光魔法と夜の住人 1
(このまま、翻弄されてしまうのかな)
強い緊張感。けれど、その感覚は決して不快なものではない。
抱きしめられているせいなのか、ランティスがくれたものだからなのか、メルシアにはわからないのだけれど。
「お待たせぇ!」
その瞬間、勢いよく扉が開いて、慌て過ぎたメルシアは、ランティスを思わず押しのけて距離をとってしまった。
「……あら、やっぱりお邪魔しちゃったかな?」
「アイリス」
「それにしても、ハイネス卿の訓練は相変わらず過酷だよね」
いつもきっちりと、くくられたポニーテールが乱れているところを見ると、厳しい訓練だったのだろう。
そして、ほかの騎士達はいない。つまり、アイリスだけ上手く抜け出してきたに違いない。
「それで、用はなんだ」
「相変わらず、フェイアード卿はつれないよね?」
「…………」
「……少しだけわかったよ。メルメルが巻き込まれた事件」
その瞬間、ランティスが殺気立ったのが、メルシアにすらわかった。
ランティスがメルシアを傷つけることはないと理解しているから、怖いとは思わないにしても。
「メルメルを前にそんな気配。余裕がないねぇ」
「……話せ」
「うんうん、もちろん。でも、その前に、研究のデータ教えてくれるかな? どれくらいで、狼に戻ったの」
ランティスの冷たい雰囲気に耐えて、自分のペースを守ることが出来るアイリスを、メルシアは素直にすごいと思う。
魔道の探求のためには、それくらいの気概がなければいけないのだろうか。
「…………はぁ。……2時間だな。そのあとは短くなって、今は元通りだ」
「――――そう。思ったより長持ちしたね。ところで、メルメルの魔力以外の関連因子はありそう?」
「…………おそらく」
「ふ~ん」
そこまでの、強引さが嘘のように、それだけ呟いて引き下がったアイリス。
赤い唇に触れる人差し指。すでに、その思考は原因の追究で一杯なのだろう。
「…………あ。そうそう。忘れかけていたね。メルメルが巻き込まれた事件、私と関連ないとは言えないんだ」
「――――ロザリス公爵家」
「…………シンが所属していたのは、私がいた場所と同じだった」
「そうか」
「気になることが二つほどあるんだ。聞いて欲しいけど……」
アイリスが珍しく言葉を濁らせた。
ちらりとメルシアに向けた視線から、おそらく聞かせたくないのだろうことが察せられる。
アイリスとシンが所属していたという場所に関連するのか、それとも別の件なのか。
「あの、私」
「すまないが、隣の部屋で待っていてもらえるか」
「はい」
気になるのだとしても、騎士団の二人が話す内容だ。
いくら婚約者なのだとしても、部外者であるメルシアに聞かせたくはない内容も勿論あるのだろう。
メルシアは、素直に納得して部屋を出ようとする。
「あ、待って」
「……アイリスさん?」
今日も詰め襟の留め具を外して広く開いたアイリスの胸元。
そこから、黒い霧を纏っている以外は可愛さしかないリスが現れる。
「護衛。一応連れていって」
リスはぴょこんと飛び跳ねると、メルシアの頭の上に乗った。
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