白い犬と推し活 2
子犬が離れてくれないので、メルシアは抱き上げて公開訓練を見学することにした。
見れば見るほど子どもの頃にみたラティに似ている。
「……そう。子どもの頃のランティス様も姿絵にして大陸全土に頒布したいほど可愛らしかったわ」
朧気ではあるが、記憶の中でメルシアに笑いかけるランティス、そして子狼時代のラティ。
そして目の前の子犬。
(あまりに似ているのよね)
そう、目の前の子犬は緑のエメラルドのような瞳以外、あまりにも子狼時代のラティに似ているのだ。
しかし、盛り上がり始めた会場のざわめきにメルシアの思考はひととき停止する。
『わふっ?』
「そうね。今は、ランティス様を応援しましょう」
メルシアは、遠く離れた場所で開会を宣言するランティスを見つめた。
騎士服に身を包んだランティスは、いつ見てもあまりに格好いいのだった。
***
そしてそのころ、メルシアを見つめる人影が多数。
「なあ、いつの間にあの二人の間には……」
困惑したような野太い声は、騎士服に身を包んだ筋骨の騎士のものだ。
「バーナー、それはないでしょう」
「ベルトルト、しかしあまりにも隊長に似ているぞ。しかも、あの瞳の色」
赤毛のベルトルトが、小さく首をかしげた。
その後ろから、妖艶でありながら朗らかな声がする。
「これは、事件の香りだね。ふむふむ、あの子犬からは闇魔法の気配がする。それに、光魔法を持っているみたいだ、犬なのにおかしいよね? 犬かな、本当に犬なのかな」
「闇魔法といえば……」
あまり関わりたくないな、と内心で思いつつもそんなことは欠片も表に出ずベルトルトは微笑んだ。
振り返れば、今日も黒い霧を纏ったリスを肩に乗せ、足下の地面からふよふよ小さな腕が生えている上級魔道士アイリスがいた。
「……つまり?」
「……一つの仮説としては。闇魔法とフェイアード卿によく似た犬? 光魔法の気配と緑の瞳」
ぷるんっとした赤い唇に当てられた細い指先。
彼女は仮説を検証するために思考の海へと沈んでしまったようだ。
攻撃魔法では特級魔道士に及ばないが、彼女は天才だ。
おそらく答えに行き着くのだから、あとで答えを聞けば良いだろう、とベルトルトは視線を逸らした。
視線の先には、夢中になって試合を応援しているメルシア。今は、カルロスとディンが試合をしている。間もなく、ベルトルトとバーナーの順番も回ってくるだろう。
「気になることは多いですが、無様に負けるわけにはいきませんからね」
気になることは山積みだとしても、公開訓練で最下位だった隊員は全員に肉を奢ることになっている。それくらい、と思うかもしれないが、白銀隊の隊員たちはとにかくよく食べるのだ。
ベルトルトは愛剣に視線を向けて、精神を集中するのだった。
最後まで、お付き合いいただきありがとうございます。下の☆を押しての評価やブクマいただけるとうれしいです。




