塩対応婚約者の裏側 2
メルシアと一緒にいると、30分ほどで、狼姿になってしまうらしいランティス。
さぞや、不便な思いをしていたに違いない。
そんなランティスだが、今はラティの姿でお行儀よくメルシアの前に座っている。
「ワフ……」
「あの、ランティス様?」
「ワフゥ…………」
さすがに愛称呼び捨ては、申し訳ないのではないかと思いつつ、ランティス様と呼んでみたところ、露骨にそっぽを向かれた。
「…………ラティ?」
「ワフ!」
しっぽがブンブンと揺れる。この呼び方が正解のようだと、メルシアは判断した。
しかし、本当にラティはランティスなのだろうか。
あまりに、犬もとい、狼になりきっているように見える。
「あの、ラティはランティス様なんだよね?」
「ワフ?」
もちろん、言葉がしゃべれないラティからの返事はない。
その代わりに、いつものように、いや、いつも以上にグリグリと頭が摺り寄せられる。
勢いがよかったわけではないけれど、あまりにグイグイ来るものだから、メルシアは再びベッドに押し倒される形で沈み込んだ。
その上に、ラティが乗り上げてくる。
「んっ…………。重いよ、ラティ」
「ワフ!」
その瞬間、ランティスがメルシアの頬をぺろりと舐め上げた。
そのまま、親愛の情を表すかの如く、続けて頬をぺろぺろ舐めてくる。
「きゃ! あはは! くすぐったいよ、ラティ」
そして、分かってはいたのだ。
分かっていたつもりだったのだ、メルシアは。
ラティは、実はランティスなのだと。
かわいいモフモフの、狼などではないのだと。
それなのに、あまりにもラティの行動が、大きな犬のそれなので、メルシアはついつい忘れてしまった。ラティは、人間に戻れば、美貌の騎士様なのだと……。
「…………」
「…………」
それが現在の事態を招いていた。
王都で流行している小説。
メルシアは、推しという存在を、その小説の中で知った。
そして、これは同時に小説の中で語られている、最上級の謝罪の意を表す姿。
――――そう、土下座だ。
「あの、ランティス様、お顔を上げていただけませんか?」
「いや、申し訳なさ過ぎて、このまま腹を切って詫びたい。いや、詫びる!」
「ひぃっ! やめてっ、やめてください! ラティとつい戯れてしまった、私が悪いんです!」
(本当に、ラティとランティス様は同一人物、あるいは同一狼なのだろうか)
メルシアの脳裏に、そんな思いがよぎる。
だって、どう考えてもおかしいではないか。いっそ冷酷な騎士だという評価のほうが表に立つ、騎士ランティスが、あんな行動をするなんて、王都の住人の誰一人として想像できないに違いないのだから。
犬改め狼からの溺愛……( ^ω^ )
ランティス様、がんばって! そして、応援よろしくお願いします!
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