長期休暇はモフモフとともに 4
ランティスが去ると、入れ替わるようにラティが部屋に飛び込んで来た。
しっぽをブンブン振って、歓迎してくれているのが一目でわかる。
「わぷっ」
飛び込んで、体当たりしてきたラティに、たまらずにメルシアは後ろに倒れてしまう。
押し倒してしまったことに驚いたのか、その瞬間、壁際までラティが勢いよく下がった。
しっぽがペタンと下がってしまっている。
ずいぶん驚かせてしまったのだろう。
「――――おいで? 驚かせちゃったかな?」
おずおずと、ラティがメルシアに頭を摺り寄せてくる。
「うく。か、かわい……」
メルシアは、先ほどまでモヤモヤしていたことも忘れて、ラティとじゃれ合う。
犬と遊ぶのは楽しい。素直にお互いが好きだと伝えることが出来るから。
「……ラティ、好きだよ」
「ワフ……」
「……ランティス様にも、こんな風に気負うことなく、好きだって言えたらいいのにね」
間違いなく、メルシアはランティスのことが大好きだ。
それは、推しに向けた好きなのか、それとも婚約者に向けての好きなのか、それはわからないけれど。
「婚約者になってから、逆に距離を感じる」
推し活として、ランティスを追いかけていた時には、いつだって楽しくて、幸せで、満たされていたのに。今は、足りない。もっと、近くにいたくて、もっと長い時間一緒にいたくて。
「なんだか、すごく欲張りになってしまったみたい」
「キュウン」
「……ランティス様は、私に隠し事があるみたい。ラティは、それが何か知ってる?」
「キュ、キュウン」
なぜか、ブンブンと首を振るラティ。
まるで人間のようなそのしぐさ。たまたまに違いないけれど、可愛らしい。
「……ランティス様が、苦しんでいるなら、力になりたいのに。私は、信頼されていないのかな」
「ワフ……」
「ランティス様、遅いね。そろそろ、遅刻しちゃう……。また、来てもいいのかな」
すっと、立ち上がって、「また来るね?」とメルシアはラティに告げる。
さすがに、ラティに告げても伝わるはずはない。メルシアは、メモを残しておくことにした。
「行ってくるね」
「ワ、ワフ!」
メルシアを追いかけてこようとしたラティが、ふいに足を止める。
なぜか、そのまま座り込んで、追いかけるのをやめたようだ。
ラティは、しばらくの間、閉められた扉を見つめていた。
そして、覚悟を決めたように、扉を前足で開くと、風のように走り出した。
ワフッを書くのがとっても楽しいです(*^^*)
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