婚約破棄されましたけど、モフモフ愛でてもいいですか? 2
「あー、行ってしまった」
メルシアは、残された紅茶を一口飲んだ。
甘いものが好きだと言ったら、次のお茶会からは、紅茶にはミルクとお砂糖が入るようになった。
さすが騎士様はちがう、とメルシアはとても感動した。
(これから先は、遠くから眺めよう。それが、幸せに違いないもの)
心臓が壊れてしまいそうなドキドキ。近すぎると、胸が苦しくなってしまうから。
遠くから眺めて、素敵だとため息をつくくらいの距離が、メルシアにはちょうどいいのだろう。
そう納得しようと思ったのに。
なぜか、お茶の味がしょっぱい。
「キュウン……」
その時、モフモフな毛並みの大きな犬が、メルシアを気遣うように擦り寄って来た。
「――――そういえば、君の名前も聞いてなかったね」
ランティスが去った後、いつも現れるこの犬。
犬種もわからなければ、名前も知らない。
婚約者のお茶会をしていても、ランティスはほとんど口を開かないから、メルシアはランティスのことをほとんど……。
(いや、結構知っている。遠くから見て、さらに各方面から情報集めていたもの)
こんなにもメルシアがランティスのことを知っているなんてわかったら、どんなふうに思うだろうか。けれど、これは婚約者としてより、素敵なものを遠くから応援する気持ちに近いのだ。
ギュッと、その太い首に腕を絡めて抱き着く。
あとからあとから、零れ落ちてくる涙。
「意外に……ものすごくショックだったみたい。平気なふり、できていたと思う?」
「クゥン……」
極上の毛並み。モフモフでつやつやだ。
「君は、ランティス様と同じ香りがする……。同じ石鹸使っているのかな」
「ク、クウン……」
離れる様子もなく、鼻先を擦り付けてきた、モフモフの犬を抱きしめたメルシア。
嫌がる様子もなく寄り添ってくるかわいい犬。
それに甘えて、メルシアはひとしきり大泣きした。
「――――ごめんね。べちょべちょになっちゃった」
そういえば、この犬の瞳はランティスと同じ、オリーブイエローだ。
「ふふ。秘密で君のこと、ランティス様って呼んでいい? ……あは、なんてね」
こうやって、モフモフに抱き着いて、ランティスと同じ香りを嗅いでいるだけでも幸せなのに、それ以上はさすがに、誰かに聞かれたら大変だ。
「別の名前があるよね? ごめんね。ランティス様に……。迷惑かけたくない。たまに、君にも会えたらうれしかったんだけど。それで、あわよくば、ランティス様を遠くから見られたらなんて……。図々しいにもほどがあるよね」
「ワフ!!」
グリグリと、犬が頭をメルシアに押し付けてきた。
まるで、呼んでもいいとでもいうように。行くなとでもいうように。
「――――やさし……。そして、かわいい」
いつの間にか、涙が止まったメルシア。
ランティスと同じ色をした瞳で、メルシアを見つめる白い犬。
「――――ラティと呼んでいい?」
「ワフ!!」
しっぽをブンブン振っているのを見て、同意しているとメルシアは思うことにした。
「ありがと……。たぶん、もうここには来られないけど。だから、ラティにも会えないね?」
「……ワフ」
もう一度、ラティがメルシアに擦り寄ったとき、メルシアの涙はすっかり乾いていた。
モフモフ騎士様が好きです。
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