表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

22/43

その野望、救援(レスキュー)するぜ! 3

「あれらの言ったとおり、わたしの母は片田舎の領主の娘で、わたしを産んですぐ亡くなった。

 たとえ建前は、王の子すべてに次の王たる資格があると言っても、現実は話したとおりだ。

 次の王にもなれない、政略的に重要でもない家の血しか引かないわたしは、追放同然に母の実家に引き取られ育った」


 実家の伯爵家でも、イシュアはお荷物だった。

 王の子である以上ぞんざいには扱えず、だからといって家のために何か役立つ訳でもない。

 家のものはイシュアによそよそしく接し、家臣たちも腫れ物に触れるような態度を取った。


 しかしそれは仕方のないことだと、イシュアは諦めていた。


 未だ幼くとも、自分と接するとき、周りのものたちがどこかぎこちない困惑した表情を見せることは、肌で判ってしまう。成長し理由を知ればなおさらのことだ。


 自然とイシュアは館の外で過ごすことが多くなった。


 いないも同然、何の期待もかけられず、奥深い森が広がる辺境の地で、権力とは無縁の人々に育まれた幼年時代は、それでもイシュアにとって短い幸福の時間だったのかもしれない。


 通りすがりの冒険者に、見知らぬ異国の迷宮攻略譚を聞かされ、胸躍らせたこともある。

 その昔騎士団の隊長を務め、凶暴な翼竜の群れを討伐したのだという老爺に剣を習った。筋が良いと褒められた。


「貴方様なら、いつか真竜をも倒す勇者にお成りあそばすやもしれませぬなあ……」

 そう言って、大きく優しい手で、頭を撫でてくれた。


 だが、そんな時間も終わりを告げる。


「……父王の危篤の知らせが来たのだ。

 わたしも勇者の試練に参加するよう、王都から遣いが来た。

 ……すると叔父たちや、家臣たちの態度が一変したのだ」

「なるほどな。

 運良くそこそこの命題を引き当てて運良く魔物を倒せたら、自分のところの王子サマが次代の王だ。

 王ともなれば中央の人事も好き勝手できるかもだし、王の身内は出世確実!

 田舎伯爵家にも運が向いてきたぜ~!……って盛り上がった訳か」

「それなら自分たちも命がけで王子様を助ければいいじゃない。

 なんだって一人でグラータに来させてるのよ!

 ……やっぱり、怖じ気づいたのね。意気地なし」


 アリエッタは呆れてぷいと首を振った。その仕草に、イシュアは少しだけ救われた気がした。

 わずかに硬くなった表情を緩める。


「仕方ないのだ。

 中央の貴族たちからずっと下に扱われていた家だ。

 せっかくの好機、なんとしてもものにしたいと思うのが当然だろう。


 そして誰しも自分の命は惜しい。

 イカサマで引かされた無理な命題のため、命を賭けてわたしに付き従うものなど、いようはずもない」


 まだ十四かそこらの少年が、すべてを諦めたような清々しい空虚な瞳で中空を見つめる。


 それまで黙って耳を傾けていたギヨームが、穏やかな声で問いかけた。

「殿下には、試練を受けない、という選択もあるのでは?

 なにも望まぬ危険に身を晒さずとも」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ