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何かと煽ってくる幼馴染みへの対応を変えたら見違えるぐらい可愛くなった問題について

作者: 椰子間 

 五月の下旬頃。その高校では中間テストの結果が返却されている所だった。


「次、道儀(みちぎ)!」


 他の生徒達の悲喜交交の様子を眺めていた俺に、地獄からの呼び声が響いて来た。今回の中間はいつもに比べて比較的努力した方だが、貰いたく無い物は貰いたくない。溜め息をつきつつ仕方無く先生の元へと向かって行き、成績表を受け取った。そうして自席に戻ると、後ろの席から声が掛けられる。


「どうだった?」


「逆にどうだったと思う?」


「良かったら許さん」


 それもそうかと思いつつ、俺は恐る恐る成績表に目を通す。あーという感じの成績だった。


「さては微妙だな?」


「ああ。微妙に悪い」


 確かにいつもより良いっちゃ良いが喜べるような順位かと言われると素直に頷けない。まあこんなもんだろと思い直して、今回のテストで難しかった部分の愚痴り合いに突入する。こうやって次への対策より先に傷の舐め合いを出来るのも、受験が控えていない高校一年生の特権だ。


「ホント親に見せるのきちぃー」


「まあ、俺は親に見せるよりもきつい事が待ってんだけどな」


 そうぼやくと不思議そうな顔をされたが、仕方無いだろう。誰にも話せない、俺だけの事情というものもあるのだから。


「そんじゃ、傷心癒やしにスマホ触りたいんで先に帰るわ」


「おう、また明日な。空梨(くうり)


 こうして教室を後にした俺は、この後待ち受けているであろうあるイベントに思考を巡らせるのだった。


 〜〜自宅〜〜


「ただいまーっと」


 学校から帰り手を洗った俺は、即座にソファへとダイブ。両親は共働きで母さんは七時ぐらいまで帰って来ない。だからこそ一人の時間は怒られる事も無いのだが。とりあえずスマホを触るかー、といつもの様に怠惰にスマホへ手を伸ばすと、


 ピンポーン、と来訪者を告げるインターホンが鳴った。


「やっぱ来たか…」


 最早恒例行事なのだが、いつまで経っても案外慣れないものだ。はーい、と返事で在宅を示すと、ドアを開けるべく玄関へ行き鍵を開けた。その直後、


「ヤッホー、空梨いつもの事だけど私のお出ましだよー!」


 はつらつな声が静寂だった部屋に響いた事で、言いようの無い喧騒が訪れる。嵐の様に入って来た少女は白いショートカットの髪に、薄く蒼い瞳で少し膨らんだ胸元を包むのは俺と同じ高校の制服だ。


 幸覚(ゆきさめ)沙音(さのん)。幼稚園からの腐れ縁で家が三軒隣の幼馴染み。中学生になると別の小学校と合同する事もあり、それまでの友人関係が希薄になるというのは珍しい話ではないが、俺と沙音は希薄になるどころかより密接した関係になっていった。言うならば親友?という感じだ。


「さて、今日私が来た理由は分かるでしょ?」


「分かりたくは無いんだけどな」


 そう、この後何が待ち受けているか分かっているが分かりたくは無いというのが心情だ。今回もいつもの如く()()があるのだ。


「成績表はーっと…あったあった!」


「て、勝手に触んじゃねえよ!」


 その手には俺の成績表が握られている。俺にプライバシーは無いのだろうか?


「87位か…結構頑張った方じゃない?」


「だろ!?俺にしてはまだ好成績ってギリ言える範疇だ。で、沙音はどうだったんだ?」


「フッフッフッーこれを見よ!」


「1位!?はあ!!?」


「沙音ちゃんの本気はざっとこんなもんよ!」


 意気揚々と突き出されたその成績表の総合順位の欄には1位の文字が刻まれていた。こいつが成績運動神経共に良く、その可愛らしい顔立ちから告白も多く受けている事も知っているが(全部断っているらしい)、まさか1位を取るとは。しかし、俺にとっての問題の時間は今からでーー


「いやーにしても87?うんうん、頑張った頑張った。でも私1位だからな〜。やっぱ1位から見るとちょっと見劣りしちゃうんだよな〜。凄いんだとは思ってるんだよ?でもな〜」


 ウザい。もう少し言わせて貰うとめんどくさい。そう、この幸覚沙音は何かと俺にウザ絡んだ上に煽って来るのだ。さらに酷い事に沙音の煽りが始まったのは小学生からで、最初はちょっとした自慢だったのが徐々に愉悦を含んだ絡みになって、中学校からは今の様な煽りに変貌を遂げた。まあ何も嫌という訳では無いが、めんどくさいものはめんどくさいのだ。


「そもそもお前中学最後の学年末も4位だったろ?そんな天才肌と比べられてもなー」


「え〜何〜?(ひが)み~?」


「だとー!」


 リビングを逃げる沙音を俺が追いかけるというなんとも子供じみた展開だ。楽しく感じる反面、どうにかしてこいつとのパラーバランスを変えられないかと考えていた。


 〜〜一週間後、球技大会〜〜


 あちらこちらで歓声が湧き、青空の下でクラス対抗のドッジボールが行われている。一クラスにつき三試合執り行われる我が校伝統の球技大会。現在俺は自分のクラスの番を待ち、他クラスの試合を観戦している状況だ。少し奥の方に目をやると、女子達の熱き戦いが繰り広げられている所だ。沙音は運動神経も良い。今回結果を残せねば煽られるのは必死だ。


「次、四組!」


「あ、俺らの番か」


 コートへ向かう途中もどうすれば良いか考える。既に二戦敗北している俺のクラスが勝利数でどうこうする事は出来ないだろう。だが、試合にどれだけ長時間残る事が出来るかなら勝機もある。そうすればパワーバランスを変えられないまでも多少揺るがせられるかもしれない。


「それでは、四組対一組の対決を始めます!」


 遂に試合が開始。早速一組から洗礼と言わんばかりに球が飛んで来る。それをギリギリ躱す事に成功。良し、これならいける。これなら沙音に一泡吹かせーー


「道儀、後ろーーー!!!」


「え?」


 道儀空梨。開始十秒で脱落になりました。


 〜〜自宅〜〜


「それで私達は見事全戦全勝!この私も一回たりとも当てられ無かった訳でして…で?空梨は全戦全敗な上に最後は十秒退場??ププッ…いや、頑張ったんじゃない?ププッ…」


 当然煽られた。しかも今日のこのペースなら一時間は続きかねない。そんなのは御免だが一体どうすれば……………………………………………………………………ダメ元で真逆の対応をするのはどうだろうか?いつも俺は沙音の煽りに対して反発的な態度を取り続けて来たが、というか小学生の頃からそんな態度だ。しかし、その真逆をとってみれば…


「なになに〜?言い返す事も出来な」


「お前凄えな、沙音」


「え?」


「一回も当たらない上にクラス全勝に導いたんだろ?並みの奴に出来る事じゃねえし、沙音の運動神経あってこそだ。尊敬するよ」


「………」


 沈黙が帰って来る。もしかしてやらかしたか?ヤバい。気まずい。もう撤回した方がいいか?いいよな?よし、今すぐ撤回…


「あ、ありがと」


「お、おう?」


「な、何か今日体調悪いみたいだし帰る事にするね。褒められた事は感謝するけどいきなりはびっくりしたかな。まあ悪い気はしないし気持ちは受け取っておくけど?ありがたく受け取っておくけど?と、とにかくお休み!」


 とんでもない早口でまくし立てた後に沙音は帰って行った。こ、これは成功と言えるのか?あの沙音が何も言い返さず帰って行った所をみるとそれなりに効果はあったっぽいが…まあこれで煽られる事も無く母さんが帰宅するまで一人で平和な時間を過ごせるという訳だ。どこか寂しい気がするのは、きっと気のせいだろう。  


 それから俺たち二人の関係は、少し変化した。沙音が何か自慢して来る度に俺はあいつを褒めるというスタイルに変更。その度にあいつは顔を赤らめて出て行った。


「見てよ、リレー第一位!陸上部に入ってってお願いされちゃった」


「速すぎるだろ!そりゃ陸上部に誘われるわな。その見た目も関係あるんじゃねえか?」


「え、見た目?」


「可愛いじゃねえか。お前がいれば陸上部も華やかになるだろ」


「ふえぇ!?あ、ありが…」


「そういう顔も可愛いぞ」


「ふえぇぇぇ!?!?」

 

 自分で言っててかなり恥ずかしい台詞ばかりだが、こうすれば沙音の煽りを防げるだけでなく、沙音が照れまくるという可愛いらしい姿を見る事も出来、一石二鳥なのだ。そもそも可愛いとは本気で思ってるし。しかし、何故ここまで照れるのだろう?恥ずかしい言葉を掛けている俺のが照れてもおかしく無さそうだが………しばらく考えてみたが、分からなかった。それから日は経ち一学期も終了が近付いて、


 〜〜終業式〜〜


 俺は、沙音の怪しい態度に対して決着を着ける事にした。そりゃ正面から褒められれば照れるだろうが、あそこまで狼狽する事無いだろうし違和感ありまくりだ。夏休みの間どれだけ会えるか分からない以上、今日通知表で煽りに来るであろうタイミングがラストチャンスと考えて良いだろう。


「一学期お疲れ様〜!見て見てこの成績表!ほとんど9か10って凄くない!?」


「流石沙音だな。お前ならいけると思ってたよ」


「ふぇ!?あ、ありがと…」


 またも可愛いらしい声を上げて顔をこれ以上無いのではってぐらい真っ赤にする。そういえば、どうやってこいつを追い詰めよう?沙音にとって、俺に褒められるという事は予想外の対応だった為あの反応になったのだろう。なら更に予想外の事を言えば良いのか?そう思案し続けていると、


「あ、あのさ」


「ん?」


「わ、私要先輩に告白されたんだ」


「え、まじ?」


 嘘だろ?要先輩と言えばサッカー部部長の超絶イケメンとして有名だ。あの人から告白されるなど他の女子達からは憧れの的だろう。


「で?返事はどうしたんだ?」


「丁重にお断りしといたよ」


「まじで?」


「良い人なんだろうなーってのは分かったけど今付き合うのは違うかなーって」


 そう話す沙音の顔には自慢気な色が浮かんでいる。皆が憧れの先輩に告白された事を自慢したいのだろう。ん?これを使えば良いんじゃないか?俺が告白されて付き合ったって嘘を吐けば幾らか動揺するはず。そうすれば、あの態度の正体も分かるかもしれない。


「ねぇねぇ、どう思う?やっぱ私だから告白されたっていうか」


「沙音」


「何?」


「俺、今日告白されたんだ」


「………………………………え?」


 え、ヤバい。思ってた反応と違う。もっとハイテンションな返しを予想していた。ともかく、続ける。


「そ、その終業式が終わった後にクラスの、まぁ誰だかは流石に言わないけど呼び止められて告白されて…」


 語りつつ沙音を見ると………絶望的な表情をしていた。目には光が宿っておらず、口はポカンと開いていて、手は心無しか小刻みに震えているように見えた。もう嘘を吐く事にとんでもない罪悪感を感じる。それでも、俺は心を鬼にせねばならない。


「で?どうしたの?」


「え、ええと俺も彼女欲しく無いって言ったら嘘になるし…い、一応お、OKを…」


 ヤバい。やらかしたかも。沙音の表情は………え?泣いてる?そう、泣いているのだ。あの沙音が。


「さ、沙音?大丈夫か?」


「だ、大丈夫です。はい。大丈夫だから!」


「絶対大丈夫じゃないだろ!情緒ぶっ壊れるし!おい、何で泣いてんだ?辛い事あんなら話に…」


「…だから」


「え?」


「好きだから!いつも笑って私と対等であろうとしてくれる空梨の事が!!」 


 えええええええええええええええええ!!!???

俺の事が好き!?沙音が!?予想外だったのはこっちだよ!いや、待て。おかしい事がある!


「で、でも好きだったならあんな煽って来る必要なんて」


「そ、それは…中学生になったらそれまでの交友関係が無くなりやすいって聞いたからあえて絡んだらこれまで通りに仲良くしてくれるかなって…」


「なら、高一まで引っ張る必要は」


「煽るって事は自分の魅力を言うって事でしょ?いっぱい私の魅力を伝えたらいつか私の事好きになってくれるかなって…」


 何故だろう。健気な上に可愛いすぎる。ん?だとしたら俺は不味い嘘を吐いたのでは?


「もう言っちゃった!いつか煽りに空梨が我慢出来なくなったぐらいで告白しようと思ってたのに!でも、もう関係無いよね…空梨には彼女が出来るんだもん」


 やっぱり嘘は不味かった。もう訂正するなら今しかない!!!


「ごめん!あれ、嘘だった!」


「え?どういう事??」


「その、どうしていつも褒める度にあんな反応するのか気になって…嘘吐きました!すみません!」


「空梨」


「はい!」


 冷酷な声が聞こえる。仕方無い、悪いのは俺だ。どんな処罰も受け入れよう。すると、頭をポン、と触られて俺は思わず前を向く。


「良かった…空梨が誰とも付き合って無くて…」


 そこには、心の底から安堵の表情を浮かべた沙音がいた。その顔を見て、俺は一つ腑に落ちた事がある。どうして、あれだけウザ絡みされても俺は嫌がらないのか。どうして、こいつの照れる顔を見る度に可愛いと思う自分がいるのか。今、ようやく分かった。


「沙音」


「は、はい?」


 これ以上何を言われるのかと沙音が心配そうな表情を浮かべるが、もうそんな心配は無い。


「俺は、お前の事が好きだ」


「!!!!!」


 再び、沙音の目から涙が零れる。しかし、その口に浮かぶ笑顔からもそれが先程までとは違う感情の涙である事が分かる。今、ようやく自分の気持ちを自覚した俺と、煽りという不器用なアピールしか出来なかった沙音の気持ちが通じ合ったのだ。


「く、空梨」


「ん?」


「つ、付き合うかどうかはまた今度決めない?今日は気持ちの整理もしたいし。告白も、改めてその時に」


 それには、俺も同意だ。今興奮している状態で交際なんて決まったら、軽く一線を超えてしまいかねない。また、交際については後日話し合うとしよう。


「ね、ねぇ空梨」


「ん?」


 沙音が頬を赤らめながらこちらに問いかけて来る。一体なんだろう?


「私の事が、好きなんだよね?」


「あ、ああ。何度も言わせんじゃ…」


「えい」


 そんな可愛い声が聞こえた後に、左頬に柔らかい触感を感じる。すぐそこには、沙音の顔が。………ん?柔らかい感触?沙音の顔?………………まさか


「そ、それじゃあ帰るから!」


 先程の顔が限界だと思ったのに、それ以上に顔を真紅に染めた沙音が慌てた様子で家を出て行った。俺は、思わずその場に座り込み左頬を抑える。脳がようやく追い付き、何が起こったのか理解する。


 ………キスされた?


「うわああああああああああああああああああああ」


 ヤバいヤバいヤバいヤバいヤバい。ヤバ過ぎる!きっと、今の俺はさっきの沙音よりも顔が赤い事だろう。ヤバいヤバいヤバいヤバいヤバい………


 それから、約半年後の事。


 思い出深い我が家の前で、俺と沙音の二人は、見事同じタイミングで告白するのだった。






 こうして、見事結ばれた二人でした!

 この作品を面白いと思って下さった方は、応援して下さると嬉しいです!感想も受け付けているので、ご指摘等あればありがたいです!

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