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六星高校妖怪研究部~ようこそ、妖研へ!~  作者: 望月おと
【ようこそ、妖怪研究部へ!】
10/22

妖術師のルーツ ①

 聖海と出会った日のことを部長は思い出していた。──祖父が開催した妖術師の集会でのこと。


 三か月に一度の頻度で行われていた集会。場所は決まって雷家だった。たくさんの大人たちが訪れるこの日が部長は好きではなかった。大して自分に興味もないくせに、「また一段と大きくなられて」「さすがは会長の子孫!」並べられる社交辞令の言葉に霹靂(へきれき)していた。


 そんなある日。初めて見る顔が集会に来ていた。着物を身にまとった貴婦人と、彼女と手を繋いでいる少女。いつも通り、祖父の隣に部長はいた。


「君が封印師の──見るからに、天才の顔立ちだ。我が孫とは桁違い」

「そうでしょうか? 私には、あなたのお孫さんほど優秀な妖術師はいないように見えますが。【灯台もと暗し】というじゃありませんか。もっと、お孫さんを大事になさい。失礼」


 誰も逆らえないとされた妖術師会のおさであり、雷家当主のいかづち 龍生たつき。部長の祖父である。そんな人物に喧嘩腰で話した貴婦人。それが誰なのか、謎のまま。しかし、彼女が手を繋いでいた少女は十年以上経った今、目の前にいる。初めて会ったあの日、少女は屈託のない笑顔を部長に向けていた。今まで彼に向けられてきた笑みは、あからさまな【会長の子孫】へのご機嫌取り。しかし、この少女は違った。彼が何者かなど気にしていない。大人だらけの場所で自分と歳の近い子供を見つけ、素直に嬉しかったのだろう。


「どうかしましたか、部長」

「……立花。()()お前を天才だと思うよ」

「へ?」

「場所を変えよう。書物庫に妖術師の歴史や、俺たちがあやかしと戦う理由がある」


 「俺は、ここで帰るよ」九井は手を振り、別れた。部長に続き、妖研メンバーたちは書物庫へ向かった。それにしても大きな屋敷だ。どこぞやの小さな藩の城くらいあるのではないだろうか。歴史を感じさせる木の香りが屋敷内に漂っている。


 歩きながら、先ほどの不思議な光景について風見が聖海に尋ねた。


「なぁ。さっきのどうやってやったんだ?」

「さっきのと言いますと?」

「光る五芒星書いてたじゃん、アレ」

「あー……よく覚えてないんですよねー」

「は!?」

「なんというか、体が勝手に動いたというか……。ん!? ちょっと待ってください! 光る五芒星ってなんですか!?」

「立花が指で書いた五芒星が光ってたんだよ」

「え!? なんですか、それ!!」

「お前さ、もしかしたら【金曜】に生まれたんじゃないか?」

「金曜に生まれると、光る文字が書けるんですか?」

「さぁ……それは知らないけど……そうなんじゃね?」


 曖昧な返事をする風見に後ろを歩いている影助が言った。


「なに、そのバカみたいな回答。立花さんは、【五行説(ごぎょうせつ)】って知らない?」

「ごめんなさい、知らないです……」

「【五行説】っていうのは、陰陽道から来てて、木・火・土・金・水の元素で表す考え方のこと。例えば、水は真冬・北の方角にあたる。十二支を月名として古代の中国では用いてたんだけど、五行説と十二支の両方を合わせて、時刻もあてられたんだ」


 「さすが、ガリ勉のえーすけ! 難しいこともよく知ってるな!」いい子、いい子と言わんばかりに頭を撫でてくる風見の手を払い除けながら、「妖術師なら、これくらい知ってて当然だから。風見さん、もっと勉強したほうがいいよ。無知──いや、無能すぎるから」影助は冷たい視線を風見に突き刺した。


「妖術師のルーツは、陰陽師だからね。俺たちと彼らは、遠からず、近すぎずの関係なんだ。方角や月や星──考え方の根本的なところは、一緒だよ」

「なるほど……」

「五芒星は、五行説の元素の働きの相克を表したものなんだ。木は土に、土は水に、水は火に、火は金に、金は木に勝つ。五芒星は、あらゆる魔除けの呪符(じゅふ)とされている」


 「そうなんだ」風見と聖海の声が重なったところで、彼らは書物庫の前に到着した。牢獄のような無機質な鉄格子の入り口が不気味さを漂よわせている。現代では見慣れなくなった南京錠からも哀愁がする。心なしか体感温度がこの場に来てから低下したように感じる。あの世とこの世を(へだて)ているような、不思議な空間だ。


「足元、気をつけろよ。ここは地下の洞窟で薄暗い上に、岩肌が向き出ていて足場が悪い」


 部長が言った通り、入り口はゴツゴツした岩肌が地面から浮き出ており、足場が悪かった。だが、三人が両手を広げて歩けるほど道幅は広く、決して窮屈な洞窟ではなかった。


 少し歩いた先にログハウスのような小屋が現れた。そこが書物庫のようだ。彼らの到着に合わせ、小屋の中から漆黒を身に纏った年齢も性別も分からない人物が出迎えた。身長も165㎝ほど。その顔には【(からす)】と書かれた白地の布がぶら下がっている。わずかに見える桜色をした口元が動いた。


「御待ちしておりました。雷家に仕えます、【烏】と申します。この度は──」

「烏、挨拶はいい」

「承知致しました。では、皆さん。どうぞ、中へ」


 烏は声も中性的で男女の判別は難しい。風見は烏と何度も会ったことがあるようだが、彼も烏の素性について何も知らないようだ。


「相変わらず、中性的だねー。烏ちゃんは」

「いいんです、ボクはボクですから」

「その服装、飽きないの? 烏ちゃんなら、可愛い服装も似合うんじゃない?」

「ボクは烏ですよ? ピンクや赤を身に纏ったら、可笑しいじゃないですか」

「そうかなー? じゃあさ! 真っ黒な魔女みたいな格好やめて、ゴスロリチックなメイド服にしなよ! 絶対そっちのほうが似合うって!!」

「……それは……。はぁ……」


 「風見、烏をからかうのも大概にしろ。烏に【マーク】されるぞ?」部長が放った一言により、風見は口を閉じた。だが、今度は聖海が烏に声を掛けた。


「烏さんも式神なんですか?」

「そう、ですねー。でも、雷従さんとボクは違います。彼女は()()()()()精霊、ボクは【烏】です。と言っても、ボクに命の期限はありませんが。なんせ、ボクは──【あやかし】、ですから」


 そう言った烏の口元は儚げで、桜の花びらが風に舞い散る光景と類似していた。


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