それだけのことだ」


「捨てる……ですか」


「言うじゃねえか王子」

 シルヴァは破顔した。


 喉から手が出るほど欲した命題の宝物が、いま眼前に転がっている。

 だがさんざん馬鹿にしてきた弟が無造作に捨てたものを、おめおめと拾えるはずもない。


 馬上のルーファスが、わなわなと震え出す。


 主より先に切れたのは、騎士の一人だった。


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