婚約破棄されましたけど、モフモフ愛でてもいいですか? 1
シリアスを書いたら、ほのぼの書きたくなりました。読んでいただけるとうれしいです(*'▽')
モフモフほのぼの率7割くらいです。
婚約者としての最後のお茶会。
耳が痛くなりそうなほどの沈黙。
今となってはメルシアの元婚約者であるランティスは、一言も言葉を発さずに、音もなく優雅にティーカップをソーサーに置いた。
(嫌われている上に、なんの旨味もない貧乏伯爵家の令嬢……。いくら、お父様同士が親友だからって、嫌だったよね)
婚約破棄の申し出をメルシアにしてから、指先を組んでは、珍しく落ち着かない様子だったランティスが、ようやくその形の良い唇を震わせた。
「…………では、これで失礼する」
「はい、わかりました」
メルシアが、物分かりよく返答すると、ランティスは、なぜか傷ついたように、縋るようにメルシアの瞳を見た。
メルシアは、そのことに気が付かなくても、周りからはそう見えただろう。
もしも、周囲に人がいたならの話だが。
今、庭園は人払いされ、二人きりの空間だ。
婚約者のお茶会は、こうして月に2回開かれていた。
(それでも、私にとっては大事な時間なの。でも、もうすぐ婚約破棄の話が出るだろうって思っていたからそこまでショックではないわ。たぶん)
訓練場を訪れては、遠くから見守っているだけだった、騎士ランティスの家、フェイアード侯爵家から婚約打診されたのは、かれこれ半年前のことだ。
不思議なほどスムーズにランティスの婚約者に納まったメルシア。いまだに理解が追いつかないまま、今日も婚約者のお茶会に臨んでいた。その席で、無表情のランティスから婚約破棄は言い渡された。
打診が来たあの日。どうして、王国の剣ともいわれ、絶大な権力をもつフェイアード侯爵家からそんな申し出がきたのかと、貧乏伯爵家でしかないメルセンヌ家に、激震が走った。
『姉様は、見た目だけはいいから。どこかで、見初められた?』
あの時、見た目がいいと弟は、言ってくれたけれど、動揺のあまり出た言葉だろうとメルシアは思っている。
貧乏伯爵家の長女であるメルシア・メルセンヌは、ごく普通の容姿だ。少なくとも、本人はそう思っている。
髪の色は、淡い茶、瞳の色は緑色と、この国ではよくある色合い。
二重の大きな瞳と小さな唇、気持ち低めの鼻は、可愛いといわれるが、美女というよりは、小動物系だろう。
「――――そうか。メルセンヌ伯爵家への援助の話は、なかったことにはしない。メルシアの名声を落としてしまった代償には不十分だと思うが、婚約破棄の違約金も勿論払おう」
「――――ありがとうございます」
(本当は、この半年間の、幸せ過ぎた毎日に、金額なんてつけて欲しくない)
でも、魔獣が生まれる森が近くにあるメルセンヌ領は、3年前の魔獣の活性化以来、その対応のために資金繰りが悪い。
(遠くから、そのお姿を眺める日々に戻るだけの話だわ。私には、それくらいがちょうどいい)
妙に、ズキズキと痛む胸に気が付かないふりをしながら、メルシアは、まっすぐにランティスを見つめ返す。
「あの、どうしてもひとつだけお願いしたいことが」
「……なんでも叶えると誓おう」
なんでもなんて言葉、簡単に口にしないで欲しいと、人のいいランティスのことを心配しつつ、メルシアは、ほっと息をつく。
「ランティス様の飼い犬に、たまに会いたいのです!」
その言葉を告げた途端、ランティスは、オリーブイエローの瞳を瞬いた。
(そんなに驚くことかしら。それとも、婚約破棄されたのにあまりに図々しいと、呆れられたのかしら)
メルシアは、ランティスの飼い犬に思いを馳せる。ランティスがお茶会から去った直後に、必ずメルシアに会いに来てくれる、モフモフの毛皮の白い犬。
ハスキーに近い姿をしているが、なんという犬種なのかは、不明だ。
「せっかく仲良くなれたので、たまにでもいいから会いたいです」
そして、あわよくば、遠くからランティスを眺めたいというのは、もちろん口に出さない。
「っ……たまに、なら」
その言葉をようやく紡いだあと、口元を押さえたランティスが、「すまないが、これで失礼する」と、足早に去っていく。
メルシアは、庭園に一人、取り残されてしまったのだった。
こちらの物語は、ほのぼのにします。(宣言)
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