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その野望、救援(レスキュー)するぜ! 2

「王子様、起きても大丈夫なの?」 


 アリエッタが椅子から飛び降りて駆け寄る。心配そうに眉をひそめるアリエッタに、イシュアはなんとか笑みをつくってみせた。


「大事ない」

「まだ寝ていたほうがいいんじゃない?

 食事は寝室へ持って行ってあげるから」

「本当にもう平気だ。

 ……シルヴァの手当と、アリエッタの看病のお陰だ。礼を言う」


 神妙な顔で目を伏せるイシュアの頬は、やはりまだ少し青ざめていた。

 すぐに手当をしたとはいえ、剣で足を切り裂かれる大怪我を負ったのだ、無理もない。


 そして怪我よりも、あの騎士たちとの遭遇がイシュアの血の気のない顔色の原因であることは、シルヴァたちにも容易に想像できた。


 ギヨームが、暖かいスープをそっとイシュアの前に置く。

 スプーンを手にしたものの、イシュアはスープを口に運ぼうとはせず、視線を落とした。


「……ルドマン王家では、王の子は生まれた順に関わらず、すべて平等な王位継承権を持つのだ」


 話す声は硬く、まるで生気が感じられない。。


「そして次の王となるものは、最も武勇を誇るものが選ばれる。


 神殿で行われる託宣の儀……まあ、くじ引きのようなものなのだが、それでおのおの引き当てた命題の宝物を神殿に捧げられたものが、王となる資格を与えられる。


 ルーファス兄上が引き当てた命題は、グラータ地下大迷宮の第十四階層に住まうと言われる魔物だった。

 そして、わたしは……」


「第二十一階層の主、炎蜥蜴(とかげ)の核石、というわけですな」

 イシュアがこくりとうなずいた。


「……言いたかないが王子さんよ、ソレ、めちゃくちゃ八百長の匂いがするんだが?」


 シルヴァが片眉をひそめる。イシュアの口元に皮肉な笑みが浮かんだ。


「……その通りだろう。

 普段から神殿に捧げる供物が最も多かったルーファス兄上は、近衛騎士団と魔法師団の精鋭で隊を組めば、もしかすると倒せるかもしれぬと言われた命題を引き当てた」

「賄賂ってこと? ……サイテーね」

「仕方ないのだ。多くの財を動かし、人を動かせるものが勝つ」

「それは確かにそうだけど……でもそれじゃ。全然勇者の試練でもなんでもないじゃない!」


 素直で、根っからの善人のアリエッタにとっては、とんでもないイカサマだ。

 腹立たしいことこの上ない。


「王子様が第二十一階層へ降りたいなんて無茶を言い出した理由はわかったわ。

 ……でもお供が一人もいないのは何故?」


 アリエッタの素朴な疑問に、イシュアは黙り込む。


「……もしかして、目標を聞いて怖じ気づいてしまったの?」


 どうしようもない現実を語って、絶望するのは辛かった。

 でももうどうでもよかった。

 どのみち諦めるしかない、仕方ないのだ。

 イシュアは淡々と、己の虚ろな存在を言葉にしていく。


「はじめからいなかったも同然なのだ……」


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