お預けと溺愛 3
追いかけつつ。どこか、メルシアは不思議に思っていた。
ラティはもちろん、ランティスのはずだが、同じ性格をしていなかった。
(けれど、最近、だんだんとランティス様とラティの性格がどこか似てきている?)
「ラティ?」
「ワフ!」
ある部屋の前で立ち止まったラティが、自慢げにこちらを振り返った。
そして、前足で扉を開いて、入って来いとでもいうようにもう一度、メルシアのほうを振り返った。
「……ワフ!」
入った部屋の中には、大きな絵が飾られていた。
それは、幸せそうに微笑む家族の肖像画だ。
「……この、真ん中の男の子」
その幼い少年は、ランティスと同じ色合いをしている。
そして、メルシアは、その少年に確かに会っている。
「ラティ…………」
「ワフ!」
もう一度、ラティが自慢げに吠えた。
幼い日のおぼろげな、思い出。
メルシアの思い出の中には、白い犬と、一緒に遊んだ優しい少年がたしかにいる。
「…………ラティ。思い出した」
肖像画に近づいてみる。
そう、王都に来た時のことだ。友達がほとんどいなかったメルシアにとって、その少年との思い出は、楽しかった鮮やかな思い出だ。
幼すぎたから、思い出せなかっただけで。
「あれからずっと、私のこと覚えていてくれたの? ラティ」
「ワフ」
「ランティス様……」
振り返ってみても、やっぱりランティスはラティの姿のままだ。
とっても可愛らしいけれど、戻れなくなってしまったら困るな、とメルシアは思う。
どうして困るのだろうか。
かわいいラティなら、メルシアのそばに、いつもいてくれるのに。
「ラティ? ランティス様は、どうして私と一緒の時だけ、自由にその姿を変えられないんだろう」
急に姿が変わってしまうことは、人間が狼の姿になることに比べたら、それほど衝撃的なことではない。だから、メルシアは真剣にそのことを考えたことがなかった。
でも、何か理由があるのかもしれない。
「ランティス様?」
「…………そうかもしれないな。メルシアの前でも、自由に姿を行き来できるようになれば、騎士団の訓練でも……。メルシアが、あんなに遠くにいる必要はない」
ランティスに飲み物を手渡していた少女の姿が、急にメルシアの脳裏に浮かんで、胸がチクリとした。
侯爵夫人は、社交をする必要がある。だから、このままでは、やっぱりダメなのだ。
「ランティス様が、狼の姿に変わるのは、いわゆる先祖返りなのですよね?」
「――――そうだな。侯爵家に伝わる本に、そう書かれている」
「その本……。見せてもらうこと、できますか?」
「ああ、メルシアに隠すものなんて、もうないから」
たぶん、どこかに答えがあるはずなのだ。
ランティスが、メルシアの前でだけ、なぜか狼の姿へ、自分の意思でなく変わってしまう謎の答えが。
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