オオカミ騎士の番 2
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お互いが違った意味で身もだえていたが、ふと真顔になったランティスがメルシアを真っすぐ見つめる。
「メルシア……俺は、どれくらい眠っていた?」
「――――一週間」
「そうか……。それで、これはどういうことだ?」
「えっ」
ランティスが、怒っているのをメルシアは初めて見た。
興味が薄そうな様子を、怒っているのではないかと思っていたけれど、あれは単に無表情なだけだった。そのことが分かってしまうくらい、今日のランティスは本当に怒っている。
「えっ、あの。ごめんなさ……」
「……? どうして、メルシアが謝るんだ」
「え?」
「俺は、自分自身に怒っている」
ランティスが、ほほ笑んだ。でも、それはきっと、誰が見ても無理して微笑んだようにしか見えなかっただろう。
「――――メルシアは」
ベッドから起き上がったランティスは、大きくふらついた。
それを支えようとしたメルシアだったが、その手は途中で止まってしまう。
「メルシアは……」
その指先が、メルシアの頬を壊れやすい宝物でも触れるように、スルスルと滑り落ちる。
寄せられた眉と、不自然にほほ笑もうとして失敗したような唇。
「どうして、こんなことを」
「ランティス様」
ランティスの魔力には、メルシアの魔力が混ざりこんでいる。
それは、きっとメルシアにとって、あまり良いことではない。
何が起こったのか把握しきれないランティスにも、その事だけははっきりとわかる。
「いや……ですよね」
「――――むしろ俺は幸せだが」
「えぇ?」
「失言だ」
メルシアの魔力が体内にあること自体は、ランティスにとって不快ではない。
不快なはずがない。
ただ、ランティスが気遣っているのはメルシアの体と魔力だ。
その時、重い空気を壊してしまうように、ノックすることもなく扉が開く。
そこに現れたのは、上級魔道士アイリスだった。
アイリスは、ランティスが起き上がっていることに気がつくと、軽く目を見開いた。
「ああ……。生き延びたんだ? あれだけ、魔力回路を酷使しておいて。やっぱり、普段の鍛え方が違うからかな? それとも、メルメルの魔力に君の魔力がもともと含まれていたからかな?」
紫色の瞳が、興味深いことを研究したいという欲求に細められる。
アイリスは、生粋の魔道士だ。それは、魔の道を追求する人間ということだ。
そして、その後ろから騎士服とローブを身に着けた黒髪の少年が入ってくる。
「貴様……!!」
枕元に置いてあった剣を掴んだランティスが、ベッドから飛び出そうとするのをメルシアが抱き着いて止める。
「メルシア! なぜ止める」
「彼も被害者です!」
メルシアは、絶対に離さないとばかりに、ランティスに強く抱き着いたままだ。
「…………おかしな動きをしたら殺す」
「こわ。怖いよ、メルシアさん」
「こ、子ども相手に、ひどいです。ランティス様!」
メルシアの背中にかばわれた、少年は、確実に怖がってなどいない。
まだ幼さの残る容姿でありながら、あの実力。並の生き方をしてきていない。
けれど、そこがメルシアの甘いところで、ランティスはそんなメルシアだからこそ……。
「――――メルシア、頼むから離れてくれ」
「嫌です。子どもですよ?」
「何もしないと約束する。その少年が、何もしてこない限り」
「本当ですね?」
「ああ、剣に誓う」
「天下のフェイアード卿が、飼いならされている……」
少年は、そんなことを呟くと、俯いてメルシアから離れた。
「なんだか、毒気抜かれるんだよ。勘弁」
「子どもは、守られるものです」
「あのな? メルシアさんと俺は、三歳くらいしか、違わないから」
「……たしかに、三年前には私も」
メルシアの生まれ故郷、メルセンヌ領は、三年前、災害級の魔獣の被害を被っていた。
そんな中で、メルシアは自分が出来ることを探して努力してきた。
だが、それと同時に子どもとして守られてきたのも事実だ。
「それにしても、どういうことか、説明してもらえるのか? アイリス」
三人のやり取りを、一人離れて楽しそうに見学していたアイリスが、軽薄そうな笑みを深めた。
番は、外せない萌えポイントです(*'▽')
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