番外編 姉は推し活をしている(弟目線)2
しかし、推し活をしている姉を持った弟の困惑は、まだまだ続く。
頬を紅潮させたメルシアは、テーブルに手をついて、ジークの方へ上体を寄せた。
「それでね! ランティス様は、カッコいいうえに騎士団でも一番強いんだ!」
「おぉ」
(知っている……。先日も死ぬかと思うほど鍛えられた)
まだ騎士団に所属していないとは言っても養成所で訓練しているジークにとっては、ランティスは上官なのだ。
ランティスの指導は、容赦ない。
だが、それも戦場で部下を死なせたくない気持ちからなのだと、なぜか伝わってくるのが不思議なところだ。
「冷たい目だってみんな言うけれど、そこがカッコいいの。王都中の人と分かち合いたいくらい」
「うん」
(待ってくれ……。そこも俺に語るのか?)
「それに、ベルトルト様と一緒に並んでいる時。それがまた、すごく絵になって……」
「な、なるほど」
ジークは知っている。
先日、姉の部屋に忘れ物をしてしまって、そっと入らせてもらったら、ライティングデスクが、開いたままになっていた。
――――そこには、ランティスとベルトルトが描かれた、小さな肖像画が飾られていた。
それは、推し活にまい進する婦女子の間でもてはやされる推しの立ち絵というものなのだが、もちろん、ジークは知らない。
ただ、ものすごく大切にされている上に、似たようなものが複数置いてあることに困惑して、思わずジークはライティングデスクをそっと閉じた。
ちなみに、ジークの見た目は、メルシアと同じ少し癖のある淡い茶色の髪に、エメラルドのような瞳。
背は平均よりも高いものの、カッコいいよりも、その顔のせいで可愛いという印象が強めだ。
「……と、ところで、ランティス様は、ジークの通ってる養成所にも指導に行くって噂を聞いたんだけど」
「あ、ああ。来るけど」
「っ……! ち、ちなみにそれについての話など」
……先日も、ジークはランティスに死ぬほど扱かれた。悪魔かと一瞬だけ思った。
けれど、キラキラとこれでもかというほどに瞳を輝かせているメルシアに、それを言うのも野暮というものか?
ジークは、大好きな姉にそこまで好かれているランティスにほんの少し嫉妬したのかもしれない。
「……訓練中のフェイアード卿は、鬼教官だ。厳しいことで有名なんだけど」
「えっ……」
なぜか、メルシアが両手で口元を押さえ、ひどい衝激を受けたような顔をした。
その顔を見たジークが、罪悪感を感じたのも束の間。
「お……」
「お?」
「お優しいっ!」
「は?」
「つ、つまりランティス様は、部下たちを戦場で死なせまいと、嫌われ役を買ってでて、あえて厳しく訓練を! …………っ、なんてお優しいの!」
メルシアの推しへの愛は、ジークを前に留まることを知らない。
だが、メルシアの推しへの愛は、フィルターがかかっているように思えて、意外に核心をついている、とジークは思わなくもない。
夜がふけるまで、ランティスへの推し愛を語られたジークは、今や騎士候補生の中で一番フェイアード卿に詳しいに違いない。
余談だが、数年後には、騎士になったジークの立ち絵が王都で販売される。
今までにいなかったタイプの、可愛い系新人騎士様がものすごい人気になることも、今はまだ未来の話だ。
もう一つだけ、ランティスをジークが煽って、ものすご〜く焦らせて婚約申込みさせてから本編に戻る予定です(*^ω^*)
弟←ランティスについての情報源はこちら。
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