箱推しの騎士団 3
遠めにランティスの姿が見える。
今日も、すぐにメルシアの姿を見つけたらしいランティスが、軽く手を振って甘く微笑んだ。
会場のざわめき。そして、本日はすぐに会場の視線が噂の令嬢メルシアに集中する。
「うふふ。見せてあ~げない」
メルシアと幾多の視線の間に、体を割り込ませたアイリス。
おそらくそれは、アイリスなりの気遣いと、ランティスに対するちょっとしたいたずらだ。
「それにしても、今日は主要メンバーが勢ぞろいなのね? 立ち位置もちょうどいいわ。紹介するから、ちょっとこっちにいらっしゃい。構わないですよね? ハイネス卿」
「本日は、護衛として来ておりますので、すべてメルシア様に判断は委ねられております」
「…………そ。それなら、好きにさせてもらうわ。メルメル、一緒に行きましょう?」
「えっ、お仕事中に迷惑なのでは」
「紹介してもらいたくて、うずうずしているわ。それに、フェイアード卿のあんな不機嫌そうな顔、滅多に見られないもの」
メルシアには聞こえないようにつぶやいたアイリスの言葉の後半。
耳の良すぎるランティスと、読唇術を心得ているハイネスには筒抜けだ。
だが、アイリスはそれがわかっていて、特に気にする様子もなくメルシアの手を引いた。
ほどなく、ランティスから離れた位置で、後輩への指導を行っていた騎士たちの目の前にメルシアは立っていた。
(あ、あわわ。バーナー様に、カルロス様、ディン様まで、ランティス様直属の部下お三方勢ぞろい?!)
もちろん、メルシアの一推しはランティスに他ならない。
けれど、ランティスとともに戦う王立騎士団、とくに白銀隊のメンバーは箱推しなのだ。
とくに、ランティスの直属部下は、騎士団でも立ち絵の人気が高い。
(わわ……。ランティス様とベルトルト様が一緒にいらっしゃらないにしても、お三方が勢ぞろいするなんてめったに見られないわ!)
小さく震えながら、瞳を潤ませたメルシアに、三人の視線が集中する。
「フェイアード卿の婚約者。メルセンヌ伯爵家のメルシア様よ!」
なぜか自慢げにメルシアを紹介したアイリス。
「あ、あの……。メルシア・メルセンヌと申します。あの……本日はお時間を頂きまして」
「はっ。あの、フェイアード卿の婚約者なんて、どんな鉄の女かと思ったら、可愛いじゃないか!」
「あっ、バーナー殿。失礼ですよ! お許しくださいメルセンヌ伯爵令嬢。あの、僕はディンと申します。名字はありません」
「は……。ディン様。あの、弓の腕が素晴らしく、長距離射撃訓練では、全ての的の真ん中しか射止めないほどの腕前に、いつも感激しておりました」
「え?! 恐悦至極です」
(わわ、白銀隊の愛され癒し枠! ディン様! 弓の腕は超一流で、どんな長距離であろうと魔獣の急所を一撃で仕留める腕の持ち主なのよね!)
メルシアの推し活で培われた知識は、騎士団全体多岐にわたる。
その中でも、婦女子のあこがれが目の前に勢ぞろいしている事実に、メルシアは震える。
「あ~すまなかったな。バーナー・ロランだ」
メルシアの目の前に立った、バーナー。
背の小さいメルシアの立つ場所が、完全に日陰になる。
バーナーは筋骨隆々という言葉を体現しているようだ。
「ロラン卿……。誰も振るうことが出来ない大剣を片手で軽々と振るう姿、いつも感銘を受けておりました」
「お、ありがとな? あと、俺のことはバーナーと呼んでくれ?」
「はい! バーナー様、よろしくお願いします」
そして最後に、優雅にメルシアに礼をした、カルロス・ブロンセ。
「カルロス・ブロンセと申します。メルセンヌ伯爵令嬢にお会いできて光栄です。以後お見知りおきを」
それは、貴族的でありながら、あまりに模範的な騎士の礼だ。
「祭典での剣舞……。あまりに美しく、目が離せませんでした。ブロンセ卿……こちらこそ、よろしくお願いいたします」
メルシアの礼は、完璧な美しさだが、小さな体も相まって、どこか小動物のようでもあり可愛らしい。
そして、未来の夫の直属の部下すべてを正確に覚えている様子に、周囲は感銘を受けていた。
事実を知っているアイリスは、「推し活知識がいかんなく発揮されているわねぇ」とつぶやいて少しだけ口の端を緩めていたけれど。
一方、同じく事実を理解しているハイネスは、表情を変えることもなくメルシアの後ろに直立不動で立ったままだ。
もちろん、メルシアは知らない。推し活の知識で、ファンとしての感動を伝えただけのつもりが、未来の侯爵夫人として周囲の評価を上げてしまったなんてことは。
推しの騎士様達に、お会いできて幸せ(*'▽')【祝】推し活!
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