はじめての迷宮 5
そしてどんどんと骸骨たちはその数を増やしていく。
旅の途中で何度も出くわした魔物だが、こんな大勢の群れを相手にしたことはない。
(ダメだ……きりが無い!)
勢いよく剣を振り回し、前列の骸骨たちが倒れたすきに、イシュアは駆け出した。
近くの出口へと走り込む。
そこにも骸骨たちがいた。
裂けた朱色のマントをまとって、朽ちかけた椅子に腰掛けている。椅子の後方には通路へと出られる出口らしきものがあった。
背後からはイシュアを追ってくる無数の骸骨たち。前方には三体。
(三体……ならなんとか切り抜けられる!)
勢いのまま、前方へと駆ける。
その判断が誤りだった。
イシュアの剣は、骸骨たちを薙ぎ払う前に何かにはじかれた。甲高い金属音とともに火花が散る。
「な……?」
目の前の骸骨が丸い盾を構えている。
そして三体が、次々と剣を抜いた。じゃり、と、赤錆の擦れる音がした。
ひゅう、と、空を切る音とともに刃がイシュアを襲う。
「……くっ!」
ほんの肩先を刃がかすめていく。切断された亜麻色の髪が一房、はらりと宙を舞う。すぐさま次の刃が胴体を狙って飛んでくる。
その攻撃を、イシュアは剣で受けた。
強い。
一撃の重さで身体ごと吹き飛ばされそうになる。
体中の骨がきしみ悲鳴を上げた。
これはまともに受けてはダメだ。稽古をつけてくれた豪腕の騎士でも、これほどの一撃を放ってくるものはそうそういなかった。
イシュアは持ち前の素早さで必死に攻撃を避けながら、なんとか反撃を続ける。
と、ふいにイシュアの左脚に、灼熱のような衝撃が走った。
(しまった……!)
次の瞬間、激痛が脳天まで突き上げる。
「あああああっっっ!」
錆びた剣で、太股を切り裂かれた。吹き出した血の熱さが下肢まで染み落ちていく。
経験したことのない痛みに気が遠くなり、そのまま倒れそうになる。
だがこれだけははっきりとわかる。
(このまま倒れたら、間違いなく殺られる……!)
無我夢中で剣を振り回す。
骸骨の剣士たちがわずかにひるんだすきに、イシュアはとっさに、壁に空いていた穴へと転がり込んだ。
骸骨たちが穴へと押し寄せてくる。
しかし彼らはしゃがんで穴を通っては来なかった。
壁の向こうでガシャガシャと音を立てて立ち往生しているようだ。
(なんとか助かった……のか……)
四つん這いになって震える腕で身体を支える。
激しすぎる呼吸で何度も咳き込み、そのたびに脚の傷と、そして全身が痛んだ。
狂ったように脈打つ心臓が、胸と、そして左の太股にもあるようだ。
どくどくとうごめくたびに、熱い血が肌を伝って流れていくのがわかる。
そして、戦いに必死になっていて気づかなかったが、身体のあちこちに小さな傷が出来ている。
傷口からにじんだ血で、服もマントももう真っ赤だ。
(傷を……ふさがなきゃ……)
痛みと疲労と衝撃でぼんやりした頭で、イシュアは鞄の中を探った。
手布と傷薬を取り出し、怪我をした足を確かめようとして、手にしていたランプがないことに気付いた。
骸骨と戦っているうちに落としたのか。
慌てて周囲を見渡す。
そしてイシュアは絶望の光景を見ることになった。
薄暗がりの小部屋で、剣と盾を構えた骸骨騎士の小隊が、侵入者にそのうつろな目を一斉に向けたのだった。




