塩対応婚約者の裏側 4
(これは、姿が戻ったら問いたださなくてはいけないわ)
よくよく考えてみれば、確かにランティスは、婚約破棄を受け入れる、と言った。
けれど、メルシアの認識では、婚約破棄は確かにランティスから告げられたのだ。
「ね、ラティ。いつから私のこと好きだったの?」
壁際で、プルプルと尻尾を振るのさえ我慢しているらしいラティ。
ゆるりと、メルシアはそばへと近づく。
(かわいいなぁ……)
メルシアの認識では、婚約する前、ランティスと出会ったのは、あの事件の時だ。
そのあと、メルシアは、半年ほどランティスを遠くから応援しては、推し活を満喫していた。
頭をそっと撫でると、スリッとお返しとばかりに擦り寄せられる頭。
ランティスは、ラティの姿の時は、人間とは違う原理をもとに行動しているらしい。
(と、いうことは、私がしっかりしないといけないのだわ)
婚約中も、塩対応婚約者だったランティスが、メルシアを置いて退席してしまったあと、いつもラティがそばに居た。
そう、いつだって、ランティスは、メルシアのそばにいたのだ。あんなにストレートな愛情表現をしながら。
「ずるいよ」
ランティスは、ずるい。
本当に好きなのであれば、婚約破棄などせず、やっぱり伝えてくれればよかったのだ。
コツンッと、頭をラティに近づけて、額を合わせる。
「ああ、ずるいな。俺は」
また、メルシアは、やらかしてしまったらしい。
ラティから変わったランティスの、美しいオリーブイエローの瞳が、視界の全面に映り込む。
近い。額と額をくっつけた距離は、あまりにも。
「もう、遅いだろうか……」
「ランティス様。だって、婚約は破棄され」
「っ、すまない。まだ、破棄していない。誰にも言っていないんだ!」
額同士は、くっついたままだ。
だから、パチパチと瞬いたメルシアの長いまつ毛は、ランティスのそれと触れ合ってしまいそうだ。
「え……?」
「……今まで大切にしてきたこと、全てと比べても、メルシアのそばに居たいという気持ちの方が強いと、あの時やっと気がついた」
「……ランティス様?」
浮かれていたのだろう、メルシアは。
近くなった距離。微笑みを真っ直ぐ向けてもらえる幸せに。
「ずるいな。俺は……。でも、もう離れるなんて耐えられないから」
目を瞑ることもできないメルシアの頬に、ためらいがちに寄せられた唇。
サラリと解かされた髪の毛の先にまで、神経が行き渡っているのではないかとメルシアは思ってしまう。
唇が離れると、するりとその部分に長い指が触れる。そして、そっとランティスの親指がメルシアの唇に触れた。
「同じ記憶を共有していたって、先を越された感が、否めない。お願いだから、ここは俺に取っておいて?」
「ふぁ、ふぁい……」
「はは、可愛い。…………聞いて。あの時から、ずっと好きだったんだ。メルシア」
微笑んだランティスの瞳は、まっすぐメルシアを見つめたままだ。
でも、なぜだかわからないのに、メルシアはその話の続きを、聞きたくないと、このままがいいと、思ってしまったのだった。
ようやくランティス様が、本気です!
そして、ここから溺愛ターン( ^ω^ )
あ、次回はちびランティス様登場です。初恋の甘酸っぱさをお楽しみに♪
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