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最強魔導士、働く 1

 出口はそのまま、小部屋の木の扉になっていた。

 イシュアも見覚えのある、薄暗くさびれた石造りの廊下だ。


「……ここは、まさか第三階層の大回廊?」

「そ」


 短く答えて、シルヴァはそそくさと先を急ぐ。

 もちろん、背後から殺気を込めてにらみつけてくるアリエッタのお怒りを避けるためだ。


「何故だ? せっかく第十四階層まで降りたのに、上に戻ってしまったではないか」

「でしょ! もっと言ってやって王子様!」


 非難の眼差しが殺到しても、シルヴァはけろりとしたものだ。


「王子、第二階層に降りるとき、金払っただろ」

「ん? あ、ああ」


 第一階層の大回廊の最奥、第二階層への転移門の間には、グラータを治める領主が『迷宮内の治安を目的として』配下の兵を派遣している。

 その『配慮』に感謝し、その転移門を利用する冒険者は皆『心ばかりの謝礼』を渡す決まりとなっていた。


 お題目は仰々しいが、要するに通行料である。


 早朝、通りの物売りから買えるパンとお茶程度の額ではあるが、ひっきりなしに転移門を通過する冒険者たちからもれなく徴収しているのだ。グラータの街から得られる種々の税と合わせて、グラータ領主の収入源のひとつとなっていた。


「あれ、払うのもったいなくね?」


「……まさか……銅貨三枚を惜しんで……あの場所を経由したのか? 」


 銀貨の山は惜しみなく賭事につぎ込めて、銅貨三枚は惜しんで命掛けのルートを選択する。そのバランス感覚が謎に過ぎる。


 あぜんと立ち尽くすイシュアの背に、ギヨームはそっと手を遣り、首を振ってみせた。

「深く考えても無駄ですよ、殿下。これが通常なので」

 悟ったようなギヨームの微笑に、イシュアもいろいろと悟るしかなかった。


 先程の出口の扉からほんの少し大回廊を進んだところに、細い分岐がある。

 分岐した廊下は大回廊よりさらに暗く、入り口からでは先はほとんど見えない。


 廊下の影に一行がすべて身を隠したのを確認して、シルヴァは開いた手のひらを中空にかざした。

 すると目の前の空間に転移門がその姿を現した。


 息をのむイシュアに声を掛ける。

「ちいっと下まで一気に降りるからな。

 結界は張っておくから死にはしねえ。

 が、びびるかもしれねえから、覚悟決めとけ」


 改めてイシュアは、無理矢理唾を飲み込んだ。

 第十四階層の空気の重さを思い出す。また膝が折れてしまわないよう、腹に力を込めた。


 その様子に、シルヴァがくすりと笑う。

「よし、気合いは十分だな、王子。

 じゃ、一つ頼まれてくれ」

「なんだ?」

「アリエッタが少し消耗してる。

 大事ないとは思うが、気をつけてやってくれ」

「え?」


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