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月夜の狼 2



 ***


 夕暮れの気配。

 薄暗くなった図書室に、魔道ランプのオレンジ色の光が灯る。


 その光が映り込んだ、ランティスのオリーブイエローの瞳は、夕暮れの際、一筋射した黄金の光のように美しい。


「そこが、我が家門に関する資料だ」

「ずいぶん上の方ですね? んっ!」

「…………この本か?」


 ランティスが手にしたのは、まさにメルシアがとろうとしていた本だった。

 差し出された本を、抱えてメルシアは「ありがとうございます」とほほ笑んだ。


「ああ……」

「とりあえず、一回家に帰らないと。多分心配していると思うので」

「そうだな。メルセンヌ伯爵には、連絡をしているが、心配されているだろう。直接ご挨拶に伺いたいところだが……」


 分厚い本を抱えたまま、メルシアはランティスを真っすぐ見つめた。

 ランティスの瞳には、やはりオレンジ色の光が映り込んで、美しい。


「今度、この本を読むので、取っておいてください」

「いや、侯爵家の馬車で送るから、持っていくといい」

「…………大事な本なのですよね?」

「貴重ではあるが、門外不出というほどでもない」


 本当だろうか。メルシアは首をかしげる。

 通常、こういった本は、家門の人間、あるいは嫡子しか見せないことが多いのに。


「……気になるのだろう? 顔に書いてある」

「え?!」


 つい顔を触ってしまったメルシアを見つめ、ランティスが「可愛いな」と小さく笑う。

 恥ずかしいうえに、笑ったランティスがあまりにカッコいいせいで、メルシアは赤面してしまった。


「――――それに、猶予があまりないのかもしれない」

「……どういう」

「明日から、騎士団の通常業務に復帰する。きな臭いからな……」

「危険なこと、しないでほしいです……」


 ほほ笑んだランティス。もちろん、メルシアだって騎士団の仕事が危険と隣り合わせだってことくらいは、理解している。


「休暇を満喫した。今まで、ほとんど休んだことがなかったからな。明日から、元気に仕事が出来そうだ」


 ランティスが笑う。まるで、メルシアに心配をかけないように笑っているようにも見える。


(騎士様を好きになるってことは、楽しいことばかりじゃないんだよね……)


 今までだって、ランティスが危険な任務をしているのではないかと、心配しなかったわけではない。

 けれど、距離が近くなって、ランティスの口から騎士の仕事について聞く機会が増えれば、そして待つという立場になれば、メルシアが抱える不安は以前より大きい。


「待っていますから」

「ああ、待っていて欲しい。無事に帰るから、心配なんて」

「……しますよ。心配」


 軽く目を見開くランティス。

 どちらかというと、ランティスは強すぎて、あまり人にそんな心配をされることがない。

 だから、今まで誰かに「心配だ」とストレートに言われることは、あまりなかった。


「そうか……。なら、万全を期して任務に臨むようにしよう」

「そうしてください」


 ランティスは、もう一度ほほ笑むと、メルシアの頭をそっと撫でた。


最後までご覧いただきありがとうございます。

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