再会と再生
放課後になり、生徒たちは教室を出て所属している部活動へと散っていく。だが、私は教室で自分の席に座ったまま。部長から「俺が迎えに行くまで教室にいろ」と指示されたからだ。
教室には、まだ数名の生徒が残っていた。といっても、残っている生徒たちも【勉強部】という名の部活動に所属している。彼らの活動は、その名の通り、放課後自主的に勉強に励む。各学年ごとに【勉強部】はあり、時おり三学年合同勉強会を図書室で行っている。机に寝そべりながら勉強を始めた彼らに関心の眼差しを送っていると、背後から肩を叩かれ、聖海は顔を上げた。
「今日こそ、あなた達 妖研がどんな活動をしているのか、暴いてやるんだからっ! 覚悟しなさい!」
同じクラスのミステリー研究部、略してミス研の倉持 梢が私に人差し指を突き付け、仁王立ちしている。相変わらず、ミス研は妖研の謎を解明しようと頑張っている。
「倉持さん。私、まだ部員じゃないんだ。これから入部届け出す予定だし……」
「え!? えぇ!?」
漫画のようにオーバーなリアクションで驚く倉持さん。片足立ちしている軸足の右足がプルプル震えている。二つ縛りのおさげ髪をした大人しい見た目からは想像のつかない行動だ。いつまで彼女はこの体勢を続けるのだろう。倒れそうで倒れない絶妙なバランス感覚だ。そこへ救いの騎士が現れた。
「立花、遅くなって悪い。行くぞ」
銀縁眼鏡をかけたイケメン妖研部長の登場に、勉強に集中していた【勉強部】もザワついている。部長が現れ、固まっていた倉持さんも機敏さを取り戻し、彼へと詰め寄った。
「妖研部長、雷さん! 今日こそは──」
「お前は行かないのか? ミス研の連中は皆、外に出かけて行ったが……。自由行動もほどほどにしたら、どうだ? 部長の深井に、またドヤされるぞ」
「え!? きょ、今日のところは見逃してあげる!」
バタバタと教室から出て行った倉持さんの背を眺めがら、部長は小さく呟いた。
「……そう簡単に知られるわけにはいかないんでね」
活動報告の現場を見て気づいたことがある。結界を張り、外部と遮断された空間内で活動報告を行っていたことから、公に出来ない部活動だということ。事実、部長以外の部員を知っている生徒は限りなくゼロに近い。だからこそ、妖研に入部できる者は【選ばれし者】のみと言われているのだろう。私のように編入してきた者は、隠すことは不可能だ。校内の全部活動から声がかかり、どの部活に入部するのか全生徒が注目してしまうから。
「何してる。早く来い」部長が飛ばした声に弾かれるようにして鞄を背負い、先を行く彼の後を追った。
「部長、これからどこへ?」
「まずは職員室に行って、外出許可書を提出する。説明を受けたと思うが、外出許可書は部活以外であっても、校外へ出掛ける際は必要となる。くれぐれも出し忘れるなよ? 部長の俺まで連帯責任を負うことになる。いいか? 必ず、だからな!」
「……了解です」
顔に圧という名の黒い影を落とした部長が目前に迫ってきた。彼は自分がイケメンだということを理解していないのだろうか。時々、距離感がおかしい。整った顔に迫られては、心臓に悪い。
「今日提出する用紙には、【部活動で校外活動のため、外出】と書いてくれ」
「わかりました!」
職員室に着き、外出許可書を提出した。だが、隣にいる部長は立ち尽くしたまま。あれほど外出許可書の提出について注意喚起し、怖い顔をしていたというのに、なぜ彼は提出しないのだろうか。
「あれ? 部長は提出しないんですか?」皮肉交じりに隣に立つ部長を見上げた。
「あぁ。俺は寮を利用していないからな。ここ(六星高校)から目と鼻の先に家がある」
「そうなんですか!」
「大半の生徒は寮を利用しているが、自宅から通っている生徒も少なくない。颯志──風見も家から通っている」
「なるほど。確か、部長と風見先輩は幼なじみでしたよね?」
「幼なじみというより……そうだな。アイツとは、【腐れ縁】というやつだ」
【腐れ縁】──それもまた妖術師 繋がりなのだろうか。『妖術師は急に誕生しない』と副部長は言っていた。部長と風見さんの関係も、彼らが生まれるよりずっと前から続いているとしたら、妖術師の歴史は思った以上に長いのかもしれない。
校門を出て右手に曲がり、道に沿って歩いていく。隣の道は大通りになっていて、車通りも人通りも激しい。近くに駅があるということもあり、いつも道は混雑している。真っ直ぐ伸びる広い歩道を並んで歩きながら、部長は唐突に妙なことを言い出した。
「俺は以前、お前に会ったことがある」
「えぇ!? なんですか、この少女漫画みたいな展開は!」
「……少女漫画? よくわからないが……。祖父が開催した妖術師同士の交流会で俺はお前に会っている」
「……それって、つまり──」
「参加出来るのは、【妖術師】のみだ。少なからず、あの場にお前がいたということは」
頭の中で何かが割れる音がした。ガラス細工のワイングラスが粉々に砕け散ったような軽く高い音。その刹那、後頭部を殴られたような鈍痛とひどい目眩に襲われ、意識を手放した。




