表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

10/43

その依頼者、無謀にすぎる 8

 アリエッタ、そしてギヨームが立ち上がったままあぜんとする中、シルヴァはどっかりと椅子に座り直した。


「……ま、いいんじゃね? 降りたいっつーんだしとりあえず降りてみれば」


「ちょっとシルヴァ! あなたね……!」

「ヤベえのは間違いないけど、ヤバくなったときのための俺たちとの契約だろ?

 どの階層にいようが、ちゃんと助けに行くし、問題無しって事で」


 にかっと歯を見せて、親指を立ててみせる。


 ギヨームは苦笑して軽く肩をすくめた。

 アリエッタも、「もう!」と眉をつり上げながら首を振る。


「あ、そうそう、最も大事な注意を忘れてるぞ」

「何でしたかな?」


「ヤベえと思える間もなく殺られちまったらアウトだからな。

 なるべくヤベえと思えるうちに呼んでくれ。

 以上!」


 いたって真顔。言ったった、と、どや顔ですらあるシルヴァだ。


 うっかりまたイシュアが席を立たないうちに、ギヨームがわざとらしく咳払いした。

「では始めましょうか」

「おう。


 『契約』」


 シルヴァが短く唱えた詞に反応し、テーブル上に置かれた鈴がふわりと宙に浮く。

 淡い金色の光をまとってイシュアの胸の高さで止まった。

 おそるおそる、そっと両手で包んでみる。暖かな魔力の波動がイシュアに伝わってきた。


「王子。

 あっちの鈴に、王子の『名前』を教えてやってくれ」


 言われるまま立ち上がり、壁際の台座に近づく。


 歩を進めるにつれ、胸元の小さな鈴と、台座に掛けられた大きな鈴が共鳴し、光を放ち涼やかな音を奏ではじめた。


「……わたしの名は……『キリス・イシュア・フェルネード・オウル・ルドマン』だ」


 イシュアの口から出た言葉がきらきらと光る詞となって、二つの鈴を繋ぐ輝きに加わる。


 それを待ってギヨームが、そしてアリエッタが、空に指で己の名を書いた。軌跡が同じく光る詞になり、輝きに加わっていく。


 最後にシルヴァが指で空に名を記し、ぱちんと指を鳴らす。


 まぶしい金の光が部屋に放たれた。


「契約完了。

 これで俺たちは、王子の救援隊(レスキューパーティー)だ」


 イシュアが一瞬閉じた目を開いたその時には、すでに部屋は元通り、天窓から春の柔らかな光が差し込んでいた。




 イシュアが路地から通りへと姿を消すのを見送って、ギヨームが控えめに口を開いた。


「……珍しく強引に契約に持ち込みましたな」

「俺たちも商売だしな、営業に押しは必要だろ?」

「それだけですかな?」


 シルヴァのとぼけた答えに、ギヨームがくすりと微笑する。


「でもよかったわ。無理にでも契約出来て。

 いきなり深くまで降りて遭難でもされたら、手の出しようがないもの」


 アリエッタはまだほんの少しむくれ顔だ。


「……やっぱり止めてあげるべきだったんじゃない?

 あの王子様、無謀すぎる挑戦を自ら望んでするようには見えなかったわ」


 シルヴァはあくびをすると、踵を返して扉に手を掛けた。

「だろうな」


 イシュアの腰の剣はそこそこに使い込まれた体格に合ったもので、ブーツも履き古されていた。

 お城の奥でぬくぬくと過ごしてきただけの、もの知らずの王子ではなさそうだ。

 グラータまでの道中、獣や魔物ともやり合ってきただろう。

 己の技倆(うで)も、そして目標の無謀さも理解していそうなものだ。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ