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はじめての迷宮 2

 そしてシルヴァ。


 なんとも不思議な人物だ。


 と、イシュアは思った。


 賭事(ギャンブル)に没頭する遊び人だが、それだけではない。

 肩に置かれたシルヴァの手のひらの感触は、何故だがイシュアに、金貨を握らせたときの老爺の手を思い出させた。

 今日初めて会っただけの男だが、その笑顔に、手のひらの暖かさに、老爺と同じものが宿っているような、そんな気がしたのだ。


「まあ、そう気負わずのんびり行きな。

 浅い階層なら、大回廊だけ通っていればそれほど危険な魔物には出くわさない。

 特に第一階層なんかは多くの冒険者がひっきりなしに通るからな、襲ってくる魔物もほとんどいないんだ」


 もちろん油断は禁物だがな、と、シルヴァは付け足した。


 その言葉を思い出し、腰の剣を確かめる。

 ルドマンからグラータまでの道中、幾度も遭遇した野盗や獣、そして魔物から身を守ってくれた、実用的で質の良い剣だ。


 イシュアは周りの気配に神経を配りながら、右の通路へゆっくりと歩を進めた。動きに合わせて、懐の鈴がちりんちりんと涼やかな音を立てた。


 さすがは大陸にその名を知られたグラータ地下大迷宮である。長い長い廊下はどこまでもはてしなく、永遠に続くかのようだ。

 まるで人の住む建物のつくりのように、廊下の壁のところどころに扉があり、分岐して別の方向へと続く廊下がある。


 書物で読んだ冒険譚では、迷宮攻略の初心者たちはひとつひとつの小部屋を確かめ、襲ってくるそれほど強くはない魔物たちを倒して経験を積み、さらに深い階層へと冒険の場所を移していった。

 たぶん行き交う冒険者たちも、そうやって腕を磨いて強くなっているのだろう。


 扉を開けてみたい衝動にかられ、慌ててイシュアは首を振った。

 迷宮に遊びに来ているわけではないのだ。

 自分の置かれた境遇を思い出して、深く息をつく。迷宮の廊下は、少しかび臭い、石の匂いがした。


 しばらく歩くと突き当たりで、廊下は左に折れていた。

 さらに進み、地上へつながる転移門がある広間を通り過ぎる。回廊の対称となる場所には、第二階層からの帰りの転移門があるはずだ。

 長い長い廊下を歩き続けて、また突き当たりで左に折れる。


 そして一度も魔物と遭遇することなく、イシュアは大回廊の最奥、第二階層への転移門へとたどり着くことができたのだった。


「……意外とあっさりしたものなのだな」

 イシュアは拍子抜けして、ずっと剣の柄に掛けていた手を下ろす。


 通ってきた廊下は、まるで街の路地のように賑わっており、たくさんの冒険者たちとすれ違った。賑やかに談笑し、魔物を警戒する素振りすらないものたちもいた。

「……もしかして、大げさに構えすぎたのか……?」

 いぶかしげな顔のまま、イシュアは転移門に足を踏み入れた。


 第二階層の廊下は第一階層とほぼ同じつくりだった。

 廊下に掲げられた燭台はまばらで、第一階層より薄暗く、そしてすれ違う冒険者たちも第一階層より少なく感じられる。

 心細さをなんとか誤魔化して、廊下を進む。

 その一歩に付き合って、懐の鈴がまた、ちりんと鳴った。

 第一階層と同じく、長い長い廊下をひたすら進む。

 やはり魔物の姿はない。想定以上に順調に進んでいるようだ。


 前方に転移門の間であろう、ぼんやりとした灯りが廊下に漏れているのが見えてきた。


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