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六星高校妖怪研究部~ようこそ、妖研へ!~  作者: 望月おと
【ようこそ、妖怪研究部へ!】
5/22

妖怪研究部 ④

 モヤモヤした引っ掛かりを抱えたまま、聖海は副部長の説明に耳を傾けた。


「得意とする性質は妖術師によって異なり、妖術の主軸となります。私の場合は、医術。そこに自分の体質【(すい)】──これは、自分の生まれた日が何曜日かで決まります。性質と体質、この二つを組み合わせて自分なりの妖術を作り上げていく。ですが、先ほども言いましたが、妖術師は突然誕生しません」

「……血縁は、あまり関係がないってことですか?」

「その通りです。妖力の強さなど無関係ではありませんが、妖術の継承という点からは関係ありません。受け継がせたい者に妖術の基礎となる【型】を託す。たい焼きも型がないと作れませんよね? それと同じです」

「なるほど! あれ、」

「妖術も性質に合った【型】が存在する。雷くんと風見くんは同じ召喚師でも、それぞれ【型】は異なります。一般的には、その【型】を和紙に筆ペンで書き、術者の息を吹きかけます。──部長、お手本を」

「引き受けた。……そうだな、アイツにするか。これもいい経験になる」


 制服のズボンのポケットから短冊サイズの和紙と筆ペンを取り出すと、サラサラと左手で筆ペンを走らせ、【型】を書き込んでいく。書き終えると、右手の人差し指と中指で和紙を挟み、ロウソクの火を吹き消すのと同じように力強く「フッ!」と息を吹きかけた。すると、影助の時とは違い、どこからともなく蒼白い(ほのお)が現れ、一瞬にして和紙を跡形もなく焼き尽くした。けれども、室内に変わった様子は見られない。


「……失敗、ですか?」

()()か……」


 部長のため息と同時に聖海の視界が真っ暗になった。


「え!? 何!? ……うわっ!? 何かいる!!」


 自分の目を確認しようとしたら、目を隠している誰かの手と聖海の手が触れ合った。小さいながらも、岩のようにゴツゴツしている。人の手とは、また違う肌触り。


「失敗? リュウジン、失敗した事ないぞ! お前、失礼! 失礼な奴には、お仕置きしちゃうんだからな!! ──来雷来雷(らいらいらいらい)!!」

「あのバカッ!! えーすけ、結界!! 耐雷(たいらい)の!! 急げ!!」

「──″雷却(らいきゃく)″!!」


 雷鳴がゴロゴロと(とどろ)き、無数の稲光(いなびかり)が線香花火のように空間を駆け巡る。狭い教室で夕立のように激しい雷が鳴り、聖海たちが居るところ目掛け、いくつも稲妻が落ちていく。何とか、妖研メンバーは影助が張った結界により難を逃れたが、周囲にあった数々の机は見るも無惨な木屑や鉄屑と化していた。


「い、今のは何なんですか!? 」

「すまない。アイツは、まだ未熟者でな」

「いや、そうじゃなくて! 生き物(?)ですよね!? さっき触れた時、体温ありましたよ!?」


 何で紙から生き物が出てきたのか、あの生物は何者なんだ!? と、 聖海は混乱状態だ。


「そうなると思ったから、先に説明したのに。聞いてなかったの? 部長と風見さんは召喚師。【|()()()()】と戦うには、【()()()()】で対抗するしかない。……″(めつ)″」


 張った結界を解きながら、呆れ顔で影助は聖海を見つめた。影助の説明により、ますます聖海の理解は難しくなった。


 「アヤカシ? ……戦い? 全然わかんない……」さらに頭はグチャグチャと こんがらがっていく。難解な知恵の輪のように複雑に情報が絡み合う。こんな訳の分からない世界になぜ自分がいるのか、そう思った彼女の頭に祖母の声がした。


──お前は、()()()()


 そう、聖海は選ばれたのだ。もう平穏な日々には戻れない。この世界で生きていくしかない。聖海は現状と向き合うと、部長が呼び出した得体の知れない生物、【あやかし】に話し掛けた。


「……さっきは、ごめんなさい。あなたのお名前は?」

「オイラは、雷太(らいた)。雷神様の一番弟子だい!」


 緑の体にモコモコしたキャラメルカラーのアフロヘア、そこに小さな角が一本。天に向け、ちょこんと生えている。大きなツリ目で、イタズラっ子なのが顔に出ている。


「パンツ……トラ柄じゃなく、ヒョウ柄なんだね!」

「見習いは みんな、ヒョウ柄さ! トラ柄はベテランさんしか履かないよ! オイラも早く一人前になって、トラ柄パンツ履くんだ!!」

「へ~。雷様は、お洒落さんなんだね!」

「へへへっ! まぁな!!」


 嬉しそうに笑う雷太に聖海は優しく微笑んだ。そんな和気藹々(わきあいあい)とした二人の目の前に暗く重い空気を纏った部長が立っている。今にも雷鳴が(とどろ)きそうだ。



「……雷太、【式神の契約】を忘れたか?」

「ご、ごめんよ……リュウジン」


 ガックリ肩を落とし、申し訳なさそうに身を縮め、雷太は部長を見上げた。


「お前……これが戦いの場だったら、お前の身勝手が足を引っ張り、ここにいる全員──死んでるぞ」


 その言葉に聖海と雷太の顔が引きつる。


「戦いを甘く見るな。契約も、互いの命を預けられると信頼して結ぶもの。雷太……正直、今のお前に俺の命は預けられん。立花、お前もだ。俺達の一員になったからには、俺達 【全員分】の命を守れ」


 【全員分】……そこには、部長と風見が呼び出したあやかしたちの命も当然含まれている。妖研メンバーの強さの秘密は、ここにあるのかもしれない。全員が全員分の命を守る。容易な事ではない。だからこそ、誰かを思い、強くなろうと努力を続ける。その連鎖で、自身のレベルが上がるだけでなく、切磋琢磨した周りも一緒に力を付けていく。


 聖海も雷太も瞳の奥に闘士の火を灯した。


「リュウジンに認めてもらえる雷様にオイラはなるぞ!! じゃ、修行して来る! ごめんよ、リュウジン……。オイラ、頑張るから!!」

「フン。分かればいい。……しっかりやれよ、俺と契約を結んだからにはな」


 雷太は皆に手を振ると、ボフンッ!と白い煙と共に消えてしまった。寂しさ残る中、聖海は心の中で叫んだ。「私もやるぞ!!」と、力強く拳を突き上げながら。


「……他の詳しい説明は、お前の【型】が見つかってからにしよう。だいぶ、時間が過ぎたな。手短に活動報告を」


 「私の方は異常なし」と副部長は伝え、「……俺の方も」と影助が続いた。


「はーい、次俺ね!」


 挙手し、風見がニコッと微笑んだ。その顔に部長は、すぐさま「何かあったんだな」と気づき、先を急かせた。


「早く報告を」

「まーまー、慌てない慌てない!  本当、龍ちゃんはせっかちなんだから」

「無駄口叩いてないで、さっさと進めろ」

「はいはい」


 胸ポケットから小さな赤いノートを取り出し、パラパラと開いた。何やら大事な事が書かれているようだ。それを片手に風見は話していく。


「先日倒した蝦蟇蛙(がまがえる)のあやかし、あれ以来姿を見せておらず、清豊寺(せいほうじ)に異常なし! 気になったのは、祀られている地蔵さんたちが口々に 『【火車(かしゃ)】を見た』って言ってたこと」

「【火車】か……。今月に入って、二度目の目撃情報だな。墓に埋葬された死者の魂を喰らいに来たか、あるいは地獄の使いか……。どちらにせよ、今後も注意が必要だな。また新たな目撃情報があったら、報告を頼む」


 頷く部員たちに対し、聖海は話についていけず、口を開けたまま固まっていた。


「放課後、【本拠地】で会おう。【(からす)】が何か掴んだらしい。立花、お前は俺と来い。他の者は、これにて解散! えーすけ、結界の後始末よろしくな」


 「了解」部員たちは外を警戒しながら、空き教室から出て行った。


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