【電子書籍配信記念】白い犬と推し活 1
12月22日シェリーLOVEノベルズより電子書籍配信。SSにならなかったので、分割しました。
それは晴れやかな青空と暖かい陽気の絶好の……。
「推し日和です!!」
気合いを入れたメルシアは、ランティスの瞳の色と同じオリーブイエローのドレスを身につけている。
一見するとその色は枯れ葉のように地味に見えて、細部には生成りのレースが豪華に飾り付けられ、白銀の大きな宝石がついている気合いの入りようだ。
フェイアード侯爵家の使用人たちの気合がすべて込められているが、メルシア自身は「推しカラーとは、さすがランティス様を推す同士の皆さん!!」という解釈をしている。
そんなメルシアが豪華や馬車から騎士団の公開訓練会場に降り立つと、一匹の白い子犬が走り寄ってきた。
「……は、はわ!?」
その子犬はモフモフの毛並みをしていて、瞳の色こそグリーンだがラティにそっくりだ。
犬好きのメルシアがしゃがみ込むと、嬉しそうにぶんぶんと尻尾を振りながらその子犬はメルシアの膝に乗り上げてきた。
「は、ハイネスさん!!」
「奥様……いつの間にお二人はそこまでの仲に」
「え?」
「いえ、そのようなはずございませんでしたね。捨てられたのでしょうか。しかしそれにしては手入れが行き届いているようです」
ふわふわの毛並みは触れるとフカフカ心地よい。
思わず顔を埋めかけたメルシアの肩に触れ、さすがにハイネスが止めに入る。
「そ、そうですね。初対面なのにあまりでした」
「いえ、というよりも……」
「メルシア!!」
そのとき、あまりにも幸せそうな甘い響きを含んだ声がした。
勢いよくメルシアが立ち上がると、その声の主はあっという間に彼女の元へと駆けてくる。
「この国の騎士団の制服は、やっぱりランティス様のために作られたに違いないわ……。素晴らしすぎる、デザインされた方に感謝の気持ち……気持ちだけでは足りないわ。何か形で酬いることは!?」
「落ち着いてください。その言葉を聞いてしまったら、おそらく旦那様は一日中騎士服を着て過ごしそうです」
「はわわ、なんて素晴らしい」
「……」
ハイネスが完璧な執事長としての笑顔を見せた。
浮かれすぎてしまったと、メルシアが背筋を伸ばす。
「ああ、でも私服姿もどの角度から見ても素敵です。それも姿絵にして王都中に広めたいくらい尊いし」
「……メルシア?」
「ランティス様!!」
笑顔のメルシアに、ほんの少しだけランティスが困ったような笑みを向ける。
何かあったかとメルシアは首をかしげた。
「もしや、派手すぎましたか? でも、これは推し活のですね」
「いや、可愛すぎるから」
「えっ?」
可愛らしく編み込まれたメルシアの頭部をランティスがそっと撫でた。
『ワフッ!!』
その時、少々威嚇するような甲高い鳴き声がメルシアの足下から聞こえる。
「……この子犬は」
『ワフッ!!』
高さは違うけれどどこかで聞いたことがあるような鳴き声だと思うメルシア。
ランティスが険しい表情で子犬を見つめる。
「着いてきてしまったのです! ごめんなさい。神聖な騎士様の訓練場に犬を入れてはいけなかったですよね」
「……それは」
それをいうなら、狼姿でいるランティスはどうなるのだろう。
何となくこのまま会話を続けたら、ラティの姿にいつもより早くなってしまいそうだ。
開始の太鼓が鳴り響く。
「開幕の挨拶をしてくる。ゆっくり見学してほしい」
「この神対応を大陸全土に……」
うっとりしてしまったメルシアの髪をひと房手にして唇を落としたランティス。
「はは、メルシアが喜んでくれるのならいつでも披露する」
「えっと、怪我などしませんように」
「ああ、すべて倒してメルシアに勝利を捧げよう」
最近、30分で狼姿にならなくなったランティスは、こうしてどこでもメルシアとともに過ごせるようになった。
嬉しいけれど、婚約破棄(未遂)されたことを思うとこの幸せが信じられないとメルシアは思うのだった。
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