箱推しの騎士団 5
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執務室は、隊長というだけでなく、フェイアード侯爵家の嫡男に相応しく設えてあるのだろう。豪華な造りだった。
「すごい、奥にも部屋があるのですね」
「……仮眠室だ」
「そうなのですか? なるほど、お忙しい騎士様は、帰れない日だってありますよね」
どこかウキウキと楽しそうなメルシア。
そんなメルシアを見つめるランティスも、表情を和らげた。
「でも、私なんかが入ってよかったのですか?」
「許可を取っておいた。問題ない」
当たり前のように告げられた言葉。
メルシアは、ランティスを見つめ返す。
「えっと、あらかじめ許可を?」
「ああ。メルシアが、見学に来ると言っていたから、取り急ぎ。それに、仕事を再開したばかりだ。午後からは、有給を取っている」
メルシアは、嬉しい反面、ランティスの気遣いにようやく気がついたことを反省した。
(いつもそう。知らない間に、ランティス様は、私のために色々としてくれている)
「あ、仕事中の俺を見に来たのに、余計なことをしただろうか」
そして、いつもメルシアのことを優先させた上に、自分の行動に自信が持てないらしいランティス。
メルシアは、真っ直ぐにランティスを見つめたまま、一歩近づく。
「うれしいです」
ポスッとおでこをランティスの二の腕に軽くぶつけるメルシア。
その顔は、先ほど箱推し騎士団に興奮していた時よりも、さらに赤い。
「うれしいです。ランティス様が、私のことを考えてしてくれたこと、全部」
「メルシア……」
「たまに気を使いすぎて、すれ違ってしまうことがありますけど、それでもその気持ちがうれしいんです」
メルシアは、そのままランティスの腕に、自分の腕を絡めた。
「甘いものが好きだと言ったら、いつもミルクティーと美味しいお菓子を用意してくれていたことも。危険な目にあったら、いつだって助けられるよう見守っていてくれたことも。メルセンヌ伯爵領が災害に襲われた時、戦ってくれたことも」
メルシアは、絡めた腕を引き寄せる。
「でも、ランティス様がしてくれたこと、私のためにしてくれていたなんて知らなかったから」
「……メルシア」
「もっとたくさん、私の気がつかないうちに、色々助けてくれていたんですよね、きっと」
引き寄せた腕のせいで、少し斜めに傾いたランティスの体。
メルシアは、めいっぱい背を伸ばして、ランティスの頬に口づけする。
人命救助だと、言い訳できた前回と違い、今のメルシアには、これが精一杯だけれど。
「好きです。でも、これからは、私もランティス様のために、もっと色々したいです」
ランティスは、頬を押さえたまま俯く。
「…………俺はただ、メルシアがそばにいてくれるだけで、十分だ」
「欲がなさすぎます。でも、私がしたいんです!」
「そう、それならば…………。はあ。もう時間か」
あっという間に過ぎる時間。
目の前には、真っ白な毛並みを輝かせたラティがいる。
「……もっとランティス様のことが、知りたいです」
「ワフ」
「かわい……。ランティス様が、世界で一番好きです」
すり寄って来たラティに、メルシアは思いっきり抱きついた。
ランティス様と、呼ばれてもラティはもう、怒ることもなく、ただ鼻先をすり寄せてくるだけだった。
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