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じんわりと溢れて止まる事のない涙を堪えながら地面に倒れた。自分の不甲斐なさを感じながらも立ち上がろうとするが、ズキンと膝が痛んで上手く起き上がれない。グッと拳を握り孤独を感じている李栄がいる。傍にいたのに何も出来なかった自分を責める事しか出来なかった。
「私が傍にいたのに……」
弱音を混じらせながらぽつりと呟く。その声を聞く者は誰もいない。そんな彼女の気持ちが伝わったのか少しずつ足音が近づいてくる。顔を伏せたままの李栄には届かない。ぐるぐる回る感情の中で溺れていた。もうどれくらいの時間が経ったのだろうか。地面の冷たさが体に浸透していく。このまま一人なのかなと不安になりながら落胆していた。
その時だった。ザッと草履が土を跳ねる音が聞こえた。李栄は確認するように顔をあげるとそこには春宋の姿があった。走ってきた春宋は息が上がっている。表情には出していないが必死に走ってきたのだろう。
「……遅くなってすまないね。迎えに来たよ李栄」
そう告げると右手を差し出してくる。一つの希望のように輝いて見える春宋の姿に引き寄せられるまま手を掴んだ。彼の手伝いもあり、起き上がろうとする彼女だが、鈍い痛みが足を襲う。自分の限界以上に足を使った為上手く動かせない。膝の痛みは耐えれても、それ以上は難しかった。
「足が痛いんだね、じゃあ」
スッと李栄を抱き上げる。二人の距離は近づき、互いの心臓の音を感じれる事が出来る。トクンと鳴る音の欠片はまるで鈴の音のようで心地よい。まるで昔からお互いを知っているような感覚が広がると手の中にいたはずの李栄が消え、その代わりに懐かしい人が現れた。
「君は……」
にっこりと微笑む懐かしい人は首を横に振りながら彼の唇に指を重ねた。これ以上は言葉にしてはいけないと伝えているように思えた春宋は出かかっていた言葉を飲み、頷く。
魂と魂が抱き合いながら二人の夢が続いていく。この子は彼女が引き合わせた魂が形となった存在、そう思う事で納得する春宋。どうしてこのような事が起きているのかは分からない。ただこの温もりは偽りではなかった。
「ありがとう」
見えていたはずの彼女と李栄が一つになり、元の世界へと戻っていく。白昼夢の中でいたような錯覚と現実が混ざり合いながら、元の形へと戻るのだ。
自分の腕にいる存在をもう一度確かめると彼女の姿は消えていた。その代わり嬉しそうに笑う李栄の顔があった。
「君の妹は医者が見ているから大丈夫。よく頑張ったね」
春宋の言葉を聞き、益々笑顔になる。重ねながらも少しずつ四合院へと近づいていく。