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月夜の狼 4



「あの、ランティス様?」


 メルシアは、恐る恐るランティスに声をかける。

 どうして、今まで頑なに自分から変身しようとしなかった狼の姿になったのか、メルシアにはわからなかった。

 けれど、ランティスはメルシアを見てほほ笑んでいる。


「……夜道は危険だ。護衛はつけているが、メルシアに何かあったら、俺は後悔してもしきれない」

「――――あんなに、嫌がっていたのに」


 メルシアは気がついていた。

 ランティスが、ラティであること、狼に姿を変えることを、心のどこかで受け入れていないのだと。


(それでも、ランティス様は、狼姿に自分から変わってまで、ついて来てくれた)


 それは、メルシアにとって嬉しいと同時に、どこか申し訳ない出来事だ。


「正直に言って、俺が狼に変わってしまって満足にそばにいられない事、どう思う?」

「えっ?」


 メルシアにとって、ランティスの姿であろうと、狼のラティの姿であろうと、そばにいられるだけで嬉しくて幸せだ。

 だから、そのことをそのまま伝えればいいのだろう。そうメルシアは考える。


(……でも)


 あの、赤い髪のものすごくかわいらしい少女。

 答えようとしたメルシアの脳裏に浮かんだのは、赤い髪の少女がから、飲み物を受け取ったときのランティスの笑顔だった。


(今まで、遠くから見ているだけで。幸せいっぱいだったのに、あの時私は……)


「――――訓練の時、赤い髪の女の子に、笑いかけていましたよね」

「…………え?」


 メルシアは、言おうと思っていなかったはずの言葉が、口から出てしまい慌てる。

 口元を押さえて、なかったことにしたいと後悔したけれど、口に出してしまった言葉は、もう戻らない。


「赤い髪? ベルトルトの妹のことか?」

「……ベルトルト様の」

「――――飲み物?」

「あ、えっと」


(これでは、そんな細かいことまで目を光らせていたみたい。穴があったら入りたい)


 ランティスは、しばらく馬車の天井を見ながら思案していたが、少しして真っすぐにメルシアのことを見つめた。


「ベルトルトが忘れた水筒を受け取った時?」

「えっ?」

「そう。ほかの騎士達に指示出しをしていたから、渡しておいて欲しいと……」


 メルシアは、自分の勘違いを恥じた。


(でも、それでもあの笑顔は……)


「メルシアに、会いたがっていた。ベルトルトの命の恩人だから、と。それで、メルシアはあそこにいるから、今度紹介する約束をしたら、可愛らしい人ですね、と言われて」

「――――えぇ?」

「そうだろう? 可愛い人なんだ、と答えたのだが。……もしかして笑顔だっただろうか」


 パチパチとその長いまつ毛が、何度も瞬くのをランティスは、フワフワする気持ちで見つめていた。

 そもそも、ランティスが笑うなんて、メルシアに初めて出会ったあの日から、メルシアに関することだけだったに違いない。


(私の……勘違い)


 そのことにホッとすると同時に、やっぱりモヤモヤした気持ちが晴れないままのメルシア。

 この気持ちの理由を探すとしたら、たぶん一つしかない。


「……狼姿であろうと、人間の姿であろうと、私にとってはあまり関係なくて」

「…………」

「どんな姿のランティス様でもいいから、ほかの人より近くにいたいみたいです」

「っ、……。それなら、そばにいられるために力を尽くそう」


 あの日みたいに、指先に落ちた口づけは、どこか遠慮がちで、それでいて、よくできたとほめられているようにメルシアには感じた。



スッキリ(*´ω`)


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