箱推しの騎士団 6
***
しばらく、ラティと戯れていたメルシアは、ふと我に返る。
口の周りもベトベトだ。
(白粉だけは、頑なに拒否して正解だったわ)
侍女たちは残念そうだったが、化粧は最小限にしてもらっている。
(あれ? 顔をなめられる前提)
つまり、そうなるのが当たり前だと、どこかで思っていたことにメルシアは赤面する。
「あの、ランティス様?」
いつのまにか、目の前に現れた美貌の騎士は、少しだけいじけてしまったようにも見える素顔を、すぐに無表情で取り繕い、黙ってメルシアの顔をハンカチで拭く。
「本当に、無防備だ」
「えっと」
けれど、それをしてきたのは、ランティスだと抗議しかけた口をつぐむメルシア。
「……あの、ランティス様とラティは、同じなのですよね?」
「……え?」
記憶が共有されている。
そして、最近はその行動も重なり合ってきた。
けれど、その質問にランティスの顔が密やかに歪められる。
「……ずっと、俺ではないと思っていた」
「ランティス様」
「認められなくて、人ではないのだと思い知らされるようで」
そうだとすれば、メルシアがラティにしてきた行動は、ランティスを傷つけてきたのではないだろうか。
「あのっ」
だが、軽く振られたランティスの首が、メルシアの謝罪を拒む。
そして代わりに向けられたのは、複雑な心境を残したままの微笑みだった。
「……だが、メルシアの本音を聞いたあの日から、狼の姿も悪くないと、ほんの少し思うようになった」
「……え」
メルシアを柔らかく抱きしめる両手。
そこにはもう、戸惑いはない。
そのまま、白銀の前髪がふれるほど耳元近くに口を寄せてランティスが、メルシアに告げる。
「今は、メルシアのそばで、沢山のしがらみを捨てて、ただ好きだと伝えられる時間が、好きだよ」
「っ、ランティス様」
「たぶん、メルシアが、俺と狼姿のラティを、同じだけ好きだと言ってくれるから。だから、俺は狼になることも受け入れられそうだ」
言葉をかけられた耳元から、ゾワゾワと熱が全身を支配していく。
ランティスとラティは、同じ人間なのに、ランティスにとっては違った。
「そ、それなら。私がラティに抱きつくのに」
「我ながら嫉妬していた。でも」
「でも……?」
「今は、素直にうれしいと思う気持ちを受け入れることにした。だから、今までみたいにしてくれて構わない」
お許しがでて、嬉しい反面、メルシアの心中は複雑だ。
(えっと、ラティ相手だからできたことを、ご本人から改めてお許しいただくと、逆に)
先ほど舐められた頬があまりに熱い。
当たり前のように抱きついていた、腕も。
真っ赤になってしまったメルシアを、少し楽しそうに見つめるランティス。
「その代わり、少しでいいから俺に翻弄されて?」
「あ、う……」
(されてます!)
そんな言葉、もちろん今のメルシアが、口に出す余裕なんてとてもない。
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