二人の騎士 2
「急に休むなんて、どういうことですか!」
ノックすらなく勢いよく開いた扉。
反射的に、メルシアはラティを背中に隠そうとした。
けれど、ラティはメルシアを軽く押しのけると、前に出る。
一番初めに目に飛び込んできたのは、その燃えるような色だ。
「…………お客様がいらしていたんですね。失礼いたしました」
「ワフ!」
「――――メルシア・メルセンヌ伯爵令嬢。どうか、ご無礼をお許しください」
先ほどまでの剣幕が嘘みたいに、優雅に礼をした赤毛の騎士。
その姿を、しばらくの間、茫然と見つめていたメルシアは、その名前を口にした。
「……ベルトルト様」
赤い髪が揺れる。
青い瞳が、まるで火と水のように対比して美しい。
ベルトルトは、シグナー伯爵家の三男で、ランティス・フェイアードとは、騎士団を追いかける婦女子の人気を二分するらしい。
甘いマスク。少したれ目の優し気なまなざし。
近づいたら、凍ってしまいそうな冷たい美貌のランティスとは、どこまでも対称的だ。
「お久しぶりですね。メルシア様。――――ランティス隊長と婚約されて以来でしょうか?」
「そ、そうですね? でも、孤児院には時々、来てくださっていたと伺っています」
ベルトルトは、孤児院の少女シーナとメルシアを、人攫いから助けてくれてから、時々孤児院にお菓子やおもちゃ、衣服などを持って訪問してくれていた。
男の子たちは、あこがれの騎士からの剣の指導を、女の子たちは可愛らしい衣服と優しいお兄さんを心待ちにしている。
「いつも、たくさんご寄付頂いてありがとうございます。子どもたちも、来て下さるのを心待ちにしています」
「はは、お気になさらず。――――出資者がいるので」
「ワフッ!!」
急に吠えたラティ。
こんな風に、遮るように吠えるなんて、珍しい。
「……わかりましたよ。……もっと正直になればいいものを」
「ワフッ!!」
なんだか、会話が成り立っているようで、二人の絆を感じるメルシア。
騎士団で、人気を二分している二人。もちろん、ランティス推しのメルシアだが、二人が並んでいる姿を遠くから見るのは好きだった
「それに、俺があんなに言った時には、頑なに休みを取らなかったのに、いきなり休むなんて。さっさと、人間の姿に戻ってもらえませんか?」
「…………」
「ふざけていないで……」
ツイッと視線を逸らしたランティスのそばに、ベルトルトが言い聞かせるみたいにしゃがみ込んだ。
そして、何かに気がついたように、瞳を見開く。
「――――え? まさか」
「…………」
「自分の意思でないのですか。その姿……」
「…………」
ベルトルトは、その火傷しそうなほどに赤い髪の毛をぐしゃりとかき上げた。
チラリと、メルシアのほうをみて、心を落ち着けようとでもいうように、少しだけため息をつく。
「なるほど、合点がいきました」
「…………」
そのまま、青い瞳がメルシアのほうを向く。
優しげに笑ったのに、ベルトルトの瞳は、深刻な色を宿しているように見える。
「――――メルシア様」
「はい」
「ちょっと、借りていきます」
「――――え? はい」
黄昏た様子のラティと、ほほ笑んだままなのに、目が笑っていないベルトルト。
二人が去った後の部屋は、急に静まり返ったのだった。
上官に振り回される苦労性な騎士様、大好きです(*'▽')
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