やりたいこと 3
自分の堂々とした声に、思わず驚いてしまう。
騎士たちからどっと笑い声が起こっても、「アリエッタは無茶しないとよいが」などと考える余裕が、今のイシュアには出来ていた。
その態度が気に障ったのか、騎士がさらに増長し語気を荒らげる。
「どけと言っているのだ!
本日は、殿下直々に第一階層の大回廊まで降りていただく!
危険に身を晒すをいとわぬ勇気……さすがは我らが殿下だ。
正しく次代の王に相応しい!
勇者の試練に挑む殿下の邪魔をするなら、容赦はせんぞ!」
「勇者の試練……」
つい先程、苛烈を極める環境の第二十七階層に身を置いたイシュアだ。
帰りに通りがかった第一階層の大回廊の、あの、のんびりまったりとした様子との落差を思い出し、うっかりぷっと鼻息を吹き出してしまった。
「何が可笑しい!」
騎士たちが一斉に剣の柄に手を遣った。
主君を馬鹿にされては黙っていられないだろう。
大通りに緊張が走る。
相手は一小隊とはいえ、魔導士を含んだ騎士団だ。
大通りの両脇に散らばる野次馬も含めて、怪我人を出してしまうのは本意ではない。
シルヴァが魔法の展開に備える。
その時、後方の馬上から、無駄に軽やかな声がかかった。
「よい、皆下がれ」
ルーファスが騎乗のまま、しずしずと前に進み出てきた。
二十歳をやや超えているだろうか。顔立ちはイシュアに似ていなくもない。
ただ肌の白さが、高貴な育ちを物語っていた。
「殿下……しかし!」
「よいのだ。
我が弟は、ものを知らぬだけなのだ。
許してやれ」
「なんですってえ!」
ギヨームがすかさずアリエッタの腕を捉まえる。
一瞬の差であやうく大通りの石畳が粉々に砕け散るところだった。
大斧をひょいと取り上げてシルヴァに放り、シルヴァはあっという間に羊皮紙の魔方陣に大斧を仕舞い込んだ。見事な連携だ。
口を開こうとしたイシュアにものを言わせず、ルーファスは鷹揚にうなずく。
「そなたは知らぬのであろうが、グラータ地下大迷宮とは、それは危険な場所なのだ。
わたしの勇敢な騎士たちは、これからその命を賭して、迷宮の奥深くまで降りようとしておる。
第十四階層。
そこに住まうといわれる大鎧百足の『兜』……。
数多の勇者たちが挑み、討伐かなわず散っていったと聞く。
困難な命題だが、わたしの勇敢な騎士たちなら必ずや……!」
「大鎧百足の……『兜』、だと?」




