お預けと溺愛 1
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今日も、フェイアード侯爵家まで、走って戻ってきた二人。
だいぶ、メルシアの持久力が増してきたのは、気のせいではないだろう。
「はぁっ」
「すまない。でも、どうしてもメルシアの近くにいたくてたまらなくなって」
困ったように笑う姿に、メルシアの心臓が網に捕まってしまった魚のように跳ねる。
距離があった時とは、まったく違うドキドキにメルシアの動揺は深まるばかりだ。
(そういえば、さっき全力で駆けてきたランティス様は、どこかラティと雰囲気が似ていたわ)
気がつけば、熱っぽい視線でランティスが、メルシアのことを見つめている。
そっと、熱い手のひらが、メルシアの頬を撫でる。
「あ、あのっ。そういえば、もう30分経ちませんか」
「そういえば……」
まるで、無意識で触ってしまっていたことに気がついたように、ランティスが慌てて手を離す。
胸元から出した懐中時計、確かに35分経過している。
「――――いつもより、人間でいられる時間、長くないですか?」
「ああ、そうだな?」
その直後、やはりランティスはラティの姿になってしまったので、メルシアの中で、誤差の範囲だったのだろうと結論付けられる。
「ラティ?」
少しだけ、いじけたようなラティ。
いつでも、真っすぐに親愛だけを向けてきていたラティの表現も、なぜか以前よりも豊かになってきている気がする。
「ワフ」
そのまま、尻尾を振りもせず、それなのにグイグイと頭を摺り寄せてくるラティ。
(こ、これは、いじけてしまった?!)
メルシアの予想は、おそらく的中している。
そばに寄りたかったのに、ランティスがどのくらいの距離で狼になってしまうのかの検証のために、メルシアに近づくことが出来なかったラティは、へそを曲げてしまったようだ。
「ラティ……」
「ワフ」
ツンッと向こうを向いてしまったラティ。けれど、名前を呼ばれるたびに、少しだけ尻尾が揺れることにメルシアは気がついてしまった。
(かわっ! ……かわいすぎない?!)
「ラティ!」
「ワフ!」
そうやって、繰り返し戯れているうちに、ラティは機嫌を直したらしい。
素直にメルシアにしっぽを振って、突撃してくるようになった。
「――――大好きだよ。ラティ」
「ああ。俺も……。好きだ、メルシア」
抱きしめた体が、人の形に変わって、メルシアが逆に抱き上げられている。
その事に気がついて、逃れようと身をよじったメルシアは息をのんだ。
「ランティス様……」
ランティスのいつも以上に熱っぽい瞳。
メルシアのドキドキ音を立てて止まない心臓。いや、これはもしかしたら、ランティスの心臓の音なのかもしれない。
トンッと、メルシアの足が地面について、そっと顔を寄せられる。
「ラティに、取られたら生きていけない。さっき、危なかったんだ」
優しい口づけ。忘れられそうもない、温かい感触。
これはもう、推しとの距離なんて言い訳、できなくなってしまう。
「大袈裟ですよ」
「もう、死んでもいいくらい幸せなのに? 言い足りない」
もう一度、抱き上げられたメルシアは、いつもラティにするように、ランティスの首元に腕を回してしがみついたのだった。
溺愛タグ(/・ω・)/……長かった!
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