1人目・2人目
その日、彼女は処刑された。
その様子を鮮明に覚えている読者も未だ多いだろう。
最後まで王宮に立てこもり抵抗するも革命軍に捕まった国王夫妻と実質的に政権を牛耳っていた疑心公アラン・リシャール陸軍大臣、そしてその夫人であるルイーズ・リシャール。
彼ら4人は街の広場に設置された断頭台で次々に処刑された。
諦めの表情で粛々と断頭台に首を乗せた国王夫妻。
最後まで命乞いをし続けたアラン。
そして最後にルイーズが断頭台の前に引き出された時、その姿にその広場に集まった民衆はどよめいた。
王族にのみ着用を許されている濃い青色のドレスをその身にまとい、悠然と現れた。
騒然となった民衆をよそに式は続けられ、罪状が読み上げられ指図されるがままに断頭台の前にしゃがみこんだ。
装置がセットされ、進行役が問うた。
「最後に言い残す事は。」
その問いに対しルイーズは聞くに堪えない罵詈雑言と共にその場にいた民衆を叱咤した。
その口から紡がれる言葉があまりに聞くに堪えなかった執行人が話の途中で刑を執行し、刃の落ちる音と共に辺りに静寂が戻った。
そんな最期の振る舞いから「稀代の悪女」の異名を死後に冠される事になったルイーズ。
彼女は本当に「稀代の悪女」だったのだろうか。
一般の民衆がその存在を初めて認識したのはあの時の広場だろう。それまでの彼女の事を知っている人は少ない。
そこで、その生前のルイーズ・リシャールを知る数名にインタビューを行い、その内容をここに纏めた。
彼らの証言から断片的とは言え、彼女の人となりを理解する事の一助となれば幸いである。
1人目・幼馴染/マリー
誰かの人となりを理解するうえで最も重要になる事の一つは幼少期だろう。
ルイーズは地方の寒村の出身だった。
取材は当初難航した。それも当然で村の年寄はルイーズの存在を村の恥と思っている為、なかなか取材に応じてくれなかった。
そんな中、ルイーズと同世代の女性マリーが唯一インタビューを受けてくれた。
「いやぁ、助かりました。村のご高齢の方々は皆、「知らない、答えたくない。」の一点張りだったもので。」
「しょうがないですよ。あんな最期でしたから。」
優しく微笑みながら私の労をねぎらってくれた。
「では、本題に入らせていただきます。彼女、ルイーズはどのような少女だったのですか。」
「彼女はとっても頭が良かったですね。」
私の中の彼女の印象は、一番にやはり頭が良いことだと思います。
こんな辺鄙な村なので、大人たちでさえ文字を読める人は一握りでした。
そんな中で彼女は教会での礼拝で耳で覚えた一節と教典に書かれてある一節を当てはめる形で、教典に書かれている単語を勉強していったそうです。
それを覚えては教会の司祭様に正誤判定をしてもらうのが、一時期彼女の中でブームになっていたみたいで。
しまいには司祭様も本格的に読み書きを教えてあっという間に読み書きを覚えてしまいました。
近くで見ていた私にはさっぱりわからない文字の羅列を、記憶だけで淡々と書き記す彼女に尊敬の念を覚えたものです。
性格も明るくて社交的。あの頃は村の皆から好かれる存在でした。
読み書きが出来る事もあって、村人から色々と重宝がられていました。
子供で女性ながら村の役に立っている彼女は、私たち他の子どもにとってあこがれの的でした。
勝手にそのまま村で育ってこの村の重要な人物、それこそ村長とかになるのかもなんて噂を他の子とよくしたものです。
そんな中で彼女の人生を一転させたのはやはりあのポスターだと思います。
志願兵を募るポスター。
今思えばこんな村に貼り出した所でなる人が居ないと思いますが、まあ上からの命令で仕方なく貼り出されたのでしょう。
ポスターが貼られて以来、その前に立ち尽くしポスターを凝視している彼女を数回見かけました。
「ルイーズ。またこんな所に居たの。」
「ああ、マリー。あなたはこのキャッチフレーズどう思う。」
前に彼女に読んでもらったことが有ったので内容は知っていました。
彼女が指さしたポスターには大きく目立つ文字で、
「この国を守るには若い君達の力が必要だ」
と書かれていたそうです。私は率直な感想を答えました。
「なんのひねりも無い、普通の文章だと思うけど。」
「この「国を守る」って何から守るのかしら。」
「普通に考えれば敵国じゃない。」
私にはいまいち彼女の疑問の意図が読み取れませんでした。
「そうね。志願兵つまり軍隊は外からやってくる敵を防ぐためにあるわ。
でも、内側からこの国の敵が現れたら誰がそれをやっつけるのかしら。」
なんとなく彼女の言わんとしている事が分かりかけてきました。
「単純に暴力的な訴えをする反体制組織とか、中枢から腐らせていく汚職や賄賂とか。
更に言ったら、「この国」って何を指すのかしら。王様、政府、国民、国土。どれも正解のようだしどれも不正解に思える。」
彼女は既に独り言のように成っていました。彼女の数少ない欠点の一つです。考え出すと周りが目に入らなくなる。
そんな一人で自問自答の様な事をしている彼女を眺めている時間は決して嫌ではなかったですね。
そんな感じの日が何日か続いた後、彼女は突然村から居なくなりました。
彼女が身を寄せていた孤児院にはただ「街に出ます」とだけ言い残したそうです。
彼女が何をしたいとかの話をした事が無かったので、街に行った後の事はわかりません。もしかしたら女性ながら志願兵として入隊したのかもしれませんし。
私がお話できるのはそれぐらいですね。
「いろいろと貴重なお話をありがとうございます。」
「お役に立ちますでしょうか。」
「それは十分に。インタビューの最後に一つ質問をさせてもらっても良いですか。
マリーさんの知っている幼少期のルイーズと最期のルイーズ。傍から聞いているだけだと随分と印象が違う様に思えたのですが、どう思いますか。」
「そうですね。私もそう思います。少なくとも巷で言われているような「王位を簒奪しようとした」と言う話は、私には違和感が有りますね。
私の知っているルイーズはもっと知的な印象で、そんな野蛮な手法は取らないと思うんです。
まあ、私の知らない間に考え方が変わっている可能性も十分にあり得ますが。」
「そうですね。本日はありがとうございました。」
十分な収穫を感じながらその村を後にした。
幼少期からルイーズは頭の回転が速く秀才だったようだ。そしてインタビューに答えてくれたマリーはどうやら知らなかったようだが、ルイーズはこの村を出た後に実際に志願兵に応募し入隊している。
女性ながら軍隊に入隊を目指した理由は定かには成らなかったが、少なくともこの村でそのポスターを見た時に何かの目的のためにそのような決心をしたようだ。
その目的がポスターに書かれていた「国を守る」なのか、はたまた「王位を簒奪しようとした」なのかは既に知る由も無くなっている。
ーーー
記者が帰った後、残されたマリーの心の中は未だに幼少期のあの頃の記憶に浸っていた。
取材に来た記者には悪いがあえて話さなかった部分が有った。
彼女がポスターの前に立っている。その表情は憎しみに満ちていた。
彼女の両親はこの時には既に他界していた。
もともとこの寒村の中でもより貧しい一家だったが、両親は重税に苦しめられ娘一人を残して自ら命を絶った。
彼女にとって国とは両親の仇だった。
そんな国の志願兵のポスターを尋常ならざる表情で凝視している。彼女はその激しい瞳で何を考えていたのだろう。
私にできる事は何気ない感じで明るく話しかける程度の事だけだった。
「ルイーズ。またこんな所に居たの。」
他愛もない話を続けそのポスターについて意見を交わした。
彼女はそのポスターというより、軍隊にご執心のようだった。
「そんなに気になるんだったら応募してみれば。」
軽い気持ちから、ふと口にした言葉。
「え。」
頭の回転の速い彼女でも流石に聞き返された。
「だって、募集要項には男子のみとは書かれて無いんでしょ。」
「そりゃあ、そうだけど。」
改めてポスターをまじまじと見直す彼女。そんな当たり前な事をわざわざ書き込めるほどポスターのスペースは広くない。
「書類に「男」って書いといてそれっぽい格好していけば、何とかなるんじゃない。入隊した後にばれても後の祭りだし。」
「・・・。」
彼女が真顔で無言になる。あの表情はこんな与太話を本気で考察しているのだろう。
ややあってから一言つぶやいた。
「そんな事が出来たら、この国を内側から変えられるかな。」
「上り詰めればもしかしたらね。」
適当に答えた。彼女がどこまで現実的に考えているかは不明だが、私にはただの荒唐無稽な話にしか思えなかったからだ。
しかし、彼女の瞳に光が差し、その奥に激しい野望が宿るのを感じた。
そして、その数日後に彼女はこの村を去った。
街に行くとの話だったが、たぶん志願兵に応募するのだろう。
翻って今の私は、あの時の与太話を後悔していた。
もしあんな思い付きを口にしなかったら、彼女はあんな最期を迎えなかったかもしれない。
この村で国への恨み節をつぶやきながらも、そこそこ幸せな一生が送れたかもしれない。
彼女を穏やかな日常から激しい非日常へ一歩歩ませた一因は自分にあるのかもしれない。
そんな心の奥底に若干の後悔が有ったため、記者には話せなかった。
それに私しか知らない彼女の様子は、最後まで保守的に国王を守ろうとした政府軍と言うよりは、その制度ごとすべてを一回破壊して新たに再構築を目指す革命軍の方が合っている気がしていた。
あの記者がどのような文章を綴りたいのかは知らないが、多分余計な情報だろうから話さなかった。
一つ大きく体を伸ばして、頭を切り替えて仕事に戻ることにした。
ーーー
2人目・軍人/ニコラ
出身の村を単身飛び出したルイーズの次の足跡は軍隊の兵卒として残っている。
記録の上では最下層である兵卒を1年ほどで抜け、その後はエリートコースとでも言うべきスピードで昇任を繰り返した事が分かっている。
裏を返せば、そんなエリートだったルイーズも最初の1年ほどは他の兵卒達との共同生活をしていたという事になる。
その兵卒達との共同生活でルイーズと相部屋だった人物と接触する事が出来、インタビューを行う事が出来た。
「ニコラさん。本日はインタビューをお願いします。」
「しかし、よく俺にたどり着いたな。ルイーズと相部屋だった話は仲間内ですらした事無いのに。」
「そこは一応記者ですから。地道に調べるのが本分でして。」
「そうかい。で、彼女についてだろう。俺にはそんなに話せるほどエピソードを持ち合わせていないぞ。ただのルームメイトだし。」
「それでも同室だからこそ見てきたであろう、ルイーズの素顔的なものを教えていただければと思いまして。」
「ルイーズは入隊当初から噂の的だったな。まあ、女だからしょうがないけど。」
先に断っておくが俺の話の大半が聞いた話や噂話ばかりだからな。
当然だが軍隊という組織は大きいし、俺はその底辺の一粒だ。この耳に入ってくる話の質はそりゃあ推して知るべき事だな。
入隊の面接試験の時からだいぶもめたらしい。書類上は男だったはずが面接をしてみれば女だった訳だ。
さすがに面接官がにべもなく入隊不許可を言い渡そうとした時に彼女が言い返したらしい。
「国を守るのに男も女も有るのですか。そんな選り好みをしていられるほどこの国の軍隊は余裕があるのですか。」
売り言葉に買い言葉で彼女の入隊が許可されたらしい。ただし女であることの特別扱いはしないという条件の下で。
そんなわけで晴れて入隊した彼女に与えられた部屋が俺との相部屋だった訳だ。
貴族を始めとしたエリートたちが通う士官学校とは違って、この兵卒達の寮に居る連中は基本頭の中まで筋肉な奴らばかりでな。
そんな奴らと一緒になって、格段体格に恵まれているわけでも無い女が訓練を受けるんだから実技訓練の成績はいつも最下位争いだった。
それに対して座学で行う講習の成績に関しては誰一人太刀打ち出来なかった。
俺もどちらかと言えば頭の中が空っぽの方だったから、座学の講習には全く付いていけなかった。
さて、どうしたものかと考えて、ある日の夕食後の自由時間に同室で読書に励む彼女に座学の講習内容の補習をお願いした。
あっさりと快諾してくれて、わかりやすく解説をしてもらった。
「いやぁ助かった。なんせ授業に全くついていけてなかったから。」
「これぐらいであればお安い御用です。いつも実技で皆さんの足を引っ張っている身としては、これぐらいはお礼のうちにも入らないですが。」
「いやいや十分にありがたい。じゃあついでに俺の友達たちにも教えてやってくれないか。皆俺と同じような所で躓いてる。」
「皆様のお役に立てるのであれば、是非にでも。」
そんな感じで彼女を講師とする有志の勉強会みたいな物が始まった。
始めの内は俺みたいな落ちこぼれ達が集まって勉強会だったのが、友人の友人と言った感じで興味を持って集まる人が増えていった。
遂には全体の成績で言えば当然彼女のほうが高いにしても、特定の一部の内容に関して突き抜けて頭がいい人なんかも顔を出すようになった。
そうなると勉強会というよりは討論会と言った状況になっていき、俺を含めその場に居合わせた他の奴にできることはただ聞き入るだけだった。
まあ、半分も理解はできなかったけど。
いくら二人部屋でやや広く作ってあるとはいえ、大勢が入れば窮屈になる。
寮には談話室が有ったからそこを使えば更に大人数で勉強会を行えたかもしれないが、そこは常に脳筋の人たちが集まっている場所だったからな。
そんなところで勉強会を開いたら互いに気分悪いだろう。
そんな感じでで夕食後の自由時間にはほぼ毎日の様に誰かが俺たちの部屋を訪れて、勉強会や討論会を開いていた。さながらサロンだな。
俺の役目なんか時計係さ。消灯時間は厳守である以上、どんなに議論が白熱していても時間で終了してもらわないと、指導教官からの体罰が待っている。
俺が相部屋で実際見てきた彼女はそんな感じだな。
それ以外に彼女周りの面白そうな話と言えば、噂話か。
兵卒の寮なんて男しかいない所に、女を一人入れれば当然色欲的な噂話が数多く立ち昇る。
曰く「気に入った男を入れ替わり立ち代わり部屋に連れ込んでる。」
曰く「昇任を枕営業で手に入れようとしている。」
曰く「気に入った男はむさぼり尽くすが、気に入らない男はものを切り取った上で殺害した。」
どれもこれも少し考えれば現実味の薄さに気が付きそうな他愛もない噂話ばっかりだな。
俺と彼女の相部屋に他人が入ってくる時は勉強会か討論会が開かれている時で、噂みたいな色欲的な理由での出入りは俺の記憶している限りは無かったな。
まあ、彼女の行動を全て観察している訳ではないから、誰かの部屋に逢引に行っていたら俺の知るところではないけど。
そして、既に調べて知っているとは思うけど、相部屋になって1年とたたずに彼女の昇任が決まり彼女は出て行った。
流石に彼女ほどの頭の切れる人間をそんな下っ端に置いておくのはもったいないと、上層部も考えたんだろう。
彼女とはそれっきりだ。次に出会った時には断頭台で処刑されてた。
「すぐ傍に居た人でないと知りようもない話をいろいろとありがとうございました。」
「こんなんで役に立つのか?」
「少なくともルイーズの優しさ的なものは知ることができました。聞いていて疑問が浮かんだのですが、ニコラさんの話に出てくる兵卒時代のルイーズは慕う人に囲まれていたのですね。
最期のイメージから勝手に孤高と言うか孤独と言うかの感じで兵卒時代を過ごして来たのかと思っていました。」
「そう言われるとそうだな。確かにあの頃は彼女の周りに人が集まっていた。」
「しかし、最期はどちらかというと一人ぼっちで味方はいませんでしたね。」
「あの頃に集まっていたのは、俺なんかと同じで昇任とは縁遠い下っ端達だからな。彼女の味方をしようにも権力は無いし、声を上げても簡単に掻き消える。
実際に俺自身も、あの時は軍隊の一員として暴動等が起こらないように警備に当たっていた。今から処刑されようとしているのがルイーズだと気が付いたのは、名前が読み上げられたその瞬間だしな。
昔にどんなに仲が良くても、あれだけ身分に差が開いたら出来ることなんて何もないさ。」
「・・・確かにそうですね。本日はインタビューありがとうございました。」
「こちらこそ。久しぶりに昔話ができて楽しかった。」
こうしてニコラさんへのインタビューを終えた。
入隊直後の兵卒の時も、幼少期からの性格は変わっていなかった。利発で優しい、人当たりの良い人物。
いろんな人に話を聞けば聞くほどにルイーズの最期の時とのイメージの差が広がっていく。
それほどまでにその後の人生が彼女の価値観を曲げたのだろうか。
ーーー
インタビューを終えて、煙草に火を付ける。
目の前の記者には、恥ずかしすぎてとてもじゃないが話す気にはなれない日の思い出を思い返す。
ルイーズの昇任が決まり、相部屋から移動となる前日の夜。
食後の自由時間に親交の深かった数人とともに送別会的な事を行い、それも終了して消灯時間後。
それぞれのベッドに潜るもまだ二人とも起きていた。
「とうとう君と同じ部屋で寝るのもこれで最後か。」
「こっちはせいせいするぜ。やっと静かな部屋が戻ってくる。」
強がりを言ってみた。本音はやはり寂しい。
「つれないなぁ。これでも私は君にかなり感謝をしているんだよ。」
「感謝されるような事、特には無いだろ。」
「君がルームメイトであったお陰でどれだけ救われたか。
お礼の気持ちも込めて、最後の夜だし抱いてみるかい。」
あまりの唐突な提案に驚いて彼女の方を見てしまった。そこには悪魔のような悪い顔があった。
「・・・お前みたいな底の知れない奴を誰が抱くか。後で何を要求されるか分かったものじゃない。女を抱きたくなったら街でプロでも買うさ。」
提案を否定すると彼女はいつもの笑顔に戻った。
「そういう所が安心できる。君が居てくれたから夜に無駄な不安を抱かずに済んだ。
不必要な事に神経をすり減らさなくて済んだから、目標に向けて集中する事が出来て事が早く進んだ。」
彼女の目的。実際に彼女の口から聞いた事があるわけではないが、勉強会や討論会での彼女の持論を聞いているとおぼろげながらやらんとしている事が見えてきていた。
「今回の昇任もその一歩なわけか。」
「そうだな。しかしここから先が険しそうだ。私が女である以上すぐに限界が来そうだ。」
確かに軍隊に女がいる事すら珍しいのに、上に行けば更に前例の無い未知の状況。
「そうなったら、その辺のボンボンでも捕まえて玉の輿に乗ればいいんじゃないか。」
「なるほど、軍閥貴族の将来有望そうな御曹司にでも捕まえてきて色仕掛けを掛ければ良いのか。」
「そうそう。そうすればあっという間に遥か上まで行ける。」
言い出したのは自分ながら、適度に興味が無くなってきて適当な受け答えをした。
「しかし、そんな事になったら君が寂しい思いをするんじゃないのか。」
見れば厭らしい笑顔。
「寂しくなんかならないから、さっさと上に行ってしまえ。そうすれば二度とお前と顔を合わさなくて済む。」
「酷い言われようだな。君は一緒に上ってきてはくれないのかい。」
「無茶を言うな。俺はそんなに賢くない。上がってせいぜいあと一つか二つ。その先には二階級特進だけだ。」
「君だったら他の方法だって出来るだろう。君のリーダーシップは私が保証する。」
「おだてたって何も出来ないさ。さ、さっさと寝よ。お前だって明日は忙しいんだろ。」
「それもそうだな。では、お休み。」
そのまま俺とルイーズは眠りに就いた。
ーーー