アリナ
話を終えアルの部屋から出てきたアリナを待っていたのは、シャルル専属のサラサだった。
「わたくしの侍女はどちらへ」
「はい、シャルル様が王宮へ呼び出されたことを伝えましたところ、念のために後をついていくと言っておりました」
王宮に?なんのよう?
タイミングがよすぎるわね。
さすがわたくしの侍女、リリーね。いい仕事をしてくれますわね。
「わかりました。部屋に戻って準備します。手伝ってください」
サラサにはシャルルに何かあったら、すぐに知らせるよう言ってあった。
「何かあるのでしょうか?」
「わかりません。ないといいんですけどね」
わたくしの勘があってないことを願う。
さっき聞いた大臣の禿げた顔を思い出す。アリナはあの胡散臭い顔が大嫌いだった。なぜこんな男を大臣にしておくのか不思議だったのだ。
表だって悪いことはしないから、証拠もないので捕まえられない。と言っていたのはお兄様だったかしら。
シャルルに手をだしたのなら容赦はしない。
部屋戻って動きやすい格好に変えていると、窓際に白い鳩が止まった。足の先に手紙が巻き付けてある。
アリナが近づいて手紙をみた。
『シャルル様の馬車は王宮へは向かわず、ハンドル家所有の倉庫へ』
グシャリと手紙を潰す。
やってくれましたね、あのタヌキおやじ。なんて愚かなことを。でもことを急ぎすぎました。
アリナの口元に弧を描く。
「アルのところにもどります。あなたはこれをお兄様に届けてください」
潰れた手紙を預けたサラサが部屋を出ていくのを見送ると剣を腰にさし、髪をポニーテールにしてアルの所に戻る。
扉の前にはさっき倒した護衛の騎士が、驚いて後退り道を開けた。
これは後でお兄様にきっちり教育していただかないと、ダメですわね。
バン。
「大変ですわ。シャルルが拐われました」
「なに?シャルルが!」
「大臣にやられましたわ。いきますわよ」
「アリナ!お前も行くのか」
ふたりを睨み付ける。
「3人の中で一番強いのですから、当たり前ですわ」
◇◇◇
倉庫の近くにいくとリリーが側によってきた。
「お待ちいたしておりました」
「状況はどうですの?」
「今しがた大臣が入っていったところです」
今しがたですか。ならナイスなタイミングですわね。
「どうするんだ?」
アルが聞いてくる。
何を悠長なことを言っているのでしょう。
「そんなの正面から入ってくに決まってますわ」
侍女は頷き扉の前の見張りを素早く倒す。
アル達はオロオロしているが放っておく。
バーーーン
おもいっきり開けるとそこにはシャルルが手を後ろで縛られて地面に座らせている姿がみえた。
ふざけてますわね。
「なんだ貴様らは!!」
タヌキおやじ…大臣のハンドルが大声をあげる。
「シャルルを返してもらいますわ」
周りにいる5人の護衛が剣を抜く前に5本の短剣を素早く投げ、倒れていく。
それを見たハンドルは後退して、膝をついた。
「ハンドル家当主カロン、もうおしまいですわ。降参しなさい」
「ば、ばかな…小娘がごときに敗北するのか…」
「そうですわよ。あなたはことを急ぎすぎた。だから小娘ごときに敗北しますの」
カロンはゆっくりと立ち上がり、剣をぬく。
「いや!お前を消せばなんとかなる!」
叫びながら向かってくる。
「甘いですわ!」
カロンに向かって剣を振るう。
「ばかな…」
一言洩らし地面に倒れた。
バカはそちらですわ。血のついた剣をはらって鞘に納めた。
「シャル!」
アルがシャルルの元に駆け寄っていく。
「今まですまなかった!シャル」
「いえ、大臣から聞きました。アルが留学した理由を。私の為だったのですね」
ふたりで見つめあっている所まで歩き、シャルルの縄を切る。
「アリナ!」
シャルルはわたくしを抱きしめたい。横で両手を広げているアルがいる。自分の方にくると思ってたのですわね。5年も放っておいたのに。残念な人ですわ。
シャルルを抱きしめ返す。
「もう大丈夫ですわ。帰りましょう」
「うん」
涙目で頷くシャルルは満面の笑みを向ける。
「アル達はお兄様がくるまで待機でお願いします」
「え?」
無視をして馬車に向かった。
シャルルはアル達を少し気にしていたが、馬車に乗り込んだ。
「ねぇアリナ。アルのことを大臣に聞いたとき、正直ふざけるなと思ってしまったの。大臣にも怒りを感じたけど、1人でそれを抱え込むアルにも思ったのよ」
「そうでしょうね」
「それでね…アルに嫌われてなかったことはわかったんだけど、アルと一緒にいたいのかわかんなくなっちゃた…」
悲しそうな顔でうつむいてる。
「シャルはどうしたいんですの?」
あなたが悲しそうな顔をする必要はないですのに…
目を細めてシャルルを見ていると、突然顔をあげた。
「それでね!今思い付いたのだけど私も留学しようと思って」
さっきまで悲しそうな顔をしてのに楽しそうに話すのを驚いて見てしまう。
「あっ、すごく長い間では訳ないのよ。せっかく旅立つ予定で外国語も覚えたんだし…外に出てみたいと言うか…」
最後の方は声が小さくなっていく。
チラチラと私の顔を見てくるシャルル。思わず笑ってしまう。
「あはは、いいですわね。私もご一緒しますわ」
驚いた顔で私を見る。
「いいの?」
「一緒にいくと言いましたでしょ。この際仕返しに黙っていきましょうか?」
ウィンクをしながら言うと、シャルルは嬉しそうな顔をした。
「アリナがいてくれてよかったわ」
ふたりは久しぶりに心から笑いあった。