表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

41/73

オオカミ騎士の番 4



「ふぅ……。帰ったか」


 メルシアが見上げたランティスの顔色は、蒼白に近い。それはそうだ、一週間も寝たきりだったのだ。


「少しだけ食べてください。……お粥です」


 しばらく何も口にしていなかったランティス。

 メルシアが用意したのは、トロリと煮込まれた粥がほんの少しだ。


「お口に合うかどうか」

「……もしかして、メルシアが?」

「そうですよ? 無理のない範囲で、食べてくださいね」

「全部食べるよ」

「……ダメです! ゆっくり少しだけ食べて」


 ふぅ。と少し匙に息を吹きかけて冷ますと、メルシアはランティスの口元に持っていく。


「え? あの……」


 おずおずと開けたランティスの口に、メルシアが匙を入れる。パクリと、その匙が、形の良い唇の中に含まれた時、ようやくメルシアは、我に帰った。


「っ……」


 孤児院の子どもたちをお世話する時のようにしてしまったことに、今さらながら気がついてメルシアは赤面する。


「もうひと口」


 メルシアが、恥ずかしがったことが伝わってしまったのだろう。

 動揺していたランティスは、逆に冷静になったようだ。少し意地悪な笑みを向けてくる。


「あっ、あの。近いです……」

「そう? でも、これくらい近くないと食べられない」

「あぅ」


 パクリと残り3口で、ごく少量だけ盛り付けていたお粥は無くなった。


「終わりましたよ?」

「ああ、残念だな」

「え? あまりたくさん初めから食べるのは」

「そういう意味じゃない。なぜかな、むしろ狼姿の時の方が、気持ちが伝わっている気がするのは」


 ポスッと、ランティスがメルシアの肩に額を当てた。そこで、はたとランティスは、一週間寝たきりだったことを思い出した。


「……ああ、ごめん。風呂にも入ってないのに」

「うん、石鹸の香りだと思っていたこれ、ランティス様の魔力の香りだったんですね」

「え?」

「……ランティス様の魔力の中に、私の魔力がある。私の魔力の中に、ランティス様の魔力があるんです」


 メルシアが、ランティスに擦り寄る。

 まるで、狼が仲間に擦り寄るようだ。


 これでは、いつもと逆ではないかと、動揺を隠せないランティスには、気がつかないままのメルシア。


「私は、どんな姿のランティス様でも、一緒にいたい。それは変わらないです」

「メルシア?」

「もし、逆に私が狼になったら、ランティス様はどうしますか?」


 ランティスは思う。

 二人で、野を駆け回るのもいい、と。


「可愛いだろうから、誰の目にも触れさせたくないな」

「あは。でも、騎士でいて欲しいから、ここで待っていても、いいですか?」

「……光魔法」

「はい。使えなくなっちゃいました。今のところ」

「すまな……」


 ランティスの言葉を遮るように、メルシアが小さな手をその口に当てる。

 その手を大きな手が包み込み、優しく退けた。


「ダメですよ?」

「そうか。……それなら、俺と」


 月明かりだけが、部屋を淡く照らしているはずなのに、白銀の髪は、まぶしいくらい煌めいている。


 30分など、とうにすぎても、ランティスは人の姿のままだ。今は、今だけは。


 柔らかく抱きしめられたメルシアに、優しい口づけが落ちてくる。


「ずっと、一緒にいてほしい。こんな俺でもいいのなら」

「はい、喜んで」


 幸せだ。メルシアは、素直にそれだけを思う。

 色濃かったランティスの中にあったメルシアの魔力は、徐々に薄らいで、それでも消えることがなかった。

一章完結です。下の☆を押しての評価いただけるとうれしいです(〃ω〃)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ