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六星高校妖怪研究部~ようこそ、妖研へ!~  作者: 望月おと
【ようこそ、妖怪研究部へ!】
16/22

違和感


 聖海の両親が住んでいる家は、駅から程近い場所にある。CMでお馴染みの大手建設会社が建てた白を基調とした10階建てのデザイナーズマンション。その一室をモデルハウスとして公開していたのだが、その空間をデザインしたのが聖海の母だった。


 父の仕事の関係で引っ越す事が決まり、その部屋をそのまま借りる事にしたのだ。有名デザイナーの頼み、また彼女にデザインしてもらった手前、断るにも断れなかったのだろう。(こころよ)く提供してくれた。


 玄関先のインターフォンを鳴らすと、鍵を解く音の後に母が出迎えた。


「おかえりなさい。あら、部長さん男の子だったのね」

「はじめまして。部長の雷です」

「……イカヅチ、さん」


 一瞬、母の顔が曇った。聖海は、それを見逃さなかった。部長と母は今日初めて会う。当然、【雷】という珍しい名字を耳にするのも初めて──のはず。それなのに、母は部長の名を聞いて嫌な表情を浮かべた。まるで、以前会ったことがあるかのように。……なにか変だ。聖海は母に違和感を感じていた。


「さ、どーぞ。……散らかってるけど」

「お邪魔します」


 靴を脱ぎ、スリッパに履き替え、母に次いで聖海と部長は奥へと進んでいく。リビングに続く扉を開けた時、衝撃の光景が聖海と部長の目に飛び込んできた。


「これでも片したんだけど……」


 足の踏み場も無いほど、散乱した白い紙。一見すると、泥棒に入られたような荒れっぷりだ。床に落ちている紙に目をやれば、様々な模様が入ったイラストが描かれている。


 複雑な曲線のみで描かれた椅子や机、花と草のツルが螺旋状に装飾されたドレスと帽子。その他にもさまざまなイラストがフローリングを埋め尽くしている。それを慣れた手付きで聖海は拾い上げていく。


「やっぱり、私が居ないとダメなんじゃない?」


 あっという間に紙の束がテーブルの上に積まれ、ようやく床が姿を現した。


「ありがとう。……でも、大丈夫。私も自立しなきゃ!! だから、あなたも自立なさい」


 母は聖海の両肩にガッチリ手を置き、聖海と部長を交互に見ると、静かに話し始めた。


「ここ数日、夢にお義母さんが出てくるの。『近々、あなたが家を訪ねてくるから、私の遺品を見せてあげて』って。そしたら、本当に来るって言うんだもん。ビックリ!」


 聖海と部長は顔を見合わせ、互いに首を傾げた後、再び母に視線を戻した。聖海だけでなく、母まで祖母の夢を見ていたとは、なんという偶然……いや、必然なのかもしれない。祖母は、一体──


 「お茶淹れるわね」と母がキッチンに向かうや否や、聖海は部長に小声で告げた。


「やっぱり、変です」

「何がだ?」

「姿は私の母ですが、中身は別人です」

「本当か?」

「はい。我が家では、おばぁのことは家族全員が【おばぁ】って呼んでるんです。客人相手でも母が呼び方を変えることはありません。……それに、部長と母は今日が初対面ですよね?」

「あぁ。それがどうかしたか?」

「部長が名乗ったとき、僅かですが母が嫌な顔をしたんです。誰と会ってもニコニコしている人だから、すごく違和感があって……」

「立花。──やっぱり、お前は【選ばれし者】だ。この短時間で、それだけのことに気づくとは。その大きな目は伊達じゃないな」

「褒められたのか、貶されたのか分からないんですが」


 「褒めてるよ」そう言った部長は今までに見たことが無いほど、破顔していた。完璧な笑みを前に聖海の心は壊れそうなほど、ドキドキと音を立てている。イケメンの不意打ちほど心臓に悪いものはない。部長から顔を逸らしたところで母がティーカップを三つ持って戻ってきた。


「紅茶よ。お口に合うか分からないけど、どうぞ」


 聖海と部長の前にカップが置かれた。「口をつけるな」と聖海に向け、部長が無言で首を振っている。このまま何も言わず、紅茶の湯気が立ち上るカップを見つめていては、母に怪しまれる。そこで聖海は母に「お茶は、また今度ね。早く帰ってきなさいって学校側から言われたの」と嘘をついた。


「そう、残念。もっと部長さんともお話したかったのに」

「すみません。またの機会にゆっくりお邪魔させていただきます」

「で、おばぁの遺品はどこにあるの?」

「案内するわね」


 母に続き、玄関とリビングを繋ぐ廊下に出て、少し歩くと左側に和室の(ふすま)が現れた。「この奥の部屋に用意しておいたから」聖海と部長の背後に母は回った。嫌な予感がする。そう感じているのは聖海だけでなく、隣にいる部長も同じだった。


「分かった。ありがとう! ……それじゃ、行きますよ! 部長!」

「あぁ。()()()()は出来ている。……立花」


 彼女の背中をバシッ!と軽く部長は叩いた。彼なりの無言の勇気づけ。それに対し、聖海も無言で頷き返した。


──ドクン……ドクンッ……。


 心臓が高鳴る。こんなに緊張したのは、いつ以来だろう。そんな事を思いながら、聖海は ゆっくりと和室の襖に手を掛けた。


──ドクン……ドクンッ……。


 この先に【すべて】が待っている。喉の奥がゴクリと音を立てたのを合図に一気に襖をスライドさせた。



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