騎士のあなたを推したいです 3
***
久しぶりに訪れた、騎士団の公開訓練。
黄色い声援が飛び交う、騎士様推しの聖地。
剣がぶつかり合う音。時に打ち合い、時にひたすら訓練に励む騎士の姿を一目見ようと、王都の婦女子は今日も集結していた。
「ランティス様――――!」
ここぞとばかりに、メルシアも思いっきり声援を送ってみた。
安全のため十分に距離をとっているからランティスには、きっと聞こえないに違いない。
それなのに、こちらを振り向いたランティスは、甘い笑顔をメルシアに向ける。
「きゃ――――!!」
周囲を飛び交う、婦女子たちの声。
その甘すぎる笑顔に動揺した様子で、ランティスの視線の先にいる誰かを探す騎士達。
(自分を見たのかもしれない、笑いかけてくれたのかもしれない、推し活の醍醐味!)
「レア! レアだよ、あんな笑顔。ねぇ、マチルダ!」
「…………あなたの婚約者だわ」
「え?」
「……あの人、あなたの婚約者だわ。あなたが笑いかけられたのよ、メルシア」
推し活にまい進するあまり、忘れかけていたが、あの麗しすぎる騎士様は、メルシアの婚約者なのだった。訓練中に狼になってしまったら大惨事なので、近づくことすらできないけれど。それすらメルシアは楽しんでいるのだけれど。
「でも、メルシアは、ここから眺めているだけで平気なの?」
「幸せ……ですけど?」
「相変わらず、距離感が良くわからない二人よね。フェイアード卿とメルシアって」
「そ、そうかな?」
最高に幸せだ。間違いない。
今、メルシアはかつてのように訓練場を訪れることが出来るようになって、充実した時間に幸せを感じている。
「今日も、元気な推しが訓練をしていて、私は同じ空気を吸っている。なんて幸せ」
「そ、そう……」
黒い豊かな髪を耳にかけながら、若干引いている様子にも見えるマチルダ。
そんな仕草すら、大人っぽくて、メルシアはひそかに憧れている。
その時、訓練を終えたランティスに、ものすごく可愛い赤い髪の少女が近づいていった。
渡された飲み物を受け取ったランティスは、その少女に笑顔を向けて、何かを話しかけた。
ズキンッとメルシアの胸が痛む。
「……?」
今までだって、こんな光景何度も見てきたのに、とメルシアは首を傾げた。
けれど、ランティスが笑うなんて、本当に珍しいことなのだ。
メルシアと一緒にいる時、最近は表情豊かなランティス。
だから、忘れてしまいそうになるが、もともとランティスは氷の騎士様と呼ばれるほど、冷たい表情をしていることが多い。ちなみに、ベルトルトは、対比して炎の騎士様と呼ばれている。
それなのに、なぜか赤い髪の可愛らしい少女に、ランティスが笑いかけている。
「…………そろそろ、訓練終わりの時間だよね」
気にしてはいけないと思いつつも、気にしないなんてことが出来ないメルシアは、帰ろうと心に決める。なぜかわからないけれど、このままでは、もっと胸が痛くなってしまいそうだ。
「そうね。ランティス様も、ベルトルト様も下がったようだし、私は、昼休憩終わりだわ。メルシアは休みなのだから、ゆっくりしていったらいいと…………あら」
「メルシア!」
なぜか、勢いよく駆けてきたランティスが、メルシアに抱き着いた。
周囲の視線が痛すぎる。
意外なことに、婦女子からではない、騎士たちのざわめきで、耳が痛くなるほどだ。
「メルシア、見に来てくれたんだ。うれしい」
「――――あ、あの? こんなに近づいたら」
「訓練をしないと腕が鈍るから、休暇なのに出てきただけだ。一緒に帰るなら、十分間に合う」
「…………あの、周囲の視線が痛いです」
「あれだけ、距離を保たれてお預けされたんだ。そばにいたい」
「うっ」
(推しの騎士様がまぶしい!!)
ここで、初めて周囲の困惑に気がついたらしいランティスは、何でもない事のように「こうしておけば、虫がつかなくなる」なんて冗談を言うので、メルシアは苦笑するしかない。
そして、その言葉が、冗談などではないことを、隣にいたマチルダと、追いかけてきたベルトルトだけは察していた。
恋<推し活 逆転の予感(´▽`*)
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