やりたいこと 2
こちらも盛大に腹の虫を鳴かせたシルヴァは、街の中心部へと続く石畳を駆け出した。
「さ、メシだメシ!
肉食いにいくぞ!」
肩にぶら下がったセトラの腹も「きゅ」と短く応える。
回復魔法ですっかり元気になったアリエッタが、負けじと横を追い抜いていく。
そして先頭を走りながら、くるりと踊るように振り返った。
「魚介もある店がいいわね。わたし、貝のトマト煮込みが食べたいわ!
王子様は? 何が食べたい?」
「ぼくは……」
いまなら何でも際限なく腹に入っていきそうだ。
肉、と答えようとして、はたとその足を止めた。
前方、街の中心部から、仰々しい一行がこちらに向かってやってくるのが見える。
「……ルーファス兄上……」
葦毛の馬に派手な装飾の馬具を置き、自らもきらびやかなマントを翻しての行軍だ。
前後を揃いの甲冑とマント姿の騎士たちで固め、左右には杖を掲げた魔導士たちが付き従っている。
大通りの真ん中を我が物顔で征く一行から、冒険者たちは距離を取って端に寄る。
冒険者は元より、王族だの貴族だのにまつろわぬ者達だ。
恐れ入って道を譲ったはずもなく、ただ胡散臭げな視線を投げつけていた。
「……あれが王子様の馬鹿兄とその取り巻きね!」
戦闘開始とばかりに突進するアリエッタを、三人と一匹で抑える。
「いやいやいやアリエッタ! 待てったら!」
「人間相手にいきなり斧はまずいですぞ!」
「セトラ! 家からクッション持ってこい!」
「ぺ?」
「……問題はそこなのか?」
「離しなさい! ひとこと言ってやらないと気が済まないわよ!」
ようやく両側から羽交い締めにしたシルヴァとギヨームだ。
ギヨームが、穏やかな声でアリエッタをたしなめた。
「ひとこと言うのは、まずは殿下の権利ですぞ」
はっとしてアリエッタが力を抜く。
皆の視線が、イシュアに集まった。
「どうだ王子? やりたいこと、あるんだろ?」
シルヴァがにっと笑いかける。
ギヨームは力強くうなずき、アリエッタは「がつんと言ってやりなさいよ、王子様!」と拳を振り上げた。
イシュアは深くひと息つくと、頼もしすぎる仲間たちにしっかりと顔を向け、そして応えた。
全てを諦めてこれまでただ生きてきたイシュアにも、やりたいことが出来たのだ。
最初にイシュアに気付いたのは、列の先頭を行く騎士だった。
第三階層でねちねちと絡んできた、あの男だ。
すいと手を挙げて列を止めると、馬上からイシュアたちを見下ろしてきた。
「まだグラータにいらしたのか。
尻尾を巻いて逃げ帰ればよいものを」
後方で控えたギヨームは、アリエッタのベルトを背中から掴んでいる。もちろんアリエッタの突進に備えるためだ。
「道をあけよ、ルーファス殿下のお成りだ」
身分は家臣ではあったが、ずっと言いなりになってきた相手だ。
わずかな緊張はあった。でも今は、それだけだった。
「兄上と話したい」




