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婚約破棄されましたけど、モフモフ愛でてもいいですか? 3



 ***


 メルシアは、最近ため息ばかりついていた。

 ランティスを遠くから眺めるだけでいい、と思ったけれど、元婚約者が訓練場になんて現れたら迷惑に違いない。

 そう考えてしまうと、身動きが取れなくなる。

 遠くから騎士様で侯爵家のお方のランティスのことを、メルシアが見ることが出来る機会なんてほとんどないのだ。


「モフモフのラティにも会えない……」


 メルシアは、ランティスが好きだった。

 遠くからその姿を見ているだけで幸せで、好きなものを知ったり、最近の活躍の情報を集めるだけで、天にも昇る気持ちだった。


「――――恵まれていたんだわ」


 大きなため息をもう一つ。


(婚約破棄しても、遠くから眺めるくらいなら出来ると思っていたんだけどなぁ)


 貧乏伯爵家のメルシアは、少しでも家族の食い扶持になればと、治癒院で働いている。

 ほんの少しだけ、光魔法の素養があるメルシア。

 光魔法を持っている人は珍しいから、ほんの少しの治癒魔法でも、それなりに重宝されていた。


 その時、治癒院の入り口が騒がしくなる。


「…………え?」


 目の前には、ここ一週間姿を見ることも叶わなかった、元婚約者がいた。


「ランティス様…………?」

「――――約束を果たしに来た」

「は?」


 グイッと手首をつかまれて、立ち上がらされる。

 一瞬そのまま、抱き寄せられると思ったのは、メルシアの自意識過剰だったのだろう。

 そのまま、今度は優しい力で、手を引かれた。


「……あの」

「治癒院には、午後からの半休を申し入れた。大丈夫、ほかの人間を派遣した。勤務の穴はあけていない」

「え?」

「――――行こう」


 何が起こったのか理解が追い付かないまま、それでも、手が繋がれていることが嬉しくて、メルシアは黙ったままランティスに手を引かれる。


 道行く人が、二人を振り返る。

 メルシアは、治癒院の制服姿のままだ。白いフリルのついたエプロンと、細い水色のストライプのワンピース。

 一方のランティスは、式典の帰りだったのだろうか。長いマントをなびかせ、装飾の多い騎士服を着用している。


 ちぐはぐで、釣り合わない二人だとメルシアは思っているが、たぶん道行く人にとっては、騎士と治癒院の乙女の物語の一幕のように見えただろう。


(あわわ……。素敵すぎる)


 ランティスは、こちらを見もせず、速足で街を通り過ぎていく。

 息が切れて、体力がそれほどないメルシアが限界になりかけたころ、二人はフェイアード侯爵邸についた。


「はぁ、はぁ……。ランティス様? どういうことですか」

「……すまない、あまり残された時間がない」


 何か大事な用事から、抜け出してきたのだろうか。

 そんなに慌てるほど時間がないのに、メルシアをここまで連れてきたランティスの行動に、メルシアは首をかしげるしかない。


「あの?」

「約束したから。うちのオオカ……。ゴホンッ。犬にたまに会いたいと言っただろう?」

「えっ、あの」

「待っていても、会いに来ないから、迎えに来た」


 あんな約束、もちろん無効だと思って諦めていたのに。

 メルシアは思わず、花が綻ぶような笑顔を見せる。


「うれしいです! ありがとうございます」

「――――っ、俺は約束は守る」


 いつもお茶会をしていた庭園に、いつものように用意されたかわいらしいスイーツとティーセット。

 まるで、婚約破棄なんてなかったみたいだ。


「……メルシア。もしよかったら、いつでも来てくれないか?」

「え……。でも、私は」


 眉をなぜか寄せて、困ったかのように笑うランティスから、メルシアは目が離せない。


(いつでも来ていいなんて、そんな社交辞令……。どうして、婚約破棄したのに)


 いや、いつでも来ていいなんて、婚約者だった時にすら言われたことがない。

 これは一体どういうことなのかと、メルシアは混乱した。


「じ、実は、あ、愛犬の元気がなくてな」

「え! ラティが?! …………あ、あの愛犬さんの?!」

「愛犬さん? …………は、はは!」


 初めて笑った顔を見たのかもしれない。

 笑うと少し幼いランティスの雰囲気の変化に、メルシアは視線が外せなくなった。


「ご、ごめんなさい。あの、飼い犬のお名前……」

「――――ラティと」

「え?」

「ラティと呼んで? メルシアには、そう呼んで欲しい」


 とたんに、メルシアの頬は真っ赤になってしまった。


(ど、どうしよう。ほっぺが熱い。愛犬の名前、ラティって呼んで欲しいって言われただけなのに。こんなの勘違い女だって、引かれてしまう)


「え…………?」


 それなのに、ランティスはメルシアから、目を逸らすこともなく真っすぐ見つめていた。


「――――っ、すまない。時間だ。ゆっくりしていってくれ」


 それだけ言うと、ランティスは足早に去って行ってしまった。

 いつものお茶会みたいに、メルシア一人を残して。


 いつもと違うのは、メルシアの頬が真っ赤に色づいていること。

 そして、メルシアにはもう見えないランティスの頬も、赤くなっていることぐらいだった。

キュンとして頂けたなら本望です。

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[一言] キュンキュンして、ハアハア(*´Д`)して、ガウガウ言って見てます!
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