二人の騎士 3
しばらく経って、ベルトルトとともに戻ってきたランティスは、人間の姿に戻っていた。
先ほどまでの、私服からいつもの騎士服に着替えている。
「メルシア、悪いが騎士団で火急の案件だ。…………ここで、待っていてくれるだろうか」
ここ最近メルシアと一緒にいる時は、コロコロ変わって表情豊かだったランティス。
今はいつもの冷たさすら感じる雰囲気に戻っている。
むしろ、これがランティスの通常営業なのだろう。
「――――はうぅ」
「メルシア?」
「騎士服を纏った生のお二人が、目の前に……」
「――――うん?」
「あはは。相変わらずですよね。メルシア様は」
騎士服姿の二人が並んで立つと、まるで最近王都で流行している、騎士の立ち絵のようだ。
もちろん、メルシアは、自分のお小遣いのほとんどを、それらにつぎ込んでいる。
メルシアの部屋にある、年季が入ったライティングデスク。
そこには、たくさんのランティスの立ち絵が飾ってあるのだ。
(――――とても本人には、見せることが出来ないけれど。むしろ、見られたら私は!)
ひそかに悶えたせいで、プルプル小動物のように震えているメルシアを見つめていたランティスが、ふと引き結ばれていた口元を緩めた。
「――――可愛い。昼食をとって、ゆっくりしているといい。そうそう、侯爵家には大きな図書室がある。もしよかったら」
「と……しょしつ」
「そう、もしよかっ」
「いいのですか?!」
ぴょんと飛び上がる勢いで喜ぶメルシア。勢い余ったメルシアに抱き着かれたランティス。
メルシアが、本が大好きなことを、ランティスは知っていたらしい。
「あっ、ごめんなさい!」
「いや、俺は……」
また、無口なランティスに戻ってしまったらしい。
それでも、今のメルシアが、そのことを嫌だとか、つらいとか思うことはもうない。
婚約者のお茶会での沈黙は、あんなにつらく感じたのに。
(きっと、いろいろな表情を知ったから。それに、ランティス様は、思っていたより口下手なのだわ)
それに加えて、ラティの素直な愛情表現が、メルシアにランティスの本当の気持ちを教えてくれているような気がした。
だから、きっと本当にしゃべることが出来なかっただけで、嫌われていたわけではないのだと、今ならメルシアにもよくわかる。
ここ最近になって、メルシアを褒める時のランティスは、妙に饒舌なのだが。
「――――行くか。ベルトルト」
「ええ。それでは、またお会いしましょう。メルシア様?」
一瞬、ランティスの眉が不機嫌そうに寄せられた気がしたが、メルシアの気のせいに違いない。
二人が去っていけば、再び静かになる室内。
訓練場で、二人が剣を交える時には、訓練場に黄色い悲鳴があふれかえるくらいなのだが。
「…………二人で、何の話だろう?」
おそらく深刻な話に違いない。
メルシアにだって、それくらいのことはわかる。
ただ、今しがたみた、二人の姿が網膜に焼き付いてしまって、離れてくれないから、思考に集中できないだけで。
タイプの違う騎士様が二人並ぶ姿、書いているだけで幸せです(*'▽')
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