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光魔法と夜の住人 4



 靴を脱ぎ捨ててベッドの上に座ったメルシアと、おすわりをしたランティス。

 そこには、色っぽさを感じる空気はひとつもない。

 

 それでも、飼い主にしか見えない少女を見つめている白い狼の瞳は真剣で、少しでもその動作と声を逃さないとでも決めているようだ。


 淡い茶色の髪の少女の唇が、ほんの少し震えた瞬間、白い三角の耳はその音を聞き流すまいと、ピクピクと動く。


「ランティス様……」

「ワフッ」

「……ラティ」

「……ワ、ワフ」


 珍しくメルシアから逸らされたランティスのオリーブイエローの瞳。

 少しだけ耳を染めたランティスが、恥ずかしがっている姿が、目に浮かぶようだ。


「ラティ!」

「ワフッ!」


 会話は成り立っていない。だって、誰が見たって、メルシアが大きな白い犬に話しかけているようにしか見えない。

 でも、白い壁と、ベッドが一つのこの部屋には、二人の他に誰もいないのだから、他人の目なんて気にする必要もない。


(いつも、ラティは、私に真っ直ぐ好意を伝えてくれた)


 婚約破棄を告げられたあの日、ラティに告げた言葉は、本当はランティスにぶつけるべきだったのだと、今ならメルシアにもわかる。

 だから、気がついたことを、メルシアはランティスに告げることにした。


「ランティス様、もしかするとランティス様が、私の前で狼になってしまうのは」


 告げようとした言葉は、バチバチッという雷が落ちる直前のような音に遮られる。


 その音と共に、目前に生まれた紫色の光を帯びたメルシアの身長ほどの魔法陣。

 その魔法陣は、魔法に慣れ親しんだメルシアでも、見たことがない文字で埋め尽くされている。


 魔法陣の真ん中から、差し伸べられたのは、細い女性の手だ。その手が、メルシアの腕を掴む。

 

「グルル……」


 聞いたことのない、ランティスの唸り声。


(まだ、人間の姿に戻れないんですね……)


 ランティスが、人に戻れたなら、なんとしてもメルシアを助け出しただろう。威嚇する必要なんてないのだ。


 掴まれた手は、振り解こうと思えば解けそうだ。

 けれどメルシアは、「ごめん……」と魔法陣の中から聞こえた声に、腕の力を緩め素直に従うことを決めた。


「ガルゥッ!」


 ランティスが、その手に向かって飛びかかったのと、魔法陣が消えたのはほぼ同時だった。


「っ……」


 その名を叫ぶことすらできない、もどかしさとともに、ランティスの胸中は、自分とこの姿への嫌悪で埋め尽くされていく。


 だが、それも一瞬だ。


 もどかしく白い毛で覆われた小さな手で鍵と扉を開くと、ランティスは隣の部屋に駆けて、早く開けろとでもいうように、扉に体当たりをした。



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