表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

26/73

騎士のあなたを推したいです 1



 ベルトルトは、密かに頭を抱えていた。


「これ……。背後にいる貴族、あるいは組織が、かなり大物じゃないのか」


 手にした書類には、先日から連続で起こっていた光魔法を持つ人間を狙った事件についての調査報告が記されている。

 メルシア・メルセンヌも、その被害者の一人だ。


 だが、今まで命を取られたものはいなかったこともあって、捜査の人員は事件の規模の割に少ないままだ。それも、おかしいことのようにベルトルトには感じられた。


 能力は高いが誤解されやすい上司。

 血気盛んな部下。

 無茶ばかり言う上層部。


 騎士の世界も、一枚岩ではない。

 だからこそ、調整役がいるかいないかが、生き残る上で大きい。


 ベルトルトは、本人が自覚していないにしても、その立ち位置にいる。

 それは、周囲の人間すべてが認めていることで、ランティスが騎士団長に就任した時には、ベルトルトは自動的に副団長に任命されるだろうというのが周囲の見解だ。


 もちろん、ベルトルト本人に拒否権などない。

 そして、ベルトルトが、仲間を裏切るなんてことはない限り、それはほぼ決定された未来なのだろう。

 だが、ランティスは騎士であることよりも、メルシアのそばを選ぼうとしている。


「う~ん。三年間の付き合いですが、隣で見ていてヤキモキしていたから、それはそれでいいのですが。……問題は、メルシア様の光魔法ですよね」


 たしかに、ベルトルトは、メルシアの魔法だけでは、助からなかっただろう。

 街の治癒院で働くメルシアの魔力は確かにそこまで多くないし、光魔法だって初級治癒魔法しか使うことが出来ない。


 騎士団の上級魔術師を、あの時ランティスが連れてこなければ、ベルトルトは助からなかったに違いない。


 だが、ベルトルトが目を覚ました時に、上級魔術師は、彼に詰め寄った。

 いったい、この治癒魔法を使ったのは、誰なのかと。


「うーん。情報が漏れた可能性と、隊長の弱点としてメルシア様が狙われた可能性の両方を考慮したほうがよさそうだ」


 ベルトルトは、重いため息をつくと、騎士団長室へと向かうのだった。


 ***


 ランティスが、部屋に戻ると、図書室から借りてきたらしい本を読んでいたメルシアが、顔を上げた。


「お話、終わったんですか? 思ったよりも早かったですね」

「ああ……。そうだな」


 どこか上の空の、ランティスの様子に首を傾げつつ、メルシアは立ち上がった。


「ランティス様。隠し事は、なしにして下さい」

「――――メルシア」


 結局のところ、二人のすれ違いは、素直になれなかったからだ。


「私……思ったんですけど」


 メルシアが、真っすぐにランティスを見つめる。

 ごくりと、喉が鳴ったのは、見つめられたランティスだ。

 拒絶の空気を感じて、その先の言葉を言わないで欲しいとランティスは願う。


「ランティス様、私と一緒にいると、騎士を続けられないですよね?」

「っ……メルシア、だが俺は」


 いつも、ある程度、ランティスから距離を置いていたメルシアが、ゆっくりとランティスに歩み寄る。


「うん。私決めました。ある程度距離があったときは、ラティの姿に変身しなかったですものね? 私、これからも遠くから、ランティス様を推し続けます」

「――――それは、つまり婚約を、破棄すると?」


 騎士を続けられない自分には、価値がないだろうかと、ランティスの心が絶望で埋め尽くされる。

 ランティスは、メルシアのそばにいるために、騎士を引退することを考えていた。

 けれど、意外な返答だとでもいうように、メルシアが目を瞬いた。


「え? やっぱり、私と婚約破棄したいのですか?」

「いいや! 俺はずっとメルシアと一緒に」

「良かったぁ……。でも、ランティス様は、騎士の仕事に誇りを持っていますよね? 遠くから、見ているだけでもわかるほどです」

「メルシア、でも俺は騎士であることよりも」


 メルシアが、真っすぐにランティスの瞳を覗き込んだ。

 月を連想する瞳が、ゆらゆらと揺れる。


「うそつき」

「え?」

「ランティス様は、きっと後悔します。騎士を続けなかったこと」


 そのまま、メルシアはもう一歩ランティスに近づき、そっと体を寄せた。


「大丈夫。ランティス様がお仕事の日は、遠くから見ています。だから、お休みの日には私のそばにずっといてくださいませんか?」

「メルシア…………?」

「そうですね。侯爵家の奥様としてのお仕事は……」


 ふふっと、いたずらを思いついたようにメルシアが笑う。


「侯爵家の奥様は病弱設定で行きましょう! うふふ!」

「なんだそれは、ははっ」


 思わず、ランティスは笑った。

 メルシアは、貴族社会というものを理解していないのかもしれない。

 だが、だからこそ、第三の選択肢を見つけることが出来る。


「ランティス様は、欲がなさすぎです。頑張っているランティス様は、全部手に入れたって、いいですよ? 私が許します」

「――――そうか、そうだな」


 メルシアに関してだけ言えば、ランティスは欲まみれだ。

 そばにいるだけでは足りなくて、もっともっとメルシアを手に入れたくて仕方がない。


 ランティスは、初めてためらいなく、メルシアを抱きしめる。

 残念ながら本日は、それ以上の進展なく、ランティスの姿は狼のそれになっていた。


【祝】公認推し活ヽ(´▽`)/


☆☆☆☆☆からの評価やブクマいただけるとうれしいです。

応援よろしくお願いします♪

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ