長期休暇はモフモフとともに 2
後ろから、急に抱きしめられて、メルシアの心臓は、跳ねて飛び出してしまいそうになる。
けれど、安心できる香りは、その腕の主が誰なのか、メルシアに伝えてくる。
「――――メルシア」
その予想を肯定するみたいに、低く甘い声がメルシアの名を呼んだ。
「あの、ランティス様?」
「会いに来てくれたの? ……うれしいな」
やはり、ランティスは、様子がおかしい。
こんな風に、メルシアに接する人ではなかったのに。
抱きしめているランティスの腕をそっと掴んで緩めると、メルシアは、くるりとランティスのほうを向く。
(っ……思ったよりも、距離が近い?!)
頬に熱が集まってしまうのを、止めることも出来ない。
けれど、ふと見たランティスの耳元が、ほのかに赤い事に気がついて、メルシアは冷静さを取り戻す。
「やっぱり……」
「メルシア?」
「やっぱりどこか具合が悪いのですか?! 顔も赤いし、体調を崩してしまったのですか?!」
「え…………?」
メルシアは、ランティスの額に、性急な仕草で小さくて、少し冷たい手を添えた。
「っ……熱、なんて」
「うそです! お顔が赤いです」
「それは、君が!」
口を開こうとしたランティスの唇が、少しだけ歪んでほほ笑む。
そのまま、額に当てていたメルシアの手首が掴まれて、流れるように、その場所に口づけが落ちた。
「ひゃんっ?! ラ、ランティス様」
「……ほら。メルシアの頬も、真っ赤になっている。かわいい」
今度こそ、真っ赤に染まるメルシアの頬。
いや、おそらく頬だけではなく、全身が上気しているに違いない。
(え? え? どうしてしまったの、ランティス様?!)
動揺を隠せないメルシアと、少しだけ歪んだままの笑みで、メルシアを見つめているランティス。
「く。……かわいすぎないか」
「え?」
「なんでもない」
つぶやきは、メルシアには聞こえず、小さく首をかしげる。
その姿は、小動物のように可愛らしくて、ランティスは、誰にも見せたくないとばかりに、掴んだままだったメルシアの手首を軽く引いた。
「はあ……。それほど時間がないな。とりあえず、中に入ってもらえるかな」
「……押しかけておいて、今更なのですが、いいのですか?」
「お願いしないと、入ってもらえないのかな」
「いっ、いいえ!」
ランティスは、メルシアの扱い方がだんだんと上手くなってきたようだ。
「メルシア……。本当はずっとここにいて欲しいくらいだ」
「…………えぇ?」
本当に、今日もランティスはおかしいと、メルシアは長いまつ毛に縁どられた、真ん丸の瞳を瞬いた。
ようやく進展が?!(*'▽')
最後まで、お付き合いいただきありがとうございます。下の☆を押しての評価やブクマいただけるとうれしいです。




